今度こそ、リゾート地に挑戦!
お久しぶりです! なかなか更新できなくてすいません。
今年もあと少しですが、頑張って更新していきたいと思います(年と関係ないですが)。
それと、ユニークが1万に届きそうです。それだけの方々に読まれたと考えると、とても嬉しく思います。ありがとうございます。
これからも頑張って更新していきたいと思います(2度目)!
それでは、本編の方をどうぞ!
「はぁ~気持ちいいなぁ~」
魔王領の視察を命じられた俺は、元勇者領のリゾート地で背中を揉まれていた。
ってか、魔王なのに命じられるってどうなんだよ? 俺の威厳とか無いの? まぁ、無いんだろうなぁ……。
と、とにかく! 色々と厄介な出来事もあったが、今日までおおよそ1ヶ月。新しくなった領地を転々としながら無事に視察を進めてきたわけだ。
一番の問題は、最初に視察をした領地で、魔力を扱う機械兵に出くわしたことだな。
なんとか退けられたが、アレが何をしたかったのかは謎だ。
それに、神界との戦争も迫ってきている……と思うんだが……その辺の情報って、俺は知らねぇんだよなぁ。
まぁ、そう考えれば、こんなところで呑気にマッサージをしてもらっている場合じゃねぇけど。気持ちいいから、気にしない方向で。
「もう! せっかくの海なんだし、魔王様も泳ごうよ!!」
天国のような心地に包まれていた俺を呼ぶのは、水玉模様のビキニに着替えたオルだ。下にはパレオを巻いている。まさにビーチを楽しむ女の子の格好だ。似合ってるしな。
そんなオルの後ろから、スタイル抜群で、黒ビキニのせいでエロさが格段に跳ね上がっている女性が近づいてくる。
「そうです! 身体を動かしましょう!! 魔王様!」
「……い、いや! あ、あと10分したらいくから! 先にオルと遊んでてくれよ、クロノワール!!」
そう。普段は俺の頭の中にいるクロノワールだ。
詳しい原理は分からねぇけど、ちゃんとした人間の格好で俺の真ん前に立っている。仁王立ちで腕を組んでいるから、異様に胸が強調されてる。……思わず鼻を押さえた。
そんなクロノワールの状態だが、分かってるのは条件がいくつかあるってことだ。数も内容も分からねぇけど。
ちなみに、デート(ということになっている)の時も同じ方法でクロノワールと遊んだ。……遊ばれたというのが正しいけどな。アレは。
「仕方がありませんね……おい、小娘! 向こう岸まで競争だ!!」
「ふん! ヘタレワールになんか負けないもんね!!」
……顔を会わせると喧嘩するのは変わらないらしい。リゾート地なんだから、もう少し仲良くして欲しいもんだ。
「はぁ~」
それはそれで……マッサージ、気持ちいい~なぁ~。
約束通り10分後。
2人が競っているだろう海岸に足を運んだ俺は、思わずUターンしようか悩んだ。ってか、すでに体は180度反対方向へと向いていた。
「あら? 魔王じゃない。こっちこっち」
首だけを動かして確認をする。
視線の先には、にこやかに……というか、わざとらしく手を振って俺を呼び寄せる聖女。
背中を向けている安心感に任せて、肺の中の空気を思いっきり出した。はぁー。
「……なんでこんなとこに?」
「なんでって、ここはリゾート地じゃないの。バカンスに決まってるじゃない」
そうですか……。大国は平和そうでなによりですねぇー。
「本当ならカルラも連れてきたかったんですけど……あの子メイド業務が楽しいからって、あたしの誘いを断ったんだから」
言いながらほほを膨らませて俺を睨む聖女。外見年齢にしてその仕草はどうかと思わなくもない。実年齢を考えると、アウトだ。チェンジまで考慮してもいい。
「……あぁ、そうですか」
カルラは来てないのか。こういうのもアレだけど、心配事が1つ減った。
「……あたしの娘を厄介者扱いしてないわよね? 魔王ちゃん?」
内心でホッとしていると、鋭い目付きでにらんでくる聖女。
「し、してねぇし! い、いやぁーカルラが来れないのは、残念だなぁー!!」
まぁ、寂しいのは本当かな? どうせなら大人数で遊びたいしな。
「っと言うと思ったから、連絡しといたわよ。あんたの護衛ならメイド業の1つでしょ」
「違うと思うんですけど……」
護衛まで要求するのは、色々と酷じゃないかぁ?
まぁ、クサリさんやカルラなら俺の護衛なんて片手間でやってのけそうだけど。それが出来るメイドさんってのもどうなの?
