オルに挑戦!
ーー話は少しだけ遡る。
俺の体を誰かが奪った。その結果、魂のような状態になっていた俺は、フヨフヨと城内を浮遊した挙げ句、オルの体へと吸い込まれた。
ガスターと『アンリミテッド』状態になっていたと思っていたが……なんで地下牢で眠ってたんだ?
「まぁいいや。それよりも、オル? 返事してくれ」
小声でボソボソと訪ねる。しかし、頭の中では返事がない。
………………鼾なら聞こえるんだけどなぁ~。
とにかく、返事をしてくれないオルはそのままにして、俺は上の階へと……
「うん? なんだこれ?」
行こうとしたところで、牢屋の壁に書かれた文字に気付いた。しかも、かなり懐かしい文字で書かれている。
「どうして日本語で書いてあるんだ?」
少しかすれているが、読めないこともない。
『エンマを封印するなら、オルの体の中にヒント有り』
……エンマって誰だよ?
とにかく、そいつを封印するヒントがオルの体の中にあるらしい。……解剖されるのか? 俺? というか、オル?
「ま、まぁ、いいや。も、もしかしたら、封印する必要もねぇかも知れねぇしっ!」
少しゾッとしたが、俺は今度こそ、牢屋から地上へと出ていった。
地下牢を出ると、魔王城の裏庭に出てきた。
戦っていたのは書斎のはずだから、ここからは見えない位置になる。ただ、戦っているような音が一切しない。
「どうも戦闘は終わってるみたいだな……」
俺の体は大丈夫なんだろうか? 凄く心配だ。
以前も大変な目に遭ったもんなぁ……。
「それでもっ! 貴様はメイドの端くれかっ!!」
静かな林の中に響く怒鳴り声。この声はクロノワールだな?
メイドの端くれ? 怒られてるのは、メイド隊の誰かなのか?
疑問を解消するべく、俺は声のする方へと歩いていく。
「なにが分かるだっ!!」
一方的に怒鳴ってるなぁ~クロノワール。
なにをそんなに怒るような事があるんだろうか。まぁ、十中八九俺の事なんだろうけど。
「この世界に突然呼ばれて! ボロボロになったあげく、簡単に棄てられるんだぞっ!? それのなにが『分かる』って言うのだっ!!」
完全に俺の事だな。あと「棄てられる」ってどういう意味だ?
「もしかして、エンマとか言う奴を倒すために、俺の体事殺すってことかな?」
そんなわけ…………………………………………
俺は無言で歩く速度を速めた。
そして、クロノワールの姿を捕らえたときには、凄くエロい女性に吹っ飛ばされていた。
あのままだと、いくらクロノワールが頑丈とはいえ、怪我で済まない。
俺はオルの小さな手を前に伸ばしてーー
「『バインドチェーン』!」
ーー金色の鎖でクロノワールを受け止めた。
「っで、今に至るわけだけど……その閻魔とかいう奴を封印すれば、俺の体は無傷! 無事生還ってわけだ!」
小さな体を大きく反らして胸を張る。
そんな俺にクサリさん(聞いたときは、マジで驚いた)が訪ねてくる。
「それで? どのように封印するのですか?」
「………………分からねぇ」
言った途端に溜め息が返ってきた。しかも、三倍。
「なら、なぜ封印できるとおっしゃるのですか?」
「いや、地下牢にな? オルの中に封印するヒントがあるって書いてあったからよ」
「では魔王様」
ずぅーーーっと黙っていたクロノワールが、ここに来て話し出す。……俺の両肩をガッチリ握っているのが凄く気になるが。
「服を脱い「却下だ!」でください! 体の隅々までお調べいたしますので!!」
こ、コイツっ!? 「却下」の2文字を亡き者にしやがったぞっ!?
「落ち着けクロノワール。そもそも、オルの中にヒントがあるって書かれてたんだぞ? 体の表面に、そんなヒントは無かっ「見たの?」た…………気がするんだよな!?」
ここで面倒なことに、カルラまで参戦してくる。
「ねぇ、魔王様? ……見たの?」
「み、見てない! 見てねぇからなっ!?」
デュランダルを俺の首元に近づけて尋問するカルラ。背中からはクロノワールが両肩をホールドしている。
お前らの仲良し具合に涙が出そうだよっ!!
「「さぁ……正直に答えてください。…………見たの?」」
「見てねぇから!!」
そう答えると、クロノワールが笑顔で
「それでは、確認した方が良いですね」
俺の服を切り裂いた。
もう心が限界だった。
クロノワールにズタボロにされた服は、クサリさんによって修復された。
「体にはなにも書かれていなかったな」
「うん。そうだね」
裸にされた俺は、二人によって体の隅々まで調べあげられた。
もうね。強姦にあった気分だったよ。今の俺、ちょうど女だし。
「意気投合しているところ申し訳ありませんが、オル様の内部……深層に眠っているのではないでしょうか」
「俺もそう思う……」
その意見をもっと早く言ってほしかったけどな。
「とにかく、1度オルの中を調べてみるよ」
それだけ言い残して、俺は瞳を閉じた。
「それで、国王はどうしたのよ? こっちに来てたんじゃないの?」
「知らん。魔王城に入るまでは確認したが、そこから先は全く分からん」
そんな私の一言で、クサリとリリアーデが額を押さえていた。おまけに溜め息まで付いている。失礼な奴等だ。
「……あの獣が国王ですよ。正確には、国王の封印が解かれたというのが正しいですが」
それを皮切りに、クサリは事の経緯を語り始めた。
クサリが初代魔王様と出会った切っ掛けであり、『魔王七つ道具』の誕生についてだ。




