久しぶりの姉貴に挑戦!
連続投稿です!
「……なんであたしだけ、ここで待機なんだよ」
あたしがボヤイテいると、隣で小さな口を尖らせながら、編み物に勤しんでいるモルモーが応える。
「リンだけじゃないでしょ? 私もペルンで待機するように言われているのよ?」
「……戦時中だっていうのに、編み物に励んでいるお前が文句を言うのは、何か違う気がするぞ?」
あたしだって、久しぶりにぬいぐるみの一つや二つ、作りたくなってしまう。
「そこ、縫い目がずれてるぞ?」
「……さすが、ファンシーショップ一家ね」
思わず口に出してしまった。
戦時中とは言えない空気の中。あたしとモルモー、それから、ムーちゃんの3人は、メイド長からペルンで待機するように言われた。
理由は知らされていないけど、恐らく、姉貴にかかわることだろう。
「はぁ……」
確かに、初代魔王様が殺された原因を作った一人かもしれない。
初代様のことは、あまり面識はなかったけど、それでも尊敬していた。好き……というより、こういう人になりたい! って感じかな? 尊敬って言葉よりも、そんなイメージだ。
そして、……周りは姉貴のことを嫌っている人が多いかもしれないけど、あたし個人で言えば、嫌いじゃない。
姉貴だからってのはあるのかもしれない。
一族の中でも爪弾きにされていたけど、家族で生活できていたから幸せだった。これは、今でも自信を持って言える。
……初代様に会うまでの生活は本当に苦しかった。なにより、あたしは弱かったから……姉貴に守られてばかりだった。
本当に、姉貴に迷惑をかけたと、幼いながらにも申し訳なく思っていた。
姉貴だって……辛いはずだったのに。
「リン? どうかしたの?」
窓の外を眺めていると、モルモーが声を掛けてくる。
「いや……なんでもない」
あたしも暇だから、ぬいぐるみでも作ろうかな?
そう思って立ち上がると――
「リン」
開かれた扉を塞ぐように立つ、ここ100年くらい見かけなかった家族の姿があった。
「姉貴……」
「大きくなったね、リン」
名前を呼ばれたあたしは――思わず固まった。身体が氷漬けにされたように、カチカチに固まって動けなくなった。
「アカネさん……!?」
モルモーが姉貴の名前を呼ぶが、それどころじゃない。
姉貴の様子がおかしい。何処がとは言えないけど、とにかくおかしい。
「どうしたんだい? リン? そんなに怯えて」
怯えている? あたしが?
姉貴に指摘され、自分の足元へと視線を落とす。
両足が小刻みに揺れている。足だけじゃない。両腕もかすかに震えている。
「アカネさん、魔王領に戻ってきたのですか……?」
そんな訳がないと、モルモー自身も思っているんだろう。
案の定、姉貴は首をゆっくりと横に振る。
「悪いけど……弱い奴らに手を貸すつもりはないんだよ」
「なら、なんの用ですか?」
モルモーが尋ねると、姉貴は細長い腕をゆっくりと伸ばし、あたしを指さしてくる。
「リン。迎えに来たよ」
どうやら――というより、やっぱり、あたしが目的らしい。
「さぁ、リン。一緒に神界に行こう」
「「っ!?」」
神界……だって!?
「な、なんで……?」
「うん? なんでってのは、あたしと神界に行くことか? それとも――」
姉貴は、子供のころと変わらない笑みを浮かべながら告げる。
「あたしが神界で幹部をしていることかな?」
「……リン」
「大丈夫……」
なにが? と、自分に問い質したかった。
なにも大丈夫なことは無い。
全身が恐怖で震えている。素手のケンカで姉貴に勝ったことは一度もない。
ましてや、姉貴は『魔王七つ道具』の太刀を所持している。
すでに抜かれているその太刀は、血で真っ赤に染まっている。
隣にモルモーが居るとはいえ、二人でどうこう出来る相手じゃない。仮にムーちゃんがこの場に居たとしても同じことだ。
「さぁ、行こう? リン」
手を広げて伸ばしてくる姉貴。
あたしは、その手に引っ張られるような感覚で、足を前に出した。
「ふざけるのもいい加減にしなさいよっ!!」
「っ!?」
引きずるように踏み出した右足を、思いっきり踏んでくるモルモー。
おかげで、理性が戻ってきた。……あと、足が平べったくなりそうだ。
「いてぇよ。……ありがとな」
「お礼はこの場を逃げ切ってからにして欲しいわね」
モルモーの一言に、姉貴が喰いついてくる。
「逃げ切る? なに言ってるの? リンはあたしと共に神界で平穏に過ごすんだよ」
姉貴の眼が黒い。光がないとか、そういう次元じゃない。
「……あたしから、妹まで奪うのか?」
姉貴は一体……どうしたというんだろうか?
昔は、悪戯好きで、あたしを困らせてばかりだったというのに……これは、シャレにならない!
「モルモー!」
「えぇ!! 『ダーク』!!」
モルモーが姉貴の眼を塞ぐように黒い靄を発現させる。
「リン……どうしても、一緒に来ないのか?」
たじろぐ事すらしない姉貴は、うわ言のように訪ねてくる。
「悪いけど、神界には行けない。……魔界には、父さん達が居るから。魔界を……家族を殺そうとする神界には行けないよ」
「…………そうか」
うなだれるように頭を下げる姉貴。
「フフフ……フハハハハハアッ!!」
「「っ!?」」
突然、壊れたように笑いだす姉貴。本当にどうしたっていうんだよ……!?
「もう……いいや…………」
その呟きが聞こえたと同時に、頬が濡れた。
「「えっ……?」」
二人して唖然となる。
だって――
隣に居たモルモーが、大量の血を吹き出しながら倒れていくんだから――。