「まぁいいや。ただ、俺達は明後日には視察のために次の領土に向かうからな?」
「はいはい。あたしはその辺でマッサージでもしてもらってくるわ」
手をヒラヒラ振りながら、聖女は俺がマッサージを受けていた建物へと入っていった。
「アレが聖女ですか……忌々しい」
入れ違いにクロノワールが来る。手にはビーチボールを3つ……違った、1つ持っていた。残り2つは取り外しできないな。
「……よく襲いかからなかったな」
正直、逃げようと思った原因の1つは、クロノワールが聖女を睨んでいたからだ。聖女は気づいていたのか分からねぇけど。
「今の体では、返り討ちにされるだけでしょう。……それに、魔王様にご迷惑を掛けることなど出来ません」
「そうか」
クロノワールには悪いけど、墓場まで我慢してほしいところだ。
そして、翌日。
昨日はクロノワールとオルによる、激しいバトル(ケンカとも言う)の仲裁をしながらも、海で泳いだり、砂浜で遊んだりと、それなりに満喫することが出来た。
気が付けば日がだいぶ傾いているくらいには夢中で遊んだ。
そんで、地下施設を封鎖したホテルで1泊したわけだ。もちろん、俺は1人で1部屋に入った。
部屋に入ったのと同時に疲れがどっと襲ってきたから、ベッドまでノロノロ歩いたのも覚えている。何かあったら困ると思って施錠もきちんとした。チェーンまで掛けた。
念入りに施錠したはずなんだが…………
「……どうやって入ってきたんだ。こいつら」
気が付けば、セミダブルのベッドに4人で寝ていた。
右腕にオル。左腕にクロノワール。腹の辺りにカルラと、どっからどう見てもハーレム状態だ。
クロノワールとオルは水着のせいで肌が直接当たっている。お陰で鼓動が速い。マラソンしている気分だ。
それに対して、カルラはクサリさん達が着ている物と同じメイド服だ。実際に働いている姿は見てないが、初めて見たときよりも着なれている感じがする。
まぁもろもろとツッコミたい気持ちを押さえて――
「……なんとかして抜け出さないとな」
どうやって右腕を救出するかを考え始めた。
寝起きの悪いオルは、以前にも俺の右腕を寝ぼけ眼で折った事がある。まさに、今と同じような格好で右腕をホールドしていたときだ。
ただ、そのときとは大きく状況が異なる。
なんせ、四方八方を塞がれてるんだ。この状態で抜け出すのは至難の技だ。
「よし……!」
まずはクロノワールから起こそう。左腕だけでも自由になれば、こっちが有利になる。
俺は左腕をピクピク動かしてクロノワールの身体を揺する。
「うーん……魔王様、そちらは違う穴でございます……」
どんな夢を見てるんだ!? 穴ってなんの事だよ!!?
猛烈にツッコミたい気持ちを押さえ込み、小声でクロノワールの名前を呼ぶ。
「おい、起きろ。クロノワール……!」
「う、うん…………どうかされましたか魔王様……?」
目を擦りながら身体を起こすクロノワール。どうやらすんなりと起きてくれたようだ。
クロノワールの性格なら、この現状に怒りそうなもんだが、怒らないって事は確信犯ということだな。
まぁいい。裁判をする前に右腕を救うのが先だ。
「カルラとオルを起こすから、左腕を離してくれ」
「左腕? ……し、失礼しましたっ!!」
自分が抱きついていたのが俺の左腕だと知ると、後ろに大きく飛び退いたクロノワール。
「し、静かに……!」
大きな音を立てるクロノワールに向かって人差し指で静かにするよう促す。
そして、問題の人物が起きていないかどうかを確認する。
「スー……フー……スー……」
せ、セーフ……!
海でたくさん遊んだお陰だな。オルは可愛らしい寝息をたてていた。
カルラの方を同じだ。こっちは、ここまでの馬車旅が疲れたんだろう。
よし、次はカルラだな。
俺は空いた左腕でカルラを起こそうと、ユサユサ揺する。
「カルラ、起きろ」
「う~ん……もう食べられないよぉ~」
カルラらしい寝言だな。腹一杯に食べてる夢を見てるんだろ。
「ほら、……魔王様の赤ちゃんだよ……」
「「………………」」
ど、どんな夢を見てるんだ……!? 食事はどこいったんだよ!?
これは早々に起こさないと、寝言だと分かっているのに、これを口実にクロノワールが何を言い出すか分かったもんじゃない!
俺は、カルラの身体を激しく揺らそうとした。が……
「……っ!?」
さ、殺気!?
背中から大量の汗が吹き出ては、フカフカのベッドをグショグショに濡らしていく。ち、ちびってないよな?
なんとか冷静になろうと深呼吸をする。
そして、刃物のような冷たく鋭い殺気をたどっていくと、……天井に小さな黒い点がある。
し、染みかなぁー。染みだっらいいなぁー。……十中八九、聖女だろうなぁ…………。
なに!? 何か不味いことしましたか!? 俺!!?
