神界に再挑戦(リベンジ)!
地下牢のような場所から、だだっ広い大広間へと歩いてきた。
地上では、俺が全くもって歯が立たなかった爺さんが、顎をポリポリ掻きながら立っていた。
「ホッホッホッ。あんまり年寄りのおもちゃを持って行かんでくれんかのぉ?」
「……人をおもちゃ扱いするんじゃねぇよ」
自然と怒りが込み上げてくる。
今の俺は、魔力で作り上げた仮の肉体だ。一週間前みたいに爺さんから一方的にボコボコにされても死ぬことはない。
安心……は出来ねぇが、それでも緊張は幾分か解れている。
「ホッホッホッ。そういや、小僧のような娘に会ったぞ?」
「っ!?」
姉さんのことかっ!?
爺さんがここに居るってことは……
「まぁ、途中で邪魔が入ったせいで、最後まで遊べんかったがのう」
「………………」
俺は安堵しながらも、両手の拳を堅く握った。
邪魔が何を指しているのか気になるところだが……今は目の前の爺さんに全力を出す!
「ほれ若造。たった1週間でどれほど成長したのか見てやるわい……」
「なら……遠慮なく行かせてもらう!」
30メートルほどの距離を一気に詰めて、左拳を叩き付ける。格好的には裏拳だ。
そのまま『轟小砲』を撃ちたいところだが、あいにく、あの技は魔力の制御が難しい。
慣れてきたとはいえ、1割りほどミカエルに手伝ってもらって、なんとかモノになっている状態だ。この爺さん相手なら、使うだけ無駄に終わる。
案の定。爺さんの方も、片手どころか、指一本で止めてくる。
「『剛脚』!」
俺は体をひねり、爺さんの脇腹に蹴りを入れる。
たが、これも簡単に、片手で防がれる。遊ばれているように感じる始末だ。
「ホッホッホッ。それで終わりかの?」
そんなわけーー
「あるかよ! 『風の羽衣』!」
全身を鎌鼬が覆う。それに合わせて、爺さんは俺の足を防いでいた手を引いて、人差し指で俺の顔を突こうとしてくる。
「ほれ」
ゆっくりに見える動作だが、俺は勘づいていた。爺さんの指から伸びている針のように鋭い魔力が、俺の眼を狙っていることに。
「『暗黒の鎧』!」
『風の羽衣』を解除して、すぐに真っ黒な炎を身体中に着込む。魔力の針は、案の定、俺の顔を貫いていく。
残酷なほど正確に、俺の両目は使い物にならなくなっていただろう。
「『剛打』!」
敵の攻撃をすり抜けさせた俺は、ゆっくり地面へと落ちていく姿勢のまま、無理矢理に右拳を突き出す。
今度は当たったような、肉を叩く音が部屋中を木霊する。
「甘いのぅ~」
当たったのは事実だが、爺さんはガッチリと左掌でガードしていた。
その手を握り、俺を降り投げる。
「なっ!? ぐっ! ふぅわっ!?」
上空へと投げられた俺は、姿勢を整える前に爺さんの拳を受け、さらに地面へと叩きつけられる。
激流に流されたみたいに、身体中を殴打される。
「ほれ。若いんだから、さっさっと立たんかい」
爺さんに首を掴まれては、再び上空へと投げられた。
なんで、さっきから、この爺さんの攻撃が当たるんだ!?
痛みで朦朧とする意識の中。その疑問だけが、頭の中で走り回っている。
『暗黒の鎧』が解除されてるわけでもないのに、凄まじい攻撃を受け続けている。
鎧の効果が全く無いわけではない。事実、さっきの針のような攻撃は、俺を通りすぎていった。
「ぐぶっ!?」
口から赤黒い小さな塊を吐き出す。
「ふむ。たった1週間じゃ、またまだ楽しめんのぅ~」
なにが楽しめないだっ! ふざけやがって!!
「なめるんじゃねぇよ!」
爺さんが左腕を伸ばしたところで、俺は両腕でガッチリと握り込む。
腹にねじ込まれるように叩き付けられたダメージは、そのまま体全身を軋ませるように痛めつけてくる。
そして、俺はその状態のまま、全身の魔力を両腕から爺さんの腕に叩き付ける。
「『轟砲』!!」
理論上最強の技を俺が、爺さんの左腕に叩き込む。
そうダメージ量だけで言えば、割に合わない攻撃だが、それでもダメージが通ればとりあえずOKだ!
そう考えていたのだが……
「ホッホッホッ。魔力が足りんようじゃの? ほれ」
バンッという破裂音が、俺の両腕から聞こえてくる。
その直後に、真っ赤な血が両腕から吹き出してくる。
まるで、水風船が破裂したような……そんな感じだと、他人事のように思ってしまった。
それが、俺の両腕だと気付いたのは、クロノワールが頭の中で教えてくれたからだった。
1週間でとんでもないバケモノに勝てるわけがないですよ。
勝てたら、そっちの方が化け物でしょ?
とはいえ、さて。どうなる!?
3代目魔王!




