魔王様の救出に挑戦します!
「こんなのに……どうやって勝てばいいのだ」
床に座り込んでしまった私は、獣に殺られると覚悟を決めている最中だった。
いや。精霊である私はまだいい。恐らく、魔王様のお体に戻ることになるだろうからな。
だが、リリアーデは違う。
死ねば2度と会うことが出来なくなる。
魔王様を拉致した人物でもあるが……私の親友だ。死んでもらっては困る。
「グリモワール……力を貸してくれ…………」
家宝の剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がる。
だが、脚に力が入らない。
「つまらねぇな……」
獣は唸るような声で呟くと、私の肩を軽く押して、横を素通りしていく。
たったそれだけなのに、私はその場で崩れ倒れてしまった。
「ま、待てっ!」
獣は、叫ぶ私を無視して、上の階へと上がっていってしまった。
この上は、魔王様が捕まっている書斎だ。
如何にガスターが強かろうと、アレに勝てる筈がない。
「リリアーデ、動けるか?」
「無理よ……」
だろうな。
最上級魔法を放った直後だ。魔王様のように無限大の魔力を所持しているのであれば、すぐに動けるであろう。
だが、リリアーデは普通の魔族だ。
「……くそっ!!」
今の私では、震える右手で床を叩く事しか出来ないのかっ!?
「カルラっ! なにがあったのっ!?」
魔王城へと着いたはいいものの、廃屋のようになっている城を見て、すぐそばに居た娘へと尋ねる。
「ママ!? クサリんがっ!! クサリんがっ!!!」
「大丈夫よ。まずは、落ち着きなさい」
「クサリんが、ボヨンボヨンのスベスベになって、何処かに行っちゃったの!?」
この時初めて、我が娘の頭を心配になったわよ。
娘が落ち着いたところで、なにがあったのかを詳しく聞いた。
私がこっちに着く30分ほど前に、メイドが魔界へと向かったみたいね。
「それなら入れ違いになってもおかしくないのに……」
魔王城の門は機能しないみたいだから、あとは、あたしみたいに陸路を進むくらいしかない。
最短距離で移動をしているならば、私とすれ違うはず。
「でも、クサリん。自分で門を開いて魔界に向かったよ?」
「……あのメイド、そんなに体内魔力があったかしら?」
以前会ったのは、半年以上前のことだ。
成長しているって言われれば、それまでなんだけど……。
「とにかく、あたし達も魔界に向かうわよ」
事の真相を確かめるべく、あたしはカルラの腕を引いて魔界へと引き返した。
「こいつ……誰だよ…………?」
両腕を後ろで縛られたままの俺は、隣にいるガスターへと聞く。
「知るかアホ。お前の仲間じゃねぇのかよ?」
「こんな獣が、仲間にいた覚えはねぇっての……」
階段を登ってきたのが、クロノワールか、国王だと思ってたのだが…………
「おうおう……そっちの白髪頭の方が殺りがいがありそうだなぁあ!!」
こんなチンピラのような喋り方のライオンなんて、知り合いに居ない! 心当たりもない!!
「ちっ。俺をご所望かよ」
「手伝って「要らねぇよ、雑魚」…………」
無性にチンピライオンを応援したくなってきたぞ。
だか、俺が応援するまでもなく、チンピライオンは半端ない強さを見せた。
「オラオラオラオラッ!!!」
「ちっ! うるせぇ咆哮だなっ!!」
拳銃で魔力の弾を打ち続けるガスター。
全弾命中しているものの、ダメージを受けている様子がない。
「オラッ!!」
腰回りほどある左腕を振り抜く獣。ガスターは、紙一重で避けるものの、凄まじい風圧でふらついてしまう。
「このやろう……!」
明らかに力量差がある。
このままガスターが負ければ、俺は解放されるんだろうか。
「魔王様っ!」
台風のような戦いが繰り広げられている最中。呼ばれたような感じで、階段の方へと視線を向ける。
「クロノワール!!」
満身創痍という状態のクロノワールが、剣を杖代わりにして階段を登りきる。後ろにはリリアーデさんの姿。
2人は攻撃を食らわないように縁を進んでくる。
「魔王様! ただいまお助けいたします!!」
「させると思う?」
「リリアーデ!? ここまで来て、私の邪魔をするのかっ!?」
「旦那が生き返るかもしれないのよっ!? 邪魔するに決まってるじゃないっ!!」
……訂正。取っ組み合いをしていた。
『実に微笑ましい光景じゃないか……』
不意に目の前が暗くなるまでは、確かに同じ感想を抱いていた。