なんで聖女に睨まれなきゃいけねぇんだよ!?
「う~ん……」
「っ!!?」
オルがごそごそと動き始めた。
おい、まだ起きてないよな……? 頼むから、まだ寝ててくれよ?
「……スー……フー」
よ、良かったぁ~。
どうやら、体勢を変えただけのようだ。……全然、右腕は解放されてねぇけど。
俺の命が懸かってる状況だ。もう、なりふり構ってられない!
「クロノワール、カルラをゆっくりと退けてくれ」
この際、クロノワールにも協力をしてもらおう。
そもそも、俺1人でこの状況を打開しないといけないっていう考えが間違ってたんだ。
しかし――
「……嫌です」
クロノワールは俺の言うことを素直に聞いてくれなかった。
「……クロノワール、カルラ「嫌です」を……どうしてでしょうか?」
思わず敬語で訪ねる俺。
「……私だけ…………」
「えっ? なに?」
最後の方は、ゴニョゴニョとしか聞こえなかった。
「で、ですから……私だけ……何も無し…………なのですか………………?」
「……………………」
目が点になった。ってか、恥ずかしがるくらいなら言うなよ。
「魔王様……?」
「……い、いや、この状況でなにをして欲しいんだよ?」
何かして欲しいのはこっちの方だってのに。
俺は文句を言ったつもりだったんだが、クロノワールには違う意味に聞こえたらしい。
「で、ではっ! き、キスを……!!」
要求がデカすぎる。ってか、俺はキスの経験がない。
今ここですれば、それがファーストキスになる。
乙女……ってわけじゃねぇけど、理想的なファーストが俺にもある。念のためもう一度言うが……乙女じゃないけど、理想的なファーストキスってのがあるんだ。
しかし現状では、クロノワールの手を借りないと悲惨な目に遭う事が確定している。
「ほ、ほっぺたなら、許可する」
背に腹は代えられない。けど、限度ってもんがある。
ここは、魔界で身に付けた交渉術を駆使して、ほっぺたで勘弁してもらうしかない。
魔界で何を学んできたんだっ! ってツッコミは無しの方向で。
「ほ、ほっぺた……ですか」
案の定、クロノワールは残念そうに言う。コレは想像できていた。
だから俺は、クロノワールが気づいていないメリットを告げてやる。
「ほっぺたなら、右と左で2回もキスができるぞ?」
「っ!? そ、そんな!!?」
ぐらぐらと揺らぐクロノワールの決心。もう崩れるのは時間の問題だ。
しかし、念には念のためということで、今度は条件を飲んでくれなかった場合のデメリットを告げる。
「もし、断ったら…………」
「こ、断ったら……」
俺は溜めに溜めて――
「今日1日、クロノワールとは口を利かない」
「分かりました。報酬は前払いでお願いします」
あっさりと堕ちたクロノワール。
前払いくらいならいいだろう。
どうだ! 俺が魔界で身に付けた交渉術! 完璧にクロノワールを言いくるめたぞ!
……クサリさんが見てたら呆れられてただろうなぁ。
「よし、まずは右からだ」
俺は右ほほをクロノワールに差し出す。
「で、でひゃ! しちゅれいしましゅ!!」
噛み噛みじゃねぇかっ!?
そんなに緊張するならやめちまえよっ!? ホントにっ!?
緊張でガチガチのクロノワールだが、俺の右ほほへと口を運ぶ動作はスムーズだ。
そして、触れるような軽いキスをされる。
「……ご馳走さまです」
このまま蒸発していなくなるんじゃないかと不安になるくらい湯気が上がっている。
なんでもいいんだが、早く助けてほしい。
「ほ、ほら! 左もさっさとしろよっ!」
「で、でででは……!」
今度は左ほほを差し出そうと右側を向く。
そして…………固まった。
「魔王様…………なにしてるの?」
「…………………………………………」
いつから起きていたのでしょうか。
そう言いたかったんだが、あまりの怖さに声が出なかった。
「い、いや! 違う!? こ、これは、クロノワールにあ、甘えられてだな!?」
必死の弁明。正直、醜いと頭の片隅で思いながらも、このあとに待ち受けている惨状を思うと、言い訳を連ねるしか思い浮かばない。
「く、クロノワールもなにか言って……」
居ねぇし!?
キスをしようとしていたクロノワールは、煙のように消えていた。物音1つさせないで消えるとか、マジで止めてほしい。
ってか、魔王を置いて逃げるなよ!?
「魔王様」
「な、なんでしょうか……?」
いつものような呼び方で、俺を振り向かせるオル。
ただ、いつも以上に雰囲気が怖い。パニック映画の世界に入り込んだ気分だ。
「お・仕・置・き♪」
天使のような可愛い笑顔のオルにバキッと右腕を折られた俺だった。




