久しぶりの魔界に挑戦!
気絶させられた俺は、どこかの地下牢に放り込まれていた。
両手両足は、頑丈な縄で縛られている。そのうえ、見張りにシェリーさんとレムちゃんの2人。
残り2人のメイドさんも、姿を見せていないけど、どこかで見張っているんだろう。
「……初代魔王と俺を捕まえることに、なんの関係があるんだよ?」
「………………」
檻の外にいるシェリーさんへと疑問をぶつけるが、そのままスルーされる。
ガスターが言うには、初代魔王の復活がどうとか言っていたから、それに俺が関係していると考えられる。
というか、無関係なら、こうして捕まえられている訳が分からない。
……バカ王は大丈夫だろうか。ガスターの奴、意外と強いからなぁ。後は、魔王城に居る人達か。何もなければいいんだが。
そんな心配事をしていると、数ヵ月前まで顔を合わせていた魔界の魔王城の城主が現れた。
「やっほー」
「なにが、やっほーだよっ!?」
リリンさんだ。相変わらず陽気そうで、心配事が吹き飛びそうだ。
「あらあら、連れないわねぇ。久しぶりの再会だって言うのに」
「檻の中じゃなかったら、こんなに邪険に扱ってねぇよ!?」
まぁいい。こんな文句を垂れ流していても、出られない状況に代わりはない。
「なんで、俺を捕まえたんだよ? 今がどういう状況か、知ってるだろ?」
シェリーさんとはニュアンスを変えて、リリンさんへと問う。
「そうねぇ~大陸の方は大変そうよね」
まるで他人事だ。リリンさんは、そんな口調でさらに続ける。
「でも、知ったこっちゃないのよ。私にとっては、家族の方が大事なの」
「………………」
口調や表情は変わらない。
ただ、異様に冷たかった。
触らなくても、鳥肌がたった感覚がはっきりと分かるほどだ。
「……大陸にだって、家族を大事にしている奴はいるんだぞ?」
「えぇ、そうでしょうね。だから何?」
リリンさんは、檻の中へと入り、俺の胸ぐらを掴みあげる。
俺の目線を真っ直ぐに覗きながら、さらに続けていく。
「私には、家族を棄てて、見ず知らずの家族を護れって?」
リリンさんの握っている手が、どんどん力を増していく。
「死んだ旦那を忘れて、顔すら分からない人間のために戦えって?」
首を徐々に締め上げられるが、俺は抵抗する事さえ出来ず、酸素を求めて口を動かす。
「それなら、魔王なんて役職。投げ捨ててやるわよ!」
「づっ!!」
最後の言葉と共に、俺は地面に投げ捨てられる。
咳き込んでいる俺をそのままにして、リリンさんは俺の前から姿を消した。投げ捨てるのは、役職だけにしてほしいところだ。
「……って、母親は言ってるけど、シェリーさんはどうなんだよ」
息を圧し殺すようにして俺とリリンさんとのやり取りを見ていたシェリーさん。
顔を俯かせながら、俺の問いに応えてくれた。
「……私は、奥方様の命令を利くだけです」
と。それだけを言い残して、階段を上がって行った。
「だったら……」
そんな苦しそうな顔をするなよ。
彼女が遠ざかっていく足音だけが、地下牢へと響き渡っていた。
「葵ッチ……大丈夫かな?」
向こうは2人。あたしも戦っていたなら、丁度1対1に持ち込める。
でも、クサリんを守りながらになるから、こっちの方が不利。その点にすぐ気付いて、あたしとクサリんを別の場所に移動させた葵ッチは、相当スゴい。
魔王様の話では、元の世界では、平凡なおーえる? って言ってたけど……
「葵ッチで平凡なら、スペシャリストなおーえるなら、一国を滅ぼせちゃうかも……!?」
……そう考えると、少し鳥肌がたった。
とはいえ。
葵ッチのお陰で、魔王城の城下町ーーもっと正確に言うなら、緊急避難先として用意された宿屋の一室に飛ばされた。
クサリんは、備え付けられたベッドの上で、死んだように眠っている。
「早く起きて欲しいところだけど……」
むしろ、今は目が覚めない方が幸せなのかな?
答えのない疑問に頭を悩ませていると、扉が激しくノックされた。
あたしはデュランダルを構えて、その扉を睨む。
この感じ…………
部屋の外にいる気配に心当たりを覚えていると、その扉は吹き飛ばされてしまった。




