久しぶりに神界の兵士達に挑戦!
「本当に単独でいかれるのですか……?」
クサリさんが心配してそう聞いてくる。これで10回目だ。
「何度も言うけど、今は戦力を分散させないともたないですよね?」
「……はい」
「だとしたら、今から行く場所に人員を割いている場合じゃないですよ。それに、雑魚しかいないって話ですし」
もちろん、偵察に出ていた人から聞いた話で大将のような敵兵を見ていないって話なんだけどな。もしかしたら、姿を見せてないだけかもしれねぇし。
「……分かりました」
本当に分かったのかなぁ? クサリさんはクサリさんで心配性だからなぁ。
「なぁーに、さっさと取り返してくるさ。ドーラ」
俺は竜の姿になっているドーラへと声をかける。
「出発するぞ」
「分かった!」
こんな時だってのにドーラは明るく元気だ。むしろ、こういう時だからこそ、ドーラの前向きな明るさは大事にしないとな。
「……ところで、オルは?」
一番厄介なことになりそうだと危惧していたのに、姿を確認していない。一緒に帰ってきたから、狭い城のどこかにいるんだろうけど。
「自室で拗ねています」
「……そうか。まぁ、無事に帰ってくるって伝えてください」
「かしこまりました。……本当にお気をつけて」
クサリさんに見送られる形で、俺とドーラは空へと飛び出した。
魔王城から西の方へとずんずん飛んでいく。
「ドーラ。念のために復習をしておくぞ?」
「うん!」
おおよそ半日も飛び続けているというのに、まだまだ元気な様子だ。このまま現地へと乗り込みたいところだな。
「まず、一番大きな島の上空で俺が飛び降りるだろ? そのあと、ドーラはどうするんだ?」
「えっと、北にずんずん移動して、3日だけ待つんだよね?」
俺の質問にドーラは不安げにも応える。
「あぁ、そうだ。それじゃあ、もし俺が3日以内に現れなかったら?」
「……ドーラ一人だけで魔王城へと帰る」
少しだけ落ち込んだ様子を見せるドーラ。気持ちは分からなくもねぇけど、こういうのはしっかりと実践してもらわないと困るからな。
「心配するなって、どうせ雑魚しかいないんだから」
朝の澄んだ空気を体に浴びながら、俺は絶対に帰ると心の中で堅く決意した。
魔王城から出発して2日が経とうとしていた。馬車で移動すれば10日ほどは掛かるから、いかにドーラの移動が速いかがわかるだろう。
そして、一番大きな島を目視できるところまで迫っていた。
「それじゃあドーラ……辛いかもしれねぇけど、頑張ってくれ」
「うん! ダーリンも……ちゃんと帰って来てね?」
あぁ、と頷いて、俺はドーラの背中から飛び降りた。
俺の体は地面へと向かって自由落下を始める。そのスピードは、ドーラに乗っているときよりも早く感じた。
「『風の羽衣』!」
地面に激突する前に、俺の体をかまいたちが覆い始める。
そして、うつ伏せの状態で空中にとどまる。『風の羽衣』を使用すると空気を踏むことが出来るようになる。簡単に言えば空が飛べるようになるわけだ。まぁ、飛ぶのにかなり疲れるけどな。
俺は高度を維持した状態で、一番大きな島を目指した。
「さて……」
地上を見下ろせば大量の兵士。感覚だけど、ざっと1万は居るんじゃないか?
