初めての交渉に挑戦!
昨日の戦争が終わり、俺 棚部 亮の体に何か異変がないかを調べるため川辺から新たに『魔王領』となった『ペルン』の館へと戻ってきた。
館に戻ってから、1階のリビングに腰かけている。明るい色の木製の椅子と机は、ツルツルの肌触りであった。
クサリさんに『サーチ』をかけてもらっが、結果からいうと異常なし。ただ、相変わらず魔力値だけは、0だった。
あんなにすごい炎を出せるようになったものの魔力値が0なのである。
他に体に異常がないか調べたいところだが、お客さんが来る。
ただ、こんなタイミングでくるお客さんは、余りで迎えたくないものだった。
「ここに、『魔王』がいるんだよね?」
「はい。間違いありません、『国王様』。」
「おいおい、よしてくれよ。外にまで出て『国王様』なんて。」
…………俺の記憶とクサリさんの2週間の講義が正しければ、『国王』って呼ばれているのは、『勇者領』のトップだけだったような……。
「すみませーん。」
ドンドンと扉をたたいているのが分かる。
……居留守でやり過ごすことを決意している間にクサリさんが扉を開ける。
クサリさん。なんで開けちゃうの?いじめ?いじめですか?
開けられてしまってはしょうがないので、机の下に隠れてクサリさんと訪問者とのやり取りを見ることにする。
「はい。なんでございましょうか。」
クサリさんが、扉をたたいていたと思われる人を睨みながら問いただす。
「すみません。ここに『魔王』さんがいると聞いたのですが。」
女の人の声がする。ここからは、クサリさんの様子しかわからない。
「失礼ですが、どちら様でしょうか。」
「はい。『勇者領』本領の領主『国王様』の近衛兵をしております。サタ・ブリッドです。」
…………『本領』とは、領土の中で一番偉い人の生活拠点となる領土のことを指す。
俺の場合だと、魔王城のある領土が『本領』になる。
そして、『勇者領』のトップは、『国王』と呼ばれていて、そんな人が『魔王』に用事があるって。
……もう、『宣戦布告』しか頭に浮かばないんですけど!!
「…………何の御用でしょうか?」
クサリさん!頑張って追い返してください!!
「『魔王』さんに交渉をしに来ました。」
急に男性の声がする。人が変わったのだろうか。
「あなたは?」
「失礼。私は、『国王』のフォテス・レックスです。」
…………。とんでもない人が直接、交渉に来たんですけど!!
俺は、もうパニックしていた。顔すら見てないのに。
「交渉とは?」
「まぁまぁ。そんなに緊張しないでください。私まで緊張してしまう。」
向こうは、随分余裕そうですね……。俺はもうパニックパニックって5才児の歌が、頭の中で再生されてるよ。…………俺もそれなりに余裕だな……。
「……少々、お待ちくださいませ。少し探してまいります。」
「あぁ。お願いするよ。」
クサリさんが、そう告げるとまっすぐにこちらに来た。
「……どうされますか、魔王様?」
机の下にいながらも質問に応える。
「どうしたほうがいいでしょうか、メイド長様?」
……宣戦布告の匂いがプンプンするので、正直かかわりたくないので、クサリさんに丸投げしようと考えての発言だが、
「……魔王様は、領土のトップなのですから、御自分で判断してください。」
「いやいや!無理だって!!元日本人は、みんながみんな、交渉にたけてるわけじゃないから!!」
「そう申されましても、私は、単なるメイドですので、政に口を挟むのはどうかと思います。」
…………なんとなく腑に落ちないが、ここで言い争っていても埒が明かないので、取りあえずクサリさんには、最初に扉をたたいていた女性といかにも『国王』ですというような男性。それから、フードを目深にかぶった男性かな?その3人をリビングへと案内してもらう。
……俺も机の下から椅子へと戻る。
国王だけが椅子に座り、他の2人はその後ろに立っている。まるで、護衛のようだ。机を挟んでこちらもクサリさんが、俺の後ろに立っている。
「それで、『国王』が、どうしてこんな田舎に?観光旅行ですか?」
「いやいや。交渉だよ。『魔王』君……。」
俺なりに皮肉を言ったつもりだが、さっそく切り替えされてもうピンチだった。
そもそも、皮肉になっているのかどうかすら分からない。
「『交渉』って言っても、大したことじゃない。『同盟』を結ばないかという話さ。」
……?『ドウメイ』?
「ちょっと待ってください!!国王様!『同盟』って何ですか!?仮にも、『勇者領』と『魔王領』ですよ!!」
ちょっとヒステリック気味に国王に突っかかるのは、近衛兵を名乗っていた女性だ。
「『同盟』ってのは、相手の領土が困っているときに助けてあげる関係のことだよ。ブリッド。」
……完全におちょくってるよね?
「そういうことではありません!!」
「それに、今の僕らが、束になっても無傷で彼を倒せるとは、思えないんだよ……。」
?いやいや、それはないだろう。むしろ、そこの女性だけでも取り押さえられると思うけど……。
「彼自身も自分のことがよく分かっていないようだから、これ以上何かを言うつもりはないよ……。」
疑問が顔に出ていたのかな。……ポーカーフェイスってどうすればできるんだ?
「それよりも、『同盟』の話は、乗ってくれるのかい?」
……クサリさんにアイコンタクトを取る(どうすればいい?)。
クサリさんから返答が来る(裏があるのは間違いありません。)。
……もう一度送る(のってみる?)。
返答が来る(いいのではないでしょうか?)。
「詳しい話を聞かせてください。」
「えぇ!!」
「えぇ!!」
クサリさんが驚いたことに、俺も驚く。
「タイム!!」
クサリさんを呼び、国王をほったらかして作戦会議を始める。
「乗ってみてもいいか聞いたとき、「いいのでは」って返したよね!?」
「何の話ですか!!それよりも、「けっていい?」って聞かれましたよね!?」
……見事に重要な部分が食い違っていた……。
「っで、どうしよう?」
「まだ、乗るとは言っていませんので、詳細を聞いてからの返事でもかまないかと思います。」
「OK!では、作戦会議終了で。」
「……作戦会議は、終了したかい?」
国王を含めて3人で生暖かい目で見守られていた。……やるな!勇者領!!
「まずは、詳しい話を聞きたい。どうせ、裏か何かありそうだからな。」
「まぁ、やってほしいことはあるが、そんなに大したことじゃない。むしろ、そっちにとっては好都合ではないかと思う。」
……ますます、怪しく感じてくる。
「その、やってほしいことってのは?」
「…………『勇者領』の領土を一部、落としてほしい。」




