初代魔王に挑戦!
縛られて動けない魔王様が、突然膝を着く。
「魔王様っ!? おい、いい加減にしろ!」
リリアーデを突き飛ばし、倒れた魔王様の側へと近寄る。
「魔王様! ただいま解放いたします!!」
私はそう告げ、魔王様を縛っている縄へと魔剣を当てるーーはずだった。
「なにを……」
縛られていたはずの……魔王様の腕が、……私の脇腹へと突き刺さっていなければ…………。
私自身。なにが起きているのか全く分からなかった。
突き飛ばされた私は、魔王の側にいるクロノワールへと視線を向けーー脇腹から大量の鮮血を噴き出していたのだから。
「クロノワールっ!?」
ーーバキバキバキっ!!
私が叫ぶのとほぼ同時に、今まで聞いたことのない騒音が後から、体を叩き付けるように襲い掛かってくる。
振り向けば、1面の壁が無くなっていた。
「ったく。起きるのが遅いんだよ……『魔王様』はよぉ…………」
続いて聞こえてくるのは、呆れたように溜め息と愚痴をこぼすガスターの声。
旦那の事を『魔王様』だなんて……呼んだことがないのに。
「……ってか、誰よっ!?」
恐らく……というより、喋り方や両手に持っている武器から、ガスターだとは思う。
だけど、容姿が全然違う。
耳にかかる事もなかった白髪は、腰の辺りまで伸びている。
耳は以前よりも酷く尖り、頭部からは角が生えている。
なによりも…………私より魔力が高い。
「無理を言うな。それに、お前が下手を打たなければ、我の眠りが延びることは無かったのだぞ?」
「それこそ無茶を言うなっての……」
ガスターと魔王ちゃんが話をしている。
ただ……それだけのことなのに…………
「なんなのよっ!?」
「うるさい小娘が……」
「あぐっ!!?」
私は、両手で首の辺りを触りながら、無理矢理立たされる。
近づくどころか、手を上げる素振りすらしていないのにっ!?
「おいおい、こんなのを殺すなら、俺に任せてくれよ?」
「なに。この者も、我の復活に協力したのだろう? ならば、『初代魔王』である我が、褒美代わりに殺してやるだけだ」
誰が…………
「「誰が初代魔王様ですかっ!」……え?」
誰かが後ろにいる。その人影に気付いた時には、私は地面へと倒れこみ、酷く咳き込んでいた。
「…………誰よ?」
またもや知らない人物。着ている服は、私も着たことのあるメイド服ーーあの人が恥ずかしいと言いながらも、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていたーー魔王メイド隊の制服である。
それを着ている女は、私の方へと視線を向けずに話し掛けてくる。
「大丈夫ですか? 奥方様」
この呼び方。声色は少し違うものの、冷たく切り離したような呼び方は、1人の人物をすぐに連想させた。
「クサリ……なの…………?」
「はい、そうでございます。詳しい説明は、後程させていただきます」
それだけ言うと、私より大人びたクサリは、両手の握り拳を豊満な胸の前で構える。
「誰かと思えば……裏切り者じゃねぇか…………まさか、パチもんのメイドになってるとは思ってもなかったぞ?」
「黙れ、ガキ。魔王様を侮辱するのは、例え魔王様ご自身でも許さんぞ?」
身体中の魔力を高める2人。『サーチ』を使わなくても、ここに居るのは躊躇うほどの魔力だわ。
「ガスター……下がるぞ」
「おいっ!? なに言ってやがるんだっ!? 絶好の「我に逆らうのか?」……ちっ」
舌打ちすると、ガスターは床を拳銃で撃ち抜く。
着弾した地点から魔王ちゃんの居るところまで、紫色の光で包み込まれ、……その場から消え去った。
私は、その様子をただ眺める事しか出来なかった。
「そ、そうよっ! クロちゃんっ!!」
「私……ならば…………はぁはぁ……」
全然大丈夫じゃないじゃないっ!?
「待ってなさい! 今、治癒魔法をかけるから!!」
死にそうなクロノワールを黙らせて、私は黙々と治癒魔法を使用し続けた。
これから、どうなるのよ………………。




