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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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久しぶりの旦那が挑戦

「聖女様あああぁ!!」

 いつも心配してくれる親衛隊の声を、遠くの方で聴きながら、あたしは遂に殺される。

 お世辞でも、聖女らしい振る舞いは出来ていたかしら……ねぇ…………。

 2つほど心残りがあるけれど、あたしが居なくなっても頑張ってくれるはずよね。

「かる……ら…………」


 あたしの使役する武器と瓜二つの槍が、ゆっくりとあたしに近づいてくる。

 この速さなら、目を閉じていても簡単に避けられる。それくらいの速度なのに、あたしの体は地面に縫い止められたかのように、指1つ動かせない。


 金色の槍は、情け容赦なく、どんどんと近付いてくる。


 長い人生だった。そりゃあ、あんな物騒な槍の持ち主だもの。

 突き刺した相手の魔力を根こそぎ奪おうとするんだから、人間というより化け物よね。


 若くして親衛隊のリーダーまで上り詰めた部下を、眼球を動かして見る。

 あたしを助けようとしているのか、ゆっくりと、だけど、確かに動いている。


 あたしが、見送った親衛隊の隊長の数は36人。どの子もはっきりと顔を思い出せる。

 まさか、見送られる日が来るとは思ってなかったなぁ……。


 目の前が歪む。人間の寿命を遥かに越えて生きたというのに、あたしはまだ、生を望んでいるみたい。

 しかし――残酷にも、あたしは串刺しにされて、死ぬ未来しか見えなかった。


「諦めるとは、貴女らしくありませんね? アリア」

「っ!? な……んで…………」

 あたしの心臓をめがけて突き出された金色の槍を握る男。その腕からは、赤い液体が流れ、あたしの顔を濡らす。

 真っ白なローブを着て、どんな暗闇も明るく照らしてしまいそうな笑顔の男を見て、あたしは目の前が余計に歪む。

 忘れるはずもない。だって……

「この……バカ」

 あたしが唯一。心の底から愛している男性(だんな)だもの。

「み、ミカエル様……!?」

 ミハエルは旦那の姿を視認すると、槍を引き、地面へと膝をつく。

「ミハエル……ずいぶんと成長されたようですね」

 頭上から売り注ぐ旦那の声は、怒り心頭といった様子だ。いつも柔和な旦那には珍しい光景よ。

「も、申し訳ございません! すぐにそこの女を殺し、ミカエル様の手当てを……!!」

「ミハエルさん……」

 あ。これは、かなりご立腹のようね。

 もう100年ぶりだと言うのに、声の調子だけで解ってしまう。

「はいっ!」

「兵を退いてください」

 にこやかな笑顔のまま固まった女。尊敬……いいえ、敬愛していた男から、この世界を疑いたくなるような言葉で耳を撃たれたわけだもの。凍り漬けにされたように固まっているわ。

「も、申し訳ありません。私の聞き間違いでしょうか? 今、へ「兵を退いてくださいと言ったのですよ」……」

 聞き間違いでなかったと知り、ミハエルと呼ばれた女はその場で(うつむ)く。

 かと思えば、突然、大きな笑い声をあげる。

「アハハハハッ! 分かりました! 解りましたわよ!!」

 瞳孔を大きく開き、あたしと旦那を見る。

「偽者! 貴方はミカエル様の偽物ですね!!」

 槍を構え、

「私の尊敬するあの御方の偽者で! 私を騙そうとしたのですね!!」

 全身の魔力を高めて、

「万死に値します!! 『聖者の軍行(ぐんこう)』!!」

 地面を蹴った。


 ミハエルの蹴った跡は、地割れのように地形がひび割れている。それだけ、全身の魔力を高めたという証拠だ。

 全快のあたしでも、瀕死は免れない一撃は――しかし、横たわっているあたしまで届かなかった。

「っ!? そん……な…………っ!?」

「成長されたのは、肩書きと魔力だけのようですね……」

 動き出したら止まらないはずの必殺の一撃は、旦那の片手でいとも簡単に受け止められた。幼子の突進を大の大人が体で受け止めたようなものかしら?

 彼女とは比べ物にならない魔力量をもっているからこそ、力技ともいえる方法で無力化させる。

 魔力保有量はあたしも多いほうだけど、こんな力技をできるほどの魔力はない。絶対に無理。

「アリア。槍、出せますか?」

 あたしは声を出さず、『グングニル』を呼び出して応える。呼び出すだけで死にそうなほど辛い。

 必死の思いをして呼び出した金色の槍を、なんの躊躇いもなく握るあたしの旦那。

 すると、槍を通してあたしへと魔力が注がれていく。荒れ果てた大地に降る恵みの雨と何ら変わらない。今のあたしにとっては、とてもありがたい措置だ。

「動けそうかい?」

「えぇ。全盛期以上に暴れられそうよ?」

 冗談めかして言うとあたしに、クスクス笑う旦那。

「それは良かった。……ここは僕に任せて、避難先の魔界へと移動してくれないかな? カルラちゃん一人だと辛いだろうから」

「避難先にも敵が出たっていうの!?」

「正確には、少し離れた場所でカルラちゃん一人が耐えている状態だね。なるべく速く頼むよ」

「言われなくても!!」

 あたしは旦那をその場に残して、全力ダッシュで走り出した。


 待ってなさい……あたしの(てんし)に手を出したら、塵一つ残さず殺してやるっ!!




「せ、聖女様ぁ~!」

 ミカエルの登場により誰からも放置され続けた、親衛隊の隊長ファルも聖女の後を追うように魔界へと向かった。

 大陸側の逆転となるか!?


 次回、久しぶりにお転婆娘が出ます!

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