大人気ないけど、勇者に挑戦!
オルにシバカれた俺は、ホテルの一室で治癒魔法を練習していた。まぁ、練習というより、復習の意味合いが強いかな。
カルラを含めた4人の中で、俺だけが治癒魔法を使える……んだが、発動できるってだけで効果は薄い。
折れた右腕を治すのにも1時間近くかかってる。スパインさんは10分くらいて治してくれたから、いかにショボいかが分かるだろう。
病院に駆け込むって方法もあるんだが……俺個人の財布が飛んでいきそうで怖い。ただでさえ、財政が厳しい魔王領だ。節約出来るところはしなければいけない。
「はぁ~」
とりあえず治った右腕を回したり振ったりして確認をする。これでボキッとか音がしたら、素直に病院に行こう。
「…………とりあえず良さそうだな。さて、俺も海に行く「おい! なにサボってんだ!! 早く行かないと隊長に怒鳴られるぞ!!!」……はい?」
独り言を呟きながら立ち上がると、後ろから怒鳴り声が聞こえる。
振り替えれば、俺と同じくらいの背丈の男が立っていた。明らかに俺に声をかけている。
「ほら! さっさと行くぞ!」
「お、おい、ちょっと待てって」
「待ってる暇なんかない! さっさと走れ!」
こっちの話を全く聞かずに、俺の腕を引っ張って行く男。ってか、俺より明らかに年下だな。高校2年生とか、それくらいだろう。
無理矢理話を聞いてもらってもよさそうだが……なんか、気の毒なことになりそうだ。ここは従っておくか。
半ば諦めた俺は、治ったばかりの腕を引っ張られながら溜め息をついた。
「よし! これで全員だな!」
「「「はい! ダレン隊長!!」」」
急かされて走った結果。よく分からない団体の1人として数えられた。
「ってかあの人、誰だよ?」
「なにっ!? ダレン隊長を知らないのかっ!?」
知らねぇから聞いたんだけどな。それと、オーバーだな。その驚き方。
「そこっ! なにを騒いでいる!!」
お陰で怒られた。まぁ、俺が聞かなければ怒られることも無かっただろうから、謝る代わりに俺だけが名乗り出た。
「すいませ~ん。なんせ、昨日の今日配属されたばかりなんで」
そもそも、配属なんかされた覚えがない。ってか、魔王なんだけど。ここ最近の扱い方が異様にオカシイ気がする。……もとからか?
「はっ。無能な新人だから仕方がないか……戦場ではそんなことを言ってられないぞ? 若僧」
「はーい、すいませ~ん」
ちょっと腹が立つな、このオヤジ。
知らない事をいいことに、色々と聞き出してやろう。
「隊長は、すごい功績を挙げたって聞いたんですけど、いったい何をしたんですか?」
「おいおい。『閃光のダレン』の名前を知らないのか?」
全然聞いたことねぇけど。俺は首をかしげて、先を促す。
「しょうがない野郎だ。俺はあの3代目魔王と壮絶な戦いを繰り広げ、あと一歩のところまで追い詰めた凄腕の勇者だ」
「…………………………」
戦った覚えがねぇー。えっ? ってか、初対面ですけど?
それと、逃げた記憶って数えるほどしかない。それもほとんどが魔界での話だ。
ひげ面のオヤジは、どんどん話をヒートアップさせていく。
「あの魔王は確かに強かったが、俺にかかれば朝飯前だ。国王様なら片手間で倒せる相手だろうな」
ガハハと笑い声をあげるひげ面オヤジ。ちょっとムカつくな。
「へぇ~。でも、魔王って国王と互角に戦ったって噂が出てましたよー」
本当は出回ってないはずだ。そもそも、俺と国王が戦ったって話は、あの場にいたクサリさんとオルくらいだろう。あと、当事者な。
「何言ってやがる。国王様が手を抜いていたからだろう。優しい国王様のことだ。あまりにも弱い魔王が気の毒に感じられたのだろう」
「………………」
カッチーン! マジで頭にきた。
「そこまで言うなら隊長。俺と戦ってくださいよ」
「な、なに言ってんだ!? お前は!?」
挑発する俺を心配してか、隣にいた男が止めに入る。
しかし、ひげ面オヤジは俺の要求に答えた。
「……いいだろう。全員、少し離れろ!」
こうして、魔王対ひげ面オヤジの戦いが始まった。
あとになって思うが、本当に大人気ない事をした。
「おいおい、武器の1つすらないのか?」
「あぁ。素手で戦うのが俺の流儀なんでね」
本当はオルをおんぶしてるはずだからな。今は海で泳いでるだろうけど。
「隊長さんは武器使っていいですよ」
「はっ。ガキの癖に生意気言うじゃねぇか!」
木刀を振りかぶりながら一気に距離を詰めるオヤジ。
俺はその動作を目で捉えながら、ゆっくりと右腕を引く。
「『兜狩り』!」
鋭く降り下ろされた木刀。魔力を込めているせいか、刀身に当たる部分は淡い光を帯びていた。
まぁ、関係ないけどな!
「『剛打』!」
降り下ろされた木刀めがけて、右拳をつき出す。
突き出された拳によって、木刀は柄の部分を残して砕け散った。木片が辺りに散らばっていく。
「なっ!?」
一番驚いていたのは、ひげ面オヤジだ。まさかこんな若僧に俺の技がっ!? ってところだろうか。
武器を無くしたオヤジは、後ろに大きく下がる。
「ほら、どうしたんだよ? 掛かってこいって」
手をクイックイッとして挑発をする。
「……いいだろう」
オヤジは腰に下げていた剣を抜いた。
手入れが行き届いていないのか、ところどころ錆びている。本当に凄腕なのか?
「『三段突き』!」
何度も見慣れた技。だけど、オヤジが放った剣は、あまりにも酷い。俺が成長したってのもあるんだろうけど、あまりにもゆっくりに見える。下手したら、オルとかでも避けられるぞ。
「はぁ……」
俺は掌に魔力を込めて、最初の一刀―-のどを目指してゆっくり延びてきた剣を掴んだ。
「ぬっ!?」
いや、ぬっ!? はないだろ。
掴めるほど遅い。これなら、デタラメに振っている方がよっぽど怖い。
「おっさん……本当は魔王と戦ったことないだろ?」
あまりにも可哀想になってきた。だから、本当の事を言うなら今のうちだぞ? と視線を送る。
「……な、何を言う!? 俺は、あの魔王と対等に戦った男だぞ!!」
………………おっさん。
もう、呆れることしか出来なかった。なんで本当の事、言えねぇのかなぁ。
俺は、掴んでいた剣を握り潰して、使い物にならなくする。
「………………………………」
さすがに力の差を思い知ったのか、鉄が砕ける音を周囲に響かせるだけだ。
目の前のおっさんはもちろん。周りを取り囲んでいる野次馬も黙っていた。
「……まだやるか?」
「……イイエ……スミマセンデシタ」
おっさんは、その場で立ったままだった。




