初めての戦後処理に挑戦!
クサリさんからの予想外な質問に俺 棚部 亮は、驚きのあまりにくるっていたんだと思う。シリアスな場面も青ざめていたであろう。
「……あなたは、何者なのですか?」
寝起きで頭があまり働いていないながらも聞かれたことに答える。
「…………バカ者です……。」
取りあえず、頭に浮かんだワードを口走ってしまった……。
「…………。」
「…………。」
…………物凄い気まずい雰囲気になってしまった……。
えっ。真面目な質問だったのかな?
クサリさんの顔が、みるみる青ざめていく。
やめて!そんな、「何言ってるのコイツ?」みたいな目で見ないで!!
「……。人間ですけど……。」
今度は、真面目に応える。
「魔王様。気絶される前までの記憶はありますか?」
「へぇ?記憶?」
えーと。確か『勇者』からプロポーズをされて、俺が全力で拒否して、それに逆切れした『勇者』が、「魔王はオラのものだ!」って襲いかかってきたとこか?
「…………。」
「嘘、うそ、ウソです!!」
拳を構えて放とうとしてきたので全力で謝罪する。
「『勇者』と戦闘して、確か……。」
あれっ?俺って確か、『勇者』との戦闘に負けたんだよな?
「……なら、なぜここにいるのか。わかりますか?」
「…………なんで?……なんで、俺は、ここにいるの?そもそも、ここどこ?」
「『ペルン』の館です。我々の新しい領地でございます。」
へぇー。「館」ってよりは、2階建ての一軒家に近いかな。
「魔王様。それで、なぜここにいるのですか?」
「…………分かりません。」
全然、記憶にない。むしろ、『勇者』に負けたはずなんだけど……。
俺は、混乱してしまう。だって、戦いに負けたのに領地は、奪ってるんだぜ。
「……クサリさんが、領主を討ちとって、俺を助けてくれた?」
「いいえ違います。むしろ、私達を助けていただきました。」
はぁ?訳が分からない。
「いや、それはあり得ないでしょ!だって、俺は『勇者』に負けたんですよ!!」
「……まだ、戦争が終わってから1日しかたっておりません。館の外に魔王様が、放った上級魔法の痕跡が残されております。それを確認して」
グゥゥー。
俺のお腹が、なってしまった。腹の虫もシリアスな場面は、耐えられなかったらしい。
「…………。朝食にしましょう……。」
『ペルン』の館は、食堂と呼べるほど大きい場所はない。食事は、1階部分のリビングに相当する場所で取ることになった。朝食は、サケのムニエルのようなものだった。切り身が緑っぽく、野菜のソースにでも浸されていたのかと思ったが、味は、むしろジューシーで香辛料とのバランスがほど良い感じである。
「他のメイドの方たちは、大丈夫だったのですか?」
そう、まだメイド隊のみんなと誰一人として、顔を合わせていなのだ。今回の戦争は、それほど大きいものでないにしろ、初めての戦いであった人も大勢いる。行方は、心配になるものだ。
「はい。今は、魔王城でここをどうするべきか、検討しようと資料を作成しております。」
「はぁー。昨日の戦争からまだ1日しかたってないんだよね。体調を崩さないといいけど。」
俺は、寝ていただけなのでホントに申し訳ない。
「大丈夫です。資料作成と言いましても、始めたのは、30分ほど前ですから。」
それでも、もう30分働いているわけだから、余計に申し訳ない。しかも、朝食を食べているからなおさらである。
「……あまり無理をしないように注意を促しておいてください。」
「分かりました。」
朝食を終えると、館の外に出た。
昨日、俺が上級魔法を使ったといわれている場所を見に行くためだ。
現場を見た俺は、絶句した……。
「これは!!」
「…………昨日、魔王様がここで上級魔法を行使された結果です。」
……地面が、黒く焦げている。今でも熱気が上がっている部分があり、蜃気楼のようにゆらゆらと見える。100均ライター程度の火力しか出せない俺が、こんなこと、できるはずがない!
「……俺は、何をしたんだ?」
「魔王様は、私を含めた4人のメイドの命を救われました。」
そのあと、クサリさんからここ合った詳細を聞かされた。だが、全然信じられなかった。
――俺が、上級魔法を使用したこと、
――中級魔法を『無詠唱』どころか、魔法名すら言わずに使用したこと、
――500人の敵兵士を近づけることもなく屠ったこと。
どれも、俺の能力では、ありえなかった。
「……魔王様。実験をしましょう。」
俺と同じことを思ったんだろう。
館から少し離れたところに小さな川が流れていた。水源は、以前メイド隊のみんなが食材調達をしに行ったところにあるらしい。
その川辺で六属性の一つである、火の属性の初級魔法を使うという実験をする。
「それじゃ、いくぞ!……『フレア』!!」
以前は、魔法名だけではなんともなく、詠唱をしてやっと100均ライター並の火力だった初級魔法『フレア』だが、
ボォオオオン!!
…………ZIP〇Oライターを通り越して、火炎放射器になっていた。
「………………。」
「………………。」
俺とクサリさんは、絶句していた。いや、ある程度の予想はしていたが、100均ライター程度だと思っていたんだ。
「…………他の属性も試してみましょう。」
「…………そうですね……。」
他の属性の初級魔法についても実験をしてみた。だが、依然と同じ結果だった。ほんの少しだけ、悲しくなってしまったのは、ここだけの秘密だ。
「……魔王様。火属性の下級魔法を使用してみましょう。もしかしたら、使えるかもしれません。」
「………………はい。」
クサリさんから、火属性の下級魔法『フレイムアロー』を教えてもらい、使用する。
「……『フレイムアロー』。」
チョロン。
……………。なんか出た。
「クサリさん……。一応聞きますが、これって……成功?」
「いいえ、失敗です。不発でないだけで、魔法として認められないでしょう。」
ほんの少しだけ出てきた火矢は、地面に落ちるとすぐに消え去った……。
あれっ…………おかしいな……以前にもあったけど……目の前が歪んで見える…………。
目頭がほんの少しだけ、熱を帯びてきた…………。
「……よかったです。」
…………なにが!!
顔に出ていたんだろう。あまりの不甲斐なさを八つ当たりで解消しようとして睨んでしまう。
「助けていただいたときの魔王様は、私にも少し怖く感じました。まるで、自分以外の種族を根絶やしにしてしまうのではないかと。そんな恐怖を感じましたので。」
……………………。
クサリさんが、少しだけ涙目になりながらも笑顔で言ってきた。そんな顔を見た俺は、少しだけ動悸が激しくなった。
「魔王様。これから、忙しくなります。新領土『ペルン』のこともそうですが、『勇者領』から戦争を仕掛けられるかもしれません。」
…………血の気が引いていくのが分かる。
「えっ……。嘘でしょ。」
「いいえ、魔王様。なんせ、『勇者領』の5千人の兵士を魔王様を含めて17人で勝利したのです。周囲の領土は、黙ってはいないでしょう。」
「…………クサリさん。」
「はい、何でしょうか。魔王様。」
俺は、気合を入れて、
「元の世界に「ありません。」か……ですよね……。」
最後まで言わせてもらうことすら叶わなかった。




