久しぶりの服に感動……!
お久しぶりです。久々の魔王回です。
それでは、本編の方をどうぞ!
「なぁあ、クロノワール」
木漏れ日を浴びながら、世界樹の根本で寝転ぶ俺は、頭の中にいるクロノワールへと話しかける。
『はい、なんでございましょうか?』
俺への返事が丁寧すぎる。まるで執事だ。
「……まだなのか?」
クレームしてるみたいで、あまり言いたくないけど……いい加減に体が冷えてきた。このままだと、風邪を引く気がする。
まぁ、気がするだけで、高校以降から病気になったことなんて、無いんだけど。
『大変申し訳ありません! 魔王様! このままでは、御体に悪影響を及ぼしかねません!! 今すぐ、私と「いや、大丈夫たから」入れ……かしこまりました』
流石に手慣れてきたなぁ……。
初対面の頃は、あまりの押し売りっぷりに飲まれそうだったけど。
全裸で待機させられて、おおよそ30分が過ぎようとしていた。
自由に成長した雑草を踏み鳴らす足音に気づいた俺は、大事な場所を守るようにして座る。
歩いてやってきたのは、真っ白なローブを着た男だ。年齢は、俺より少し上かな? 左腕に俺の着替えを垂れ下げているから、クロノワールが言ってた人物だろう。
「初めまして、3代目。私、神界出身の「あの……」で……はい?」
クロノワールに言われて、勝手に始まった自己紹介を中断させる。
このまま話し出すと、平気で半日ほど喋り通すらしい。
「先に服……くれねぇか?」
流石に色々と限界だ。
服を着替えながら、現在の状況を説明してもらった。
まず、この男――ミカエルと言って、神界の出身らしい。
それで、そのミカエルから色々と説明されたんだが……その説明の中で一番驚いたのは、カルラの父親だということだな。うん。マジで腰を抜かしそうになった。
劣勢だった戦況がたった3人で引っくり返ったことや、その内の1人に俺の姉さんが含まれてることよりも驚いた。
「それで? このあと、どうするんだ?」
「本来ならば、今から3代目様を鍛えたいところですが……残念ながら、その時間がありません」
ミカエルが話を切ると、右腕の裾を捲り上げてを見せてくる。
ローブのしたにあるはずの腕は、薄く透明になろうとしていた。
「この通り、私の肉体が限界を迎えようとしております。なので、申し訳ありませんが3代目。貴方の頭の中にお邪魔させて……」
「うん? どうかしたのか?」
戦争中だと言うのに、呑気に説明を聞いていると、突然顔色を変えるミカエル。
「すみませんが、1度ペルンに向かいます。あとで戻ってくるので、少々お待ちください」
「っておい!?」
上着を受け取っていない俺は、上半身裸の状態でミカエルの肩に手を着く。
そして、次の瞬間ーー
見知らぬお爺さんが、クサリさんを肩に担いでいる光景が眼に入ってきた。
「『剛打』!」
条件反射のように、爺さんへと殴りかかる。
だけど、
「ホッホッホッ。いきなり殴り掛かってくるとは、今回の魔王は礼儀も知らぬようじゃの」
片手……いや、人差し指1本で受け止めやがった!?
「『光弾』!」
俺の後ろから、真っ白な光の弾が跳んでくる。十中八九、ミカエルの攻撃だろう。
その弾も、爺さんは『威圧』だけで消し去ってしまう。
「久しいのう……ミカエル」
「すみませんが、その女性を返していただきます……!」
ミカエルは、量腕を広げて魔力を高めていく。大技の準備だろう。
だったら俺は……
「『剛打連拳』!!」
爺さんの足止めに専念する!
「ホッホッホッ。悪足掻きにもなっとらんぞい?」
しかし、面白うように指1本で止められる。余裕もありまくりのようだ。
なら……
「『轟打』!!」
ひたすら殴っていた手を引き、瞬時に魔力を高める。
そして、俺が打てる一番強い技を放つ。右腕骨折でクサリさんが取り返せるなら、安いもんだ!
しかし、爺さんはさっきと同じように人差し指で受け止めた。
おまけに右腕は折れたが、爺さんの方はなんともない。無傷だ。
「ホッホッホッ。流石に折れるかと思ったぞい」
「……嘘だろ」
「3代目……!」
ミカエルに声をかけられた俺は、その場から大きく左に跳ぶ。
「『天帝八卦掌』!!」
俺の眼には、ミカエルが一歩も動いていないように見える。というより、ミカエルは立っている位置から一歩も動いていない。
だが、爺さんにはなにかが見えているようで、片手で弾く仕草をしている。
爺さんが軽く右に手を払えば、雷のようなバチッというがする。
激しくなり響いていた衝撃音は、1分程度で止んだ。
「……やはり、月詠観の力は厄介ですね」
「ホッホッホッ。そもそも、格が違うんじゃよ」
そう言って、爺さんは人1人が通れそうな門を出現させる。
「それじゃあの。また遊んでやるから、それまで強くなっとれよ」
ーーふざけるな
「むぅ?」
右腕が折れた状態の俺は、爺さんへと詰め寄る。
「クロノワール!」
『『黒龍剣技』!』
左腕に魔力を送り、黒い靄を刀の形にする。完璧に形成されるのとほぼ同時に、クロノワールへと左腕を任せる。
「連れていかせるかよっ!!」
精密に振り抜かれる左腕の刀は、面白いように避けられ続ける。一発も当たらない……!?
「ホッホッホッ。元気なガキじゃのう。……ほれ」
「……!? あがぁぁ!!?」
爺さんが俺の左腕に触れ、数秒後に木片が折れるようなバキッという音が俺の耳を打つ。さらに遅れて、左腕が折れたことを告げる電気信号が脳へと伝わる。
あまりの痛さに、俺は床へと踞ってしまう。
『魔王様!?』
脳内でクロノワールが驚きの声をあげるが、今の俺はそれに応える余裕がない。
「ホッホッホッ。今度こそ、本当にさらばじゃ」
クサリさんを担いだ爺さんは、彫刻のように真っ白な門をゆっくりと潜り抜けていった。
残された門は、爺さんを取り込んだ直後に、砂のように崩れ去る。




