久しぶりの重労働に骨が折れそう
聖女が魔界へと向かう少し前。
大陸東の大地にて、国王と彼の師匠が戦闘を繰り広げていた。
国王の持つ剣――王剣『エクスかリバー』は、大戦が始まってから使い続けたためにヒビが入り、使い物にならなくなる。代わりにと持ってきていた予備の剣を抜き、師匠へと斬りかかる。が、致命傷を与えることなく返り討ちにあい、動けなくなってしまう。
さらに、ここまで休むことなく戦い続けたため、疲労で指1つ動かなくなってしまう。
死を覚悟した国王は、化物と化した師匠を睨むだけだった。
「死ね」
巨大な刀が、僕へと降り下ろされる。
まだ死ねないのに……死んではいけないのに……!
無情にも、刀の速度は止まらない。確実に僕を殺そうと迫ってくる。
「 」
声もでない。指も動かない。脚も動かない。
ここまで悔しいと思ったのは、初めてかもしれない。
目の前の化物に勝てない。これが、ここまで悔しいとは……。
刀が僕の腹に触れた。
抗うことも出来ず、ただ悔しい思いで、その光景を眺めることしか出来なかった。
「うっ!? ぐわぁっ!!?」
しかし、僕の体は斬られた痛みがなかった。
代わりに、頭を殴られたような痛みと背中を強打したような鈍痛だ。お陰で意識を失いかけた。
「寝るなら縁で寝ろよ、バカ」
ギリギリ保った意識で声のする方を見る。目に入ってきた情報を整理し終えたら、本当に眠ってしまいそうだ。
「たくっ……こんな奴のお守りをさせられるくらいなら、オルとのんびりしてたのによぉ……」
辛うじて見れた光景は、二代目魔王が化物と退治している瞬間だった。
なにが楽しくて野郎を助けなきゃならんのだ。まぁ、ここで死なれたら、俺の仕事が5倍くらいになる。
そうなれば、愛娘のオルと遊べなくなる。……今でも充分、遊べてねぇけど。
「……なんだ貴様は?」
「あぁん? 俺か?」
こいつ、勇者領の人間だったくせに俺のことを知らねぇのかよ。無知にも程がある。
「二代目魔王のガスターだ。覚えとけよ、この脳無し筋肉バカ」
「………………」
この程度の暴言で黙るくらいなら、お家でおねんねしてろよ。
「さっさと帰らねぇと、土にって――」
俺は左手1つで、鉄パイプのような刀を受け止める。
錆びだらけの刀振るうくらいなら、その辺の木の棒を振ってた方がよっぽどマシだろうに。
「問答無用で殴ってくんじゃねぇよ。この脳筋」
「……我の一太刀を止めるか」
「この程度、屁でもねぇだろ」
実際はドーピングしてるからだけどな。これくらいのハンデ、久しぶりに体を動かすわけだから、許して欲しいところだ。ドーピング無しなら、普通に避けてたっての。
「さっさとくたばれっ!」
俺は右腕に握られた銃身の長い拳銃を化物に向けて、魔力の弾丸を放つ。
「『一閃』」
化物風情は、俺の撃った弾丸ごと、俺を真っ二つにしようと刀を水平に振り抜く。
俺の体に触れる前にカチンという火花が散った。
「うおりゃ!」
弾丸を斬った刀へと、左手の拳を躊躇なくぶつけに行く。
もちろん。なんの工夫もなく殴れば、俺の左手が粉々になるだろう。
「ぬっ!?」
だが、俺の左拳は砕けるどころか、刀を空へと弾く。
「このまま、くたばれっ!!」
人差し指を力強く握る。それと同時に甲高い発砲音が森の中へと響いていく。
「『ガン・ナックル』!」
瞬間的に人差し指を弛め、さっきよりも力強く握る。2発目の発砲音が木霊し、鳴りを潜めていた鳥達が一斉に飛び立つ。
「ぶっ!?」
化物と言えど、痛覚はあるらしい。右胸に拳大の窪みを作って、後ろへと吹き飛んでいった。
「……さすがだな」
常時、これくらいの魔力があれば、俺が世界統一したってのによ。
「貴様……なかなかやるではないか」
「ちっ」
さっさとくたばれってのに。
「『時雨』!」
瞬時に距離を詰め、今にも折れそうな刀を連続で突き出してくる。
「『パレット』!」
2丁の短銃を構え、繰り出される刀の先端に魔力弾を当てていく。普段だったら、弾くどころか、当たることすらない俺の弾は、面白いくらい当たり、弾き返していく。
「「うぅぅぉぉぉぉおおおおお!!!」」
化物も負けじと刀の速度を速める。それに合わせるようにして、俺の人差し指の握りも速く、強くなる。
そんな撃ち合いが開始されてから数分も経たず――
ガキンッ!
「っ!?」
きちんとした手入れの出来ていない刀は、鍔付近で砕け散る。
「貰ったぁ!!」
銃口を自分に向け、両手の拳を化物の胸にピタリと当てる。俺の使える技で、最強の近距離技だ。
「『龍の咆哮』!」
両手の人差し指に力を入れる。
その直後。2メートルを超す化物の体から、黒色に近い赤色の液体と繊維質な肉が溢れるように飛び散る。
俺の使った『龍の咆哮』は、相手の体内に自分の魔力を叩きこむというシンプルな技だ。ただ、シンプルが故に使いどころが難しい。ましてや、魔力供給量のショボい俺なら、相手も選ばないといけねぇ技だ。
今使えたのは、異常なドーピングのおかげだ。
「さてと……」
さっさと帰ってオルとのんびりしよ♪
虫の息となった国王を放置して、俺は攻め込まれているだろう魔王城へと歩いて向かった。
2015年最後の投稿です。
2代目魔王の実力がそこそこわかる回でした。
さて、来年も頑張って更新していきますので、応援よろしくお願いします。
それでは、よいお年を!




