初めての完全敗北に挑戦!!
3代目魔王こと、棚部亮が、炎を扱う精霊に吹き飛ばされたところまで遡る。時間にして、1時間ほど前のことだ。
「派手に吹き飛びやがったなぁ……」
自身と同等の斧を肩に担ぎ、木片と化した住宅跡地へと足を踏み込ませる精霊。粉々になった木片を燃やしながら進んでいく。
別に火属性の魔法を発動しているわけでもない。彼自身の体温が、物を燃やしてしまうほど高いというだけの事だ。
「あぁあぁ。見事に粉々だなぁ」
四肢どころか、首より下は跡形もなく飛び散っている始末だ。
棚部であると判断できるのは、彼一人しか死体がないからではなく、首より上だけは綺麗に残っているからだ。
首だけのマネキン。そういう説明をされても納得できそうなほど、綺麗な顔が転がっていたからだ。
「もっと骨のある奴だと思ったんだがなぁ」
精霊は、棚部の頭部を右手で鷲掴みにし、その場を立ち去ろうと振り向いた。
「っと」
振り向いた直後。精霊の腕が切り落とされた。
ボトっと、暑く熱された地面に転がり落ちる精霊の右腕。その手に捕まっていた棚部の頭部は地面に落ちず、男の腕に抱えられていた。
「…………いい」
精霊は、切り落とされた自分の腕を見て、狂ったように笑いだす。
「いい。いいぞっ! お前みたいな骨のある奴と殺り合いたかったんだよ!!」
自身の体を燃やし止血をする。
左腕1つになった精霊は、白いローブを着た男へと斧で指し、
「逃げるんじゃねぇぞぉ!」
斧を振り上げ、ローブの男へと突っ込む。
「うおりゃあ!!」
助走と斧の重量で、受け止めれば骨折は免れない一撃が、ローブの男へと襲い掛かる。
しかし、ローブの男は、振り下ろされた斧を片手で触るようにして反らす。
反らされた斧は、地面へと容赦なく衝突し、その衝撃で地面はひび割れ、火を吹いた。
「迷惑な精霊ですね。私は急ぎますので、後は頼みますよ」
ローブの男は、誰かに呟くよう言葉を吐き出すと、煙のように薄らいで消えた。
「待ちやがれ、この野郎!」
精霊は、斧を横に大きく振るう。結果は、斧の風圧で新たな家が炎に包まれただけだった。
「さて……これでいいでしょう。黒」
ローブの男は、大樹の側で棚部の頬をペチペチ叩く。もちろん、棚部は口を開くはずもない。
「黒……起きなさい」
しかし、ローブの男は執拗に叩く。
応えるはずのない頭は、往復50回目のビンタで声を発した。
「貴様! 魔王様の頬をなんだと思っている!?」
「貴女がすぐに出てくれば、往復ビンタをしなくてすんだのですよ」
ローブの男は呆れたように付け加える。
「私のことが嫌いなのは理解できますが、こういうときは我慢してください」
「はっ! 元神界のお偉い様は言うことが違いますねぇーだ!」
幼子のような口調で言うクロノワール。
「だいたい、魔王様がこうなる前に出てくればいいだろうがっ! それをワザワザ、このような姿になるまで放置とは……魔王様に対する忠義が足りん!!」
「はぁ……それは説明したじゃないですか……」
これ以上の問答は無用だと察した男は、大樹の側に棚部の頭を優しく置いた。
「念のため、一から説明しますよ?」
ローブの男は、大樹に寄り添うように置かれた東部の前で正座をする。
「まず、魔王様の事ですが、彼はそう簡単に死にません。仮に、現状のように頭1つになったとしても、生きています。無限に等しい魔力があるからこそ、成せる技ですので、相当消耗していれば話は別ですがね」
ローブの男は手振り身ぶりで話を続ける。
「今回で3回目の死となりますが……一番ひどい状態です。だから、魔王城近くにある世界樹へと来たわけです。理由は理解してますよね?」
「無論だ。魔王様の御体を再生させるためであろう」
「ふむ。それなら、貴女がとるべき行動も理解されておりますよね?」
「ははは、笑わせてくれる。頭の中で魔王様とイチャコラすればいいのだろう? すれば、魔王様の新しい御体が創られる! ついでに世継ぎも生まれる可能性がある!!」
ローブの男は、「この頭、蹴り飛ばしたい」と内心思いながらも、説明をする。
「……イチャコラはともかく。貴女は魔王様をお守りする要となりました。狙われた要因も貴女にありますが、それを説明するのは、魔王様が息を吹き返してからにしましょう」
男は立ち上がり、膝についた土をはらう。
「それでは、私は次の用事に向かいますので」
ローブの男は、精霊から逃げた時と同じ様に薄らいでいく。
「……あ、そうそう」
半分ほど薄くなったところで、
「明日には、私も頭の中にお邪魔しますので。では」
と口にし、完全に消え去った。
それから30分も経たないうちに、棚部の頭部は世界樹へと取り込まれていった。
棚部が目を覚ましたのは、取り込まれてからさらに30分後のことである。
死んだ回数が間違ってる? 安心してください。伏線です(言っちゃったよ……)。




