初めての先生に挑戦!
俺とおっさんの一方的な試合を見ていた集団は、なんと勇者見習いとして鍛練を積んでいる若者(俺も若いけど)だった。
なんでリゾート地なんかに来ていたのか。理由を聞いていくと、この辺りに手頃な水系統のモンスターが出現するからだとか。
そして今。俺は、指導者のいなくなった勇者見習い達を率いてホテルの地下へと潜っていた。
おっさんは、自室でふて寝を決め込んでいるらしい。本当に大人気ない事をしたと思う。反思うけど、反省はしない。
「『兜狩り』!」
魔力を込めた剣で、ゼリー状のモンスターに斬りかかって行く少年達。
さらに後ろから新しいモンスターが湧いてこようとしている。
「次来るぞぉ~」
俺は、いつでも助けに入れるように近くでその様子を見守っていた。気分は引率の先生だ。
基本的に素手で戦うスタイルの俺だから、剣の稽古なんて出来るはずもない。だから、見習い達のインスピレーションに全てを託した。……本当にすることがない、ダメダメな先生だ。
「はぁ……はぁ……」
さすがに30分もぶっ通しで戦うのはきついよなぁ~。
「1班、交代だ。次は2班。頑張れよ」
「「「「「はい」」」」」
モンスターが1度引いたところで班を交代させる。
20人いた見習いを4つに別けてローテーションさせながら戦っている。色々と理由はあるけど、5人くらいしか戦えるようなスペースがないし、何より最下層まで全員で戦うのはかなりきつい。俺も守る人数が少ない方がやり易いし。
ちなみに、1つの班につき30分戦ったら交代だ。
「火属性が効きにくい。けど、風なら効きそうだぞ」
「了解。ちょっと試してみる」
先に戦っていた見習いから、次に戦う見習いへ各自がアドバイスをする。なかなかにいい流れだ。
これまたちなみに、班を別けるところは俺が口を出したけど、それ以外は何も言ってない。役立たずだなぁ~。
「あぶねっ!?」
「ジェリーの亜種だ!」
「くそっ! 風属性も効かねぇぞっ!!」
水色のモンスターに紛れて、ピンク色のモンスターが現れる。それだけで対応になれてない見習い達は、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
「お、おい! 後ろにもいるぞ!!」
「か、囲まれている!?」
あぁ~やっと出番が来た感じか?
「後ろのやつはお「『火炎・兜狩り』!」れ……なんでもない」
俺が手を出そうとしたところで、さっきまで戦っていた班が撃退する。
で、……出番を取られたぁー!
こいつら、本当に見習いなのか!? せっかくの出番を綺麗にかっさらっていったぞ!?
あまりの泥棒ぶりに俺は呆然と見守るしかなかった。
「それじぁあ、解散!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
たっぷり戦うこと5時間。
見習い達はヘトヘトになりながらも、野原に設置されているテントへと歩いていった。
どいつもこいつも擦り傷や切り傷だらけ。武器も防具もボロボロだ。
……俺? 俺はピッカピカだけど、なにか?
こうして、俺のリゾート地でゆっくり遊ぶという野望は幕を閉じた。
……あんまり遊べた気がしない。