とにかく、蟻のような軍隊が俺に向かって攻撃しようと待ち構えている。
『どうされるのですか?』
「まぁ見てろって」
クロノワールの質問に俺は呟くように言う。両手を軽く握り、小さな魔石を生成しながら。
「……よし、まぁまぁなサイズかな」
適度な魔力を掌に流し込み、片手に一つずつ緑色の石を作り上げる。
『……人工魔石ですか。ですが魔王様、その程度の大きさでは大した攻撃にならないと思いますが』
「慌てるなって……まだ準備段階だから」
言いながら、作った石ころをポケットに入れて、再び緑色の魔石を作り上げる。それをポケットがいっぱいになるまで繰り返す。
こんな悠長なことをしていていいのかって疑問はあるだろうが、敵の攻撃は全く届いていない。高々と放たれた矢も、俺の足元をかすめること無く地面へと吸い込まれていく。
攻撃が無駄足になると、早々に理解した神界の兵士らは、今では俺の様子を眺めているだけだ。
そして、そうこうしているうちにポケットが石でイッパイになった。
「さてさて……開戦と行くか! 『炎の鎧』!」
『風の羽衣』を解除してすぐに『炎の鎧』を発動する。体を覆っていたかまいたちは真っ赤な炎へと変わり、自由落下を開始する。
このまま落ちたら骨折の1つや2つは覚悟しないといけない。なんせ、パラシュートなんてモノは無いからだ。戦うどころの騒ぎじゃなくなる。
もっとも……なにもしなければの話だけどな。
「『エクスプロージョン』!」
ポケットから魔石を1つ取り出して、猛スピードで近づいてくる地面に投げつける。そして、投げた魔石を起点に火属性中級魔法の『エクスプロージョン』が炸裂。
爆風のおかげで、俺は無傷で地面に着地。起点から周囲20メートルほどは、敵兵力を削ぐ事に成功。まさに一石二鳥だ。
『お見事です』
「あぁ! どんどん行くぜ!!」
ポケットから石を取り出しては、投げて爆破。とりあえず、石がなくなるまでは、この戦法で兵士を削っていくことにする。
無くなったら次の作戦を実行するだけ。ちゃんと考えてあるから、しばらくは問題がない……はず。
「『エクスプロージョン』!」
「ぐぁぁぁあああ!!?」
「散れ! 爆発に巻き込まれるぞ!」
敵も黙って殺られてくれる訳じゃないらしい。チンピラみたいに中途半端な連携だったら崩しやすいんだけどなぁ。
「『エクスプロージョン』!」
「だぁぁぁあああ!?」
石の数も残り少ない。……あと5回か。
「放てっ!!」
敵兵の合図で一斉に矢が放たれる。いや、矢だけじゃねぇ。遠距離系の魔法まで放ってやがる。
「『エクスプロージョン』!」
石を使わずに飛んできた矢や魔法を爆風で吹き飛ばす。
右手を起点に爆発させたけど、ダメージはゼロだ。『炎の鎧』を使い倒しているからだろう。大概の火属性は無効化出来るようになった。
「第二陣、用意! ……放てっ!!」
続けざまに放たれる矢や魔法。このままだとキリがない。
「一気に片付けるか。『エクスプロージョン』!」
先程と同じように敵の攻撃を吹き飛ばす。
「『威圧』!」
俺の体を包み込むように空間を魔力で固める。
そして、
「『エクスプロージョン』!」
『威圧』と同じように俺の体を起点として爆発を起こす。ただ、爆発の衝撃は俺の体の中に留まっている。
「『エクスプロージョン』! 『エクスプロージョン』!!」
2発目、3発目も同じように蓄えられる。
「『エクスプロージョン』! 『エクスプロージョン』!! 『エクスプロージョン』!!!」
バカの一つ覚えのように、ひたすら爆発を体内に蓄えていく。一歩間違えれば体が粉々に飛び散って即死だ。
「『エクスプロージョン』! 『エクスプロージョン』!! 『エクスプロージョン』!!! 『エクスプロージョン』!!!!」
合計10発分の『エクスプロージョン』を無理矢理体内留めた。そんな俺の様子に声もでない神界の兵士達。
「た……退避っ!!」
唖然としていたリーダー各の兵士が号令を飛ばす。
ただ……
「もう遅い!」
逃げ惑う兵士らに、俺が編み出したとんでもない魔法を放った。
「『ザ・サン』!」
目を潰すほどの光と地面を大きく揺らす衝撃。体を巡っている血が沸騰しそうなほどの熱気が、神界の兵士達に襲い掛かっていく。
やがて、太陽のような輝きは薄らいでいき辺りを見渡すことが出来るようになった……なったんだが、
『……魔王様』
「……言いたいことは分かってる」
これ、使ったらアカン魔法だ。
俺自身は無傷なんだが……周囲が無事じゃない。草原だった辺り一面は、火山地帯のように所々火を吹いている。
俺が無傷ですんでいるのは、原理的に体内の魔力を暴発させる『轟』と同じたがらだろう。体に溜め込んだ衝撃波を一気に放出させたからだ。
「……と、ともかく、これで領土は取り返したようなもんだな」
頭の中にいるクロノワールからも同意されると思ってたんだが、
『……残念ながら、強敵が1人居るようですね』
あの範囲と衝撃で生き残ってくるような奴は、まさしく強敵って言っていいだろう。
『右です、魔王様』
クロノワールに言われなくても、殴り付けるような殺気で気付いた。俺は体ごと殺気のする方へと向きを変えて、その男の姿をとらえる。
そこには、俺よりも頭二つ分大きな体躯に、筋肉質な体と同じくらいの巨大な斧を担ぎ上げた男が無傷で立っていた。




