初めての大きな仕事に挑戦!
「その、やってほしいことってのは?」
現在、俺 棚部 亮は、国王と同盟交渉をしていた。俺から持ち掛けたのではなく、向こうから持ち掛けてきた話なので、何かあると聞いたら、お願いをされた。
『ペルン』の館のリビングで、テーブルをはさんで各領土のトップが会談していた。
真顔の国王が、かなりの間を空けて言い放つ。
「…………『勇者領』の領土を一部、落としてほしい。」
「「「「…………。」」」」
同じ部屋にいた4人が、「何言ってんだ、こいつ」って目で国王を見ていた。
ってか、そっちの二人までそんな目で見ちゃダメでしょ!
「ここに落としてほしい領土のリストがある。」
そういいながら、国王は、1束の紙を渡してくる。
「…………かなりの数あるけど、これを全部か?」
ざっと見て70くらいの領土が書かれている。
「『同盟』を組む前に力試しとして、1ヶ月で5ヶ所以上の領土を落としてほしい。」
「なぜですか?」
一緒に聞いていたクサリさんが、疑問を口にする。
「……理由を知りたいかい?」
さっきまでの国王とは思えないくらい、声のトーンが下がる。
「…………はい。」
緊張しながらも俺が、口にする。
すると、少し思案した国王は、3つの理由を口にした。
「一つは、君たち『魔王領』の力を知るため。一つは、私の領土管理では、現状の領土数は多すぎるため、そして、これが一番重要だが、」
あまりのために、ゴクリと、生唾を飲み込む。
「……『姫騎士領』に対抗するため……。」
ここで、簡単にこの世界につての説明をしようと思う。……俺の復習を兼ねてのものだ。
まず、この大陸は、たくさんの国に分かれている。そんなたくさんある中でも、特に大きな国が3つある。『勇者領』の本領でもある大国『アペンクス大国』。『魔王領』の本領でもある『デ・アモン国』(そんな名前だったんだ……)。『姫騎士領』の本領である『聖都フィノ・ベルン』。この3つと同盟だとか友好関係だとかでできた連合国のことを『領土』という単位で呼ぶ。この領土を3つの勢力のどこに属するかで例えば『魔王領』の『ペルン』なんて呼ばれ方をすることになる。そして、さっきも上げた3つの領土でせめぎあいが発生しているということだ。
『勇者領』、『魔王領』、『姫騎士領』。もともとは、『勇者領』と『魔王領』の二つだけだったが、『魔王領』の縮小と『勇者領』内部での『領土の分離』により、新興勢力として『姫騎士領』が誕生した。
現在のパワーバランスは、『勇者領』と『姫騎士領』が五分五分で、『魔王領』は、魔王城のある領土一つだけとなっていた。
……ここまでが、俺が召喚される前の状況。
そして、召喚されてから、『勇者領』の一つ『ペルン』が、弱小の『魔王領』に落とされた。
落とした領土も落としたタイミングもまずかったらしい。
領土のレベルは、『勇者領』の中でも中の下くらいで、新領主の様子を伺っているタイミングだったため『勇者』が派遣されていたらしい。
しかも、5千人の兵士をたった17人のメイドと魔王で倒したため、よけいに状況が悪くなったとか……。
「これを聞いた『姫騎士領』が、『魔王領』と同盟を結ぶ前にこちらが先に同盟を結ぼうと考えたわけさ。これが、3つ目の理由だ。」
理由は、分かったが、それでも腑に落ちない点がある。
「『姫騎士領』に直接同盟を結ぶことは、できないのか?」
「残念だけど、それは難しい。」
「『姫騎士領』は、もともと我々『勇者領』の領土であったのだけど、思想の違いにより、『領土の分離』を起こしたのよ。」
近衛兵の女性が、しぶしぶ自領のと『姫騎士領』との関係をいう。
「分離したなら、また元の戻せないのか?」
「どちらかの思想を変えなければ、元に戻ってもまた分離するだけだ。悪戯にそんなことをするよりも、『魔王領』と同盟を結んで少しでも脅威を減らした方が得だと思うんだ。」
「……ちょっとタイム。」
また、クサリさんを呼ぶ。勇者領の3人が、「またかい?」といった目線で見てくる。……そうだよ、まただよ。こうなったら何回でもとってやるよコンチクショー!!
