初めての精霊に挑戦!
「なんだ、さっきの生温い攻撃はよぉ?」
いつから立っていたのか知らねぇが、ざっと200メートルくらい離れた位地にいて無傷で済むはずがない。
攻撃が届いていない訳でもない。男の真後ろも焦土とかしているからだ。……地形を変えかねない凄まじい衝撃を受けても、無傷で済んでいるってことだ。
相当強い。具体的に言うなら、あの国王が本気の本気で戦って勝てるかどうかってところかな。まぁ、国王の方も実力を教えてくれねぇから分からねぇけど。
「火を扱うなら、最低でもこの島ごと燃やして見せろや!」
「うっ……!?」
男の気迫と共に熱風が体を襲ってくる。まるで丸焼きにされているみたいだ。
発動したつもりはないのに『炎の鎧』になっている。魔力に引火したんだろうか。
『魔王様……ここは一旦引きましょう』
いつもは強気のクロノワールさえ、戦うのを躊躇っている。正直、俺も殺り合いたくないと思っている。姿を見るだけでそう思わせられる。
だが、男の方は殺る気満々らしい。
「逃げるなんて、冷めるような真似をするんじゃねぇぞぉ!!」
男は斧を振り上げて一気に距離を積める。
「っ!?」
近づいただけでかなりの熱気だ。それこそ、血が沸騰しそうなほどだ。『炎の鎧』が出来なかったら、近づかれただけで燃やされていた……!
「うりゃあ!」
俺を真っ二つにするように、頭から勢いよく降り下ろされる斧。男の熱気が原因か、斧まで真っ赤に燃えている。
「ぐっ!?」
右に大きく避けた俺は、左腕に痛みを覚える。目で確認すれば、ライターで炙られたような火傷の跡がある。
『炎の鎧』を使っているのに火傷を負った。しかもかすってもいないのにだ。直撃すれば、間違いなく致命傷になる。
「おらっ! どうした!! 来ねぇのなら、このまま焼き殺してやるよぉ!!」
地面を赤く熱している斧を再び担ぎ上げ、威嚇をしてくる男。魔力を使った『威嚇』でないのに、巨人に体が握られているみたいに動けない。呼吸をするのも辛い。吸い込む空気は体温よりも高く舌や肺が火傷しそうだ。
とにかく、なんとかしてこの場から逃げねぇと……!
俺は残り3つとなった魔石の1つを取り出して男へと投げる。
「『スプレッド』!」
男に届く手前で大量の水が四方八方へと飛び散る。
その勢いは、厚さ5ミリの鉄を貫通させるほど……なんだが、
「ソレで終わりかぁ? あぁあ!!」
無傷。雑魚なら蜂の巣になってるのによ。せめて傷の1つくらい付けてくれよ。
『魔王様、煙幕を張りましょう。少しでも時間を稼げれば……!』
「『エクスプロージョン』!」
クロノワールが言い切る前に、俺は足元へと魔石を叩きつけて爆発を起こす。焦土と化していた土地は、爆発の影響で砂埃を巻き上げて煙幕のようになってくれた。
『さぁ! 今のうちです!』
言われなくても、俺は一目散に男から逃げていった。
かなりの距離を走った。もう全力疾走。さっきとは別の意味で呼吸をするのが辛い。
今は誰もいなくなった村の一軒家に身を隠している。
「はぁ……はぁ……」
心臓はバクバク言っている。胸を飛び出してくるんじゃないかと不安になるほどだ。
久しぶりに怖いと思った。今でも足が震えている。
これが、走ったからだって言えたらどんなに気が楽か……。
「あいつ……なんなんだよ……?」
『恐らくですが、火の精霊かと……確証は持てませんが』
精霊って……
「クロノワールと同じってことか……?」
『厳密には違いますが、大別すれば同族と見てよろしいかと』
「……あんなのが神界にいるのかよ」
たった1年の修行じゃ敵わねぇじゃねぇか。
道理で1年も猶予を与えて呑気にしているわけだ。いつだって殺せるからな。
『……確証を持てないのは、そこが原因なのです』
俺がブツブツと愚痴っていると、クロノワールが疑問を伝えてくる。
『そもそも、神界に精霊は居ないのです。精霊は霊界というまた別の場所にいるのですよ』
「その霊界ってのと神界が同盟を組んだとかじゃねぇのか?」
『それは有り得ません。霊界は永久中立を唱っているのです。……もし霊界が何処かに力を貸せば、それだけで世界が崩壊します』
「なら、アイツはなんで神界の奴等を攻撃しねぇんだよ!?」
後になって思う。
「なら! なんで俺を攻撃してくるんだよ!?」
恐怖もあったんだろう。頭に血が上っていたってのもあったんだろう。
俺が周りの警戒を怠って、頭の中にいるクロノワールへと怒鳴り散らしていたのは、とんでもない間違いだと気付いたときには--
「死に曝せぇ! 『エクスプロージョン』!!」
古びた木造住宅ごと、体を吹き飛ばされていた。
魔王、初の敗北か!?
そして、……ちょっと引っ張ります。
本編ではありますので、楽しみにしていてください。




