初めてオーディンに挑戦します!
もう3月も終わり、新年度が始まりますね……(シミジミ)
アカネを捕獲してから、私は迷うことなく魔王様の元へと駆け付けることが出来た。
途中で壁が、大きく崩れていたからだ。
魔力の痕跡が無いということは、体長5メートルを越える巨人か、魔王様の仕業に違いない。そして、後者の方が確率として高い。
……そもそも、そんな巨人は、もうこの世に存在しないからだ。
私は何の迷いもなく、瓦礫を飛び越えて、新しく出来た通路を走り出す。
頭の中にあったのは、魔王様の元へと速く戻ることだけだった。
真新しい通路を進んでいくと、何故か外に出た。
神界の大陸は、大理石のような石で出来てるのか……。
何故か苛ついた私は、左腕を剣状に変形させて、地面を傷つけながら走った。
恐らく、このまま真っ直ぐ進めば、魔王様に会える。乙女の勘ってやつだ! 間違いない!
ガリガリ言わせながら走っていくと、肉を叩き付けるような音が聞こえてくる。
誰かが戦闘を繰り広げているのだろう。
「……魔力は1つしか見当たらない」
片方は魔王様と仮定して良さそうだ。となれば……
全く動いていない魔力は、神界の誰かということになる。
魔王様の戦闘スタイルならば、敵がよほど強くない限り、今のように1ヶ所に留まることなど不可能だ。
そこまで思考を働かせた後に……急激に怒りが込み上げてきた。いや。よく考えれば、この怒りは湧いて当然のモノだ。
「オーディン……!!」
怒りに身を任せ、私は足を動かした。
私のーー
愛するお方をーー
2度も殺させてーー
「なるものかっ!!」
クロノワールの姿を捉えたのと、俺の体が消滅したのは、ほとんど同時だった。
不幸中の幸いだったのは、俺の本体であるミカエルの体に戻らずに、クロノワールの方に移れた事だろう。
『おいっ! 正気を保てよ!?』
問題は、クロノワールが怒り狂っていることだ。
こんな状態じゃ、仮に万全だったとしても、勝てるわけがない。
「私は正気です! 魔王様!!」
……本当に正気だったら、大技連発して体力を消耗しねぇだろうに。
クロノワールの体に退避させられた俺は、暴れ来るって大技を連発した挙げ句、体力も魔力もギリギリのクロノワールへと警告する。
おまけに。オーディンには、傷1つない有り様だ。
『いいか? とにかく、この爺さんを足止めするのが目的だからな?』
もちろん。ここで倒せるならば、倒しておきたいってのが本音だ。だが、現状はそれも厳しくなった。
だから、方針を足止めに変更。オーディンの爺さんをここで食い止めておくことに全力を注ぐ。……難病持つかなぁ。
「言われなくとも、分かっております!」
……秒も持てばいいんだけど。
『いいか? とにかく、この爺さんを足止めするのが目的だからな?』
何故だ。
憎き仇が目の前にいると言うのに、魔王様はやけに弱腰だ。
魔王様は、自分を殺した相手が憎くないと言うのだろうか?
私には分からない。だが、私は応えるしかなかった。
「言われなくとも、分かっております!」
『なにも理解していない』という事実を。
両手を剣のように魔力でかため、白髭の老人へと向ける。
「ホッホッホッ。今度はどうするのかのぅ?」
『黒龍剣劇』を余裕綽々(しゃくしゃく)で避けた老人。
少なくとも、あの複雑に動く刃を簡単に避けたのだ。今の私では勝てない。
普通に戦ったのであればの話だが……。
「刺し違えても、ここで殺します!」
『おいっ!?』
私は補修したばかりの剣の形をしたペンダントを右手で握り、力一杯に引きちぎる。
魔力で修正した紐は、私の腕力によりブチブチと悲鳴をあげる。
「『グリモワール』!」
引きちぎったペンダントは、小さな果物ナイフへと姿を変えた。
その様子に、老人は簡単の声をあげる。
「ホッホッホッ。グリモワールの使い手かのぅ。これは本気で楽しめそうじゃ!」
「そのままポックリ逝ってください!!」
全ての魔力を魔剣に流し込み、右下から左上へと振り抜く。
相当接近していなければ、当たらないはずのナイフは、老人の肩をかすめた。
「ホッホッホッ。荒ぶっておる割りには、なかなかな精度じゃのぅ」
ちっ。どうやら、冷静なつもりでいただけのようだ。
身体中の魔力が抜かれ、冷静さを取り戻しつつある私は、そう判断できた。
『クロノワール……』
「分かっております」
心配する魔王様に対して、静かに呼吸するように応える。
その後、深呼吸をして魔力を整える。
『魔剣グリモワール』の特性上、どうしても魔力消費が激しくなる。今は、魔王様のお体に通じているているから問題ないが……今の一撃で、私は動けなくなっていただろう。
それだけの魔力を注いだのだ。コントロールもなにも無いに決まっている。
「ホッホッホッ。ほれ、休んどる場合じゃないぞ?」
老人が人の悪そうな笑みを浮かべては、左人差し指を突くような仕草で伸ばしてくる。
『クロノ「分かってます!」』
魔王様へと短い返事をし、私は右へ軽く跳ぶ。
私の顔があった位置には、陽炎のような空気が震えた様子が見える。高密度な魔力が通りすぎた跡だ。
「ホッホッホッ。ほれほれ、呆けとる場合かの?」
次々と指を突き刺してくる老人。
こんな高密度な魔力を、指で指すという行為で生み出している。……そんな化け物相手に…………初代様は御一人で闘っていられたのか。
『クロノワールっ!』
「っ!? ぐっ!!?」
右肩に、アイスピックで貫かれたような痛みが走る。
刹那の考え事すら許されないのか!?
『大丈夫か!?』
「問題ありません!」
右肩から黒い煙が上がる。アカネとの格闘で、それなりに魔力を消耗している体だ。
後……数回。ダメージを受ければ、回復できずに魔王様のお体へと戻ってしまう。
あのお喋りも、今は手を離せないはずだ。そうなれば、何も出来ずに魔王様が殺されてしまう。
「……分かりましたよ」
いくら脳筋と言われる私でも、こればかりは理解できてしまう。
「『魔剣グリモワール』!」
『おいっ!?』
覚悟を決めた私は、魔王様の問い掛けを無視して魔力を高めていく。
「ぐっ! ぬぅっ!!」
その間にも、老人は弄ぶように、私の体に穴を開けていく。体は本当にギリギリだ。
いや……消えるか消えないかのギリギリで遊んでいるのだろう。なんとも質が悪い老人だ!
「ホッホッホッ。もうそろそろ限界かの?」
口を開いたかと思えば、老人は私をバカにしたように言う。だが、その通りだ。
後一回……いや。後一歩動けば、この仮初めの体は、黒い煙となって消えるだろう。
だからこそ!
「この一げ」
口を開いた私は、老人の前から跡形もなく消え去った。
最後の最後に何があった!?




