特訓に挑戦……!
謎の爺さんにクサリさんが連れ去られてから、おおよそ3日が過ぎた。
魔王領だけでなく、勇者領や姫騎士領にも、魔界からの増援がやって来たらしく、戦況は五分五分になった。
ただ……俺個人で言えば、完全に負けている。
なんせ--
俺の目の前で、クサリさんが連れ去られてしまったんだ。
これで2度目だ。しかも、今回は気絶までさせられていた。クサリさんでも、あの爺さんに勝てなかったんだ。
なによりも……1年間の修行の成果は、全くもって現れてなかった。それが悔しくて堪らない……。
『申し訳ありません、3代目。……私がもっとしっかりとしていれば』
あの後、ボロボロにされた俺の体を治癒して、すぐに頭の中へと入ったミカエルが、この間よりも暗い口調で謝ってくる。
「いや、……ミカエルのせいじゃねぇだろ」
そう。俺が弱いから……。
『魔王様……』
そして翌朝。クサリさんが連れ去られてから4日目の朝だ。
起きてから直ぐに体が動かないことが分かった。理由も直ぐに分かったけどな。
「ミカエル……何してんだよ?」
両手両足の制御をミカエルに奪われている。力を入れようにも、感覚すら奪われているから分からない。
『すみませんが、3代目が寝ている間に両手両足の制御を預かりました』
「いや、だから……なんで拘束をしてんだよ?」
一刻も早く、クサリさんを助け出さなきゃいけねぇのに。
『魔王様……クサリを助けに行かれるおつもりですよね?』
「………………あぁ」
声に出してないのに、クロノワールに図星を突かれた。
『ですが、今の「そんなことは分かってるっ!!」……そうですか……』
あたる相手が違うのは、俺の怒鳴り声が耳に響いてからだった。八つ当たりも良いところだ……。
「ごめん、……クロノワール」
『いいえ。構いません』
クロノワールはそう言うが、俺のイライラは募るばかりだった。全部、俺が弱いからだってのに……。
『さて、3代目』
空気を読んでなのかどうかは別として、ミカエルが声を発したことで部屋の空気は少しだけ和らいだ。
『現状では、オーディンに勝てる人は居ないでしょう』
「……それくらい、言われなくても分かってる」
嫌味か。あの爺さんに、一撃も与えられずに完封されたんだぞ? 少なくとも、俺じゃあ歯が立たない。
『しかし……彼女を助けることは可能です』
「……早く教えろよ」
急かす俺に、ミカエルはご機嫌な口調で
『嫌です』
と言いやがった。
「ふざけ『ていませんよ? 私はいつでも本気です』……理由を教えろよ」
どうやら、本気で教えたくないようだ。
仕方ないと、イライラしながらも、長くなる話に耳を傾けることにした。
『まず、3代目。現状の貴方では、どう足掻いても助け出せません。無駄死にするのが関の山でしょう』
……納得したくねぇけど、たぶん、無駄死にになるだろう。
ただ、この発言にクロノワールがキレた。
『おい、貴様……魔王様が無駄死にだと……?』
「……ミカエル、続けてくれ」
『次に、私が提案する作戦では、少なくとも後2人は必要です。しかも、3代目以上の戦力が、です』
ミカエルの頭の中では既に、クサリさんを助け出す算段がついてるらしい。
『そもそも、魔王様が死ぬわけなかろうっ! この私が、護りきるように仰せつかっているのだからなっ!!』
クロノワール……
「ちょっと、静かにしててくれねぇか? 後で聞くから」
『はっ!』
俺がお願いすると、クロノワールは静かになった。正直、ミカエルの声に集中できなかったからな。
まぁ、クロノワールだけが悪い訳じゃねぇけど。
「それでミカエル……俺以上に強いやつを後2人、見つければ良いのか?」
『いいえ。それだけじゃ無理ですね』
「じゃあ、どうすりゃ『1週間!』……」
突然の大声で俺の怒りを遮るミカエル。
『1週間で、3代目の力を10倍にします』
「……………………」
正直、何を言ってるのか分からなかった。
ただ、--
「強くなれるのか……?」
クサリさんのためにも、修羅の道を行く覚悟が決まった。




