魔王様の正体を暴くことに挑戦します。
『ペルン』の館の付近にいる私 クサリ・スクスは、あからさまな罠と知りつつもこの戦いを終わらせるために憎き領主の元へ向かおうとしていた。
すると、
ピューーーーーーーーーー!
『ペルン』の館から笛を飛ばされる。矢に笛を括り付けただけの簡単なものだが、広範囲に知らせるためには有効なものでしょう。
案の定、私を取り囲むように兵士が表れる。
目算するだけでも500人程度は、見て取れるますが、……実際にはもっといると考えてよさそうですね。
「やぁやぁ、子ネズミちゃん。前のクソ領主とは、仲良く勇者領を貶めようと画策していたようだが、この俺様にかかれば、そんな安い策なんか通用しないんだよ!」
……ブクブクと太った、領主と呼ぶにはあまりにも見苦しい奴が出てきた。
「あなたを殺せば、この戦争は終わります。覚悟してください!」
殺気を込めて放つ言葉は、しかし、相手には伝わらなかったようだ。
「ふん!生意気な小娘風情が!!この人数相手に俺様を殺すだと……。笑わせてくれる!」
確かに、現状の人数相手では、なかなか難しいであろうが、人間と魔族。単純な力比べならば、五分五分といったところだろう。
「それに、余り生意気な口を利くと後悔するぞ!おいっ!!連れてこい!!!」
なにを連れてくる気なのでしょうか。そんな私の疑問は、すぐに困惑と怒りに満ち溢れた。
「……メイド……長……。」
「すみま……せん…………。」
「…………。」
近接部隊の3人が、あられもない姿で私の目にさらされる。
「っ!!貴様!!!」
「おっと!こいつらがどうなってもいいのか?あぁん!!」
まさかの事態であった。想定していなかったわけではない。けれども、可能性があまりにも低かったためまた、魔王様の魔力により生成した魔道具が、その考えを頭から切り捨てていた。
「メイド……長……わたし……た…………ちに構わず……やってください!」
「っ!!」
出来るわけがない!!そんなこと。
殺気がどんどん引いていくのが分かる。
もう、……戦えない…………。
「すみません。魔王様……。」
「よーし、お前ら。そこの奴をかわいがってやれ!!」
「うへへへへぇ。抵抗するなよメイドさんよ!はぁはははあ!!」
っ!!耐え難い下種な笑い声を聞きながら、謝罪をするしかなかった。
ごめんなさい、領主様。ごめんなさい、メイド隊のみなさん。ごめんなさい、……。
「ごめんなさい、魔王様!」
――――誰に謝ってるんだ?メイド長?――――
声がした方を向くと、見覚えのある姿をとらえる。
「!!ま、魔王様!!!」
魔王召喚に応じ、この2週間でかなり戦闘技術を身に着けた魔王様の姿がそこにあった。
「メイド長。何を泣いているのだ?」
だが、どこかおかしい。そもそも魔王様は、私のことを「クサリさん」読んでいたはずだ。
それに、出撃前の魔王様に確かに渡したマントを身に着けていたが、そのマントが炎を帯びている。魔王様の魔法技術では、マントだけを燃やすことはできないであろう。
「貴様!こいつらが目に入らねぇのか!!」
「やめなさい!!」
醜き生き物は、自分がのけ者にされていることを気に食わなかったのだろう。隣の兵士から長剣を抜き取り、大きく振りかぶりそして、
巨大な爆発が、囚われていた3人のメイドを中心に起きた。
「ぬわぁぁぁぁああああぁぁ!!!」
爆発をもろにくらった領主は、その場でのたうち回った。
「なにが起きた!?」
「分かりません!突然、爆発しました!!」
周囲の兵士は、突然起きた爆発に混乱する。私も突然の出来事に混乱を隠せないでいる。
しかし、3人を救うべく咄嗟に駈け出した。
「お前ら!そいつらを殺せぇ!!」
領主に命令された兵士たちは、3人のメイドと私に剣を振り下ろしてくる。
「邪魔です!」
『魔王七つ道具』を使用し、立ちはだかる敵をなぎ倒す。
だが、
ピュン!ドサッ!
「っう!!」
弓兵の放った矢が、脚を貫き私は、転倒する。
これを好機ととらえた兵士たちが、私を殺そうと剣を振り下ろす。
死を覚悟した私は、それをあざ笑うように炎が包み込む。
「まったく。世話のかかるメイドだ……。お世話をするのがメイドだと思っていたが、誤認だったか?」
魔王様である。声色や背丈は同じものの雰囲気が全然違う。
「無詠唱どころか、魔法名の発音すらなしに魔法を行使なさるのですか!?」
「火の魔法ならば、人間にとっての最上級魔法など片手間で行えるものだ。ましてや、中級程度なら、魔法名を知らずとも行うべきであろう。」
……『人間にとっての』ということは、魔王様は、『人間』ではないのですか?
いったい、魔王様は、なんのですか?
「それよりも、ほれ。」
そういうと、魔王様は、3人のメイドをこちらに投げた。
「何なのだ!あの化け物は!!」
「ええぃ!やれ、殺せ!!殺した者には、褒美を取らせるぞ!!」
魔王様が、不敵な笑みをこぼしながら言う。
「『我に挑む小さき者たちよ!彼の者らに祝福の灯を掲げさせよ!さすれば、この灯も彼の行進に明るき未来をともすであろう!』」
詠唱である。聞いたことのない詠唱とともに魔王様の周囲に炎が巻き上がる。まるで生きているかのような炎は、次の魔王様の言葉を待っているかのようだった。
「『サンクレドゥ・フレイム』!」
魔法名を唱えられ、炎たちは、敵兵士を次々と襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁあああ!!!」
「助けてくれー!!!」
先ほどまで優勢に立っていた兵士たちは、混乱に満ち溢れていた。
逃げ惑う兵士たちは、領主を残して、散り散りになっていた。
「ひぃぃぃ!!」
醜悪な生物は、恐怖で怯えていた。
「俺のメイドたちが世話になったようだな。領主さんよぉ。」
「あぁうぅぁぁぁぁ!!」
情けない悲鳴を上げながらも逃げようとするが、腰を抜かしたのでしょう。うまく立てずに後ずさる様は、滑稽に思えます。
「……すまないが、メイド長。」
「はい?何でしょうか、魔王様?」
先ほどまで何ともなかった魔王様が、苦痛の表情でこちらを見る。
「……時間切れだ。意識がとっ……。」
「っ!!魔王様?魔王様!!」
スー、スー。
耳元で魔王様の寝息が聞こえる。
「寝ている!?」
こんな状況にもかかわらず、寝られている。
……少し安心をするものの、まだ、戦争が終わっていない。
「……。そこの人間!」
「ひぃぃ!」
「前領主との約束を今、果たさせていただきます!!」
「やめろ!やめてくれ!まだ、まだ死にたくないんだぁぁぁぁ!!!」
私は、ありったけの力を振り絞り、この戦争の終止符に打った。
「バインドチェーン!!」
終戦の翌日。3代目魔王が誕生したこと、5千人の兵士を相手に『魔王領』17人全員が生き残ったこと、そして、『勇者領』の一つ『ペルン』が『魔王領』となったことが伝わっていた。
後に、『爆帝・3代目魔王の誕生』と語り継がれる瞬間であった……。
『魔王領』が、一つ増えました!
これからどうなるのか?どうしようか考え中です。




