さて、敵討ちに挑戦するわよ!
「あんたね?……私の弟を可愛がってくれたのは?」
暑苦しい化け物を前に、私は自分を鼓舞するために啖呵をきる。
片腕をなくし、それでも、闘争本能をむき出しにしている炎の精霊。あの白い人が訓練をつけてくれなきゃ、私は震えていただけだろう。
あの人の方が怖かったもんなぁ……思い出しただけで、身震いしちゃう。
「雑魚に用はねぇんだよぉ!!」
大男の気迫が、熱気となって私の体を襲う。
だけど……
「今の私には、あんたの熱気より、ハロゲンヒーターの方が暖かく感じるわよ?」
全身に魔力を込める必要もない。ただ、自然体で、冷静に、鋭く、優雅に構えていればいい。
この半年間。化け物じみた人の元で修行させられた。
「あんたには関係ないけど……鬱憤、晴らさせてもらうわよ……!!」
私は一気に距離を詰める。
目の前の壁は、私を叩き潰そうと、残った片腕で叩き付けるように拳を降り下ろす。
私は体を半回転させ、拳を反らす。反れた拳は、地面へと叩き付けられ、地面が捲られる。
「『轟打』!」
体の回転と拳の先端に集めた魔力で、大男の胸を叩く。インパクトの瞬間に、私の拳を爆発させる。
「ぬぅう!?」
腕を切り落とされても呻くことの無かった大男は、始めて呻く。
外傷は目立たないけど、内部ーー特に、肺の部分へのダメージは、相当なはずだ。
「………………いい」
……やっぱり、闘争本能の塊ね。厄介な精霊だ。じゃなきゃ、ドMよ! ドM!
「面白くなってきたじゃねぇか!!」
体を燃やし、さらに熱量を上げていく。弟の使う『炎の鎧』よりも凄い熱量だ。
「簡単に死ぬんじゃねぇぞぉぉおお!!」
「死ぬわけないでしょうが! 『轟連打拳』!!」
両手に魔力を溜め込んで、大男へと出鱈目に殴っていく。
インパクトの瞬間に魔力が爆発し、その度に男が後ろへと下がっていく。
「その程度かぁぁあああ!!!」
「うわっ!?」
連続で殴っていた腕を簡単に鷲掴みして、そのまま上空へと投げ飛ばされた私。
それを追うように大男が地面を強く蹴る。蹴られた地面は、ひび割れと同時に紅く熱されている。
「ふんっ!」
「なんのっ!」
空中で降り下ろされた腕を受け流し、体を回転させる。
「『轟打』!」
私の一撃を軽く防ぎ、10メートルほど距離を開ける。地面に近づくにつれて、体勢を整えて着地する。
「いいぞ! もっと来やがれぇ!!」
地面に足がついたと同時に、大男がハンマーのような拳を振り上げ、一気に距離を詰めてくる。
「調子に乗るなっ!!」
私はその場で小さくしゃがみ込み、全身の魔力を一気に高める。
これで決めるっ!
「おらぁぁああ!!」
振り下ろされた拳を避けるようにして、大男へと飛び込む。
「『轟砲』!!」
相手の胸に手の平を当て、全身の魔力を一気に流し込む。一見、大男に大量の魔力を渡しているようだ。
もちろん、一部は吸収されるかもしれない。
ただ、この技は、そんな生易しいものじゃない。
「…………ふふふ」
大男は、よろよろと後ろに下がっていく。
振り上げていたハンマーのような拳は、だらしなく地面へと垂れ下がっている。
「ふはははははっ! まさか、この俺が負けるとはなぁ!!」
「……自信過剰にもほどがあるんじゃないの?」
戦意喪失どころか、もう継戦することすら叶わないと悟った大男は、背中から倒れていった。
さて、勢いを付けた平手打ちに見える技だけど、これは、かなりエグイ。少なくとも、私はそう思う。
自身の持っている魔力を相手へと無理矢理流し込み、内臓からズタズタにしていく。しかも、相手の魔力量を超えてさえいれば、誰にでも通用する技だ。
結果的に、魔力使いたい放題な私や弟なら、誰に対しても有効な技となる。
「ほんと……チートってあまりよくないわよね」
使っている自分が言うのもなんだけど。
これで、各戦闘が終わったのかな? どこか忘れていないといいけど……




