久しぶりの神界に挑戦ですね
壁を殴りながら来た道を戻っていくと、壁がスコーンっと気持ちよく抜け、通路が出来た。
「そして、今に至るんだが……」
今度は、壁一つない地平線のような広間にぶち当たった。正直、どう進めばいいのか迷って、逆に足が止まってしまう。
『ここは、兵士たちの訓練場ですね』
「こんなでっかい広間がか?」
床は大理石。天井には青空という、なんとも不思議な空間で、大勢の兵士が武器を振り回して訓練していたと頭の中にいるミカエルが説明してくれる。
『となりますと……もう少しで目的の場所に着けるかと思いますよ?』
「………………」
お前の思いますよ? って、意外とあてにならないんだよなぁ……。こんなこと、本人に向かって言うと泣きだすから言わないけど。
「はぁ~……」
俺は胸に溜まった不満を吐き出して、地平線へと一歩を踏み出した。
だだっ広い土地をひたすら歩く。歩く……本当に歩くだけ。
「……どんだけ広いんだよっ!?」
壁も何も! 全然見えねぇよ!
しかも急いでいるって言うのに、歩かないとダメって、意味がわからねぇし!
『イライラしていても仕方がありませんよ?』
っと、イライラしている俺にミカエルは落ち着くように促してくる。
「だけど! この部屋に入ってから2時間も歩いてるんだぞ!? 敵地のど真ん中で、こんな悠長なことしてていいのかよ!?」
『ですが……3代目、正面に敵ですね。幹部クラスです』
やっとというか、なんというか……
「来るの遅くねぇかぁ?」
俺は、目の前に現れた2人の男に挑発するような口調で告げる。
まぁ、挑発だけじゃねぇけどな。いくら俺が察知し難くても、俺以外の面子も来てるんだから、一人くらいは現れてもいいって思ってた。
だけど……神界に入ってから3時間経って、一人だけって……ここの管理がいかに酷いことか。
「……貴様が魔王か」
「あぁ……そうだよっ!」
先手必勝!
俺はブカブカな袖の服を着た男へと、一気に距離を詰めて右拳を突き出す。
全身の魔力を一気に相手へと叩き込むっ!
「『轟小砲』!」
ゆらりと地面に倒れ込むように崩れ落ち始める男。
『3代目っ!』
しかし、頭の中のミカエルが叫ぶ。理由は分かっている。
今放った技が、不発したからだ。
「あぁ! ちくしょうっ!!」
倒れる演技まで見せた男は、よれよれの袖を俺の方へと持ち上げる。
そのブカブカな服の中から鈍い光が見える。それを視認したのと同時に、俺は左へ軽くジャンプする。
俺が立っていた位置に紫色の針が飛び出し、石の地面へと突き刺さる。
突き刺さった箇所からは、白い煙を吹き上げながら床を溶かし始めた。
『あれは毒ですね。マルリルで出来た床を溶かしているので、相当、強力です。気を付けてください』
ミカエルが冷静に判断しているなか、俺は2発目を繰り出そうと、一定の距離を保ちながら魔力を右腕に集中させる。
必要最低限の魔力が充填出来たところで、一気に距離を積める。
「『轟小砲』!」
さっきと同じように、右腕を突き出してブカブカな服の男へと当てる。
「どうやら、今度も不発のようだな」
今度は倒れる芝居すらしないで、腕を俺の方へと持ち上げてくる。
「いいや。どうやら……成功したようだぞ」
ニッと笑う俺。
それを不快に思ったのか、男は俺の顔へと狙いを定める。
その次の瞬間。
『ぶふぉっ!?』
ブカブカな服を着た男は、後ろへと引っ張られるように吹き飛んでいく。
上空に舞うようにして吹き飛ばされた男は、見えない壁にぶつかり、さらに圧迫されている。
体内の魔力を一方方向に流し込んだから、後ろに吹き飛んだし、障害物に潰されるようとしてるんだ。
軽く説明しておくと、この『轟小砲』は、『威圧』の応用だ。
通常。体内の魔力は、血と同じ様に身体中を一方方向に流れていく。
その流れの向きを無理矢理別の方向へと転換させるのがこの技だ。
ちょっとややこしいが、男が後ろへと吹き飛んだのは、全身の魔力が背中へと向かって流れたからだ。血管だとかを無視してな。
『そして、壁にぶつかったとしても、体内の魔力には関係ありませんから。あのように』
俺が説明しているところで、ミカエルが口を挟んでくる。
せっかくの機会なのに……横取りしやがって。
『肉体を押し潰しながら、魔力だけが抜けていくのです』
今では、なんとか人の形に見える男の姿を指差しながら、口を開いた。
『轟砲』ってのは、これの上位版ってところだな。
「それで……次はどっちに行けばいいんだ?」
あっさりと敵を倒した俺は、ミカエルへと訊ねる。
『あそこが壁ですから、アレを壊しましょうか』
「………………」
意外と過激なんだよな……こいつも。