「クサリさん。正直なところどうだと思いますか?」
「はい、魔王様。あれらも理由だとは思いますが、それ以外にもある可能性がございます。」
クサリさんも少し怪しいと思っているようだ。
「それと、俺らで最低でも7つは、領土を管理しなければなりませんが、その点は可能かな?」
「……正直、無理ではないかと思います。領土管理能力としては、あと2つか3つが限界でしょう。」
そう、領土が増えた場合はそれを管理するだけの能力がいる。頭数がそろっているならば問題ないだろうが、現状の『魔王領』では、メイド隊15人とクサリさん、それから俺の全員で17人。正直、2つでパンクしそうなくらいなんだから、さらに5つを1ヶ月で増やすとなると管理が難しい。
「……この同盟。けっちまうか?」
「私は、まだ、時期尚早だと思います。」
「よし!作戦会議終了で。」
「それで、同盟の件だけど、どうだろうか?」
余裕綽々(ようゆうしゃくしゃく)といったようすで問われる。
「……いい話だと思うが、無理だ。現状の魔王領では、領土7つの管理は、難しい。」
「……たかだか7つの領土を管理できないのかい?」
そんな安い挑発に乗ってたまるか!
「あぁ。管理できる人数が少ないんだよ。こっちは。」
「ふーん。それは困ったね。…………メイド隊では、管理できないのかい?」
俺は、国王の質問をクサリさんに目で問う。
「現状では、難しいです。管理できても2つか3つでしょう。」
「ということだ。」
クサリさんの説明を聞きながら、思案顔になった国王が、
「ならば、此処にいる二人を一時的に領土管理のため、貸そうじゃないか。」
…………。そんなに自分の領土を落とさせたいのか?
ただ、女性の方がヒステリックになっている。
「国王様!何をバカなことを、言うのですか!!」
「あれ?ブリッドは、管理学でも大変優秀だったときいたのだが?あれは、嘘だったのかな?」
「……いえ、主席で卒業したので間違いではないと思いますが、ですが!」
「なら、失敗を恐れているのかな?勇敢なブリッド君は?」
「…………分かりました!やってやりますよ!!領土の一つや二つ!このブリッドにかかれば、何てことありませんよ!!」
…………扱いがうますぎるだろ!国王!!
惚れ惚れするような説得だった。この場合は、彼女が、チョロいだけだろうが…………。
「……そっちのフードの方は?どうなの?」
正直、ここで領土を増やすより、確実に力をつけたいのでこの話は、断りたい。そのための突破口を探す。
「僕は、かまいません。」
…………どこかで聞いたことのある声だが、思い出せない。
「ところで、話が変わるのだが、魔王君は、昨日の戦争で勇者と戦い勝ったそうだが。」
丁度、今朝話していた内容だ、どうやら、勇者との戦いは、俺が勝ったらしい。だから、疑問に思ったことを聞いた。
「その戦いだが、俺は、気絶してあまり覚えていないから、詳しく知りたいんだけど?」
「あれを覚えていないだと!?」
フードの男が、驚いた様子で机を叩く。あまりの勢いに俺も驚く。
「やめないか、交渉の席だぞ。」
女性の方が止めにはいったらしぶしぶ、男が引き下がった。
「……すまない。」
「いや、少し驚いただけだ。それより、お前は、誰だ?」
俺の質問に対して、フードの男は、国王に小声でなにかを話している。
話が終わったのか、フードの男はその顔を見せた。まさか、2回も同じ相手から驚かされるとは、思っていなかった。
「あんなに激しい戦いだったのに、忘れてしまうなんて。」
「お前!!」




