初めての闇属性に挑戦!
「あぶねっ!?」
今の俺は超絶ピンチだ。
戦っている相手は、国王や聖女、その娘のカルラにクサリさんと俺の5人を相手にして逃げた機械兵だ。
しかも厄介なことに、この機械兵は魔力が使える。
「『剛打』」
「ぐっ!」
魔力の乗った一撃を、魔王七つ道具の1つである盾で防ぐ。もうさっきから、これの繰り返しだ。
普通に戦うだけでも厄介なのに、今の俺は闇属性の魔法や技しか使えないという、全然嬉しくない縛りプレイを強いられている状況だ。おまけに、俺が指定した魔王七つ道具も上手く出現してくれねぇ。今持ってる盾だって、本当なら太刀を出現させようとして失敗したやつだ。
それもこれも、安易にアンリミテッド状態になったのが原因なんだが。
『魔王様、『炎の鎧』を使いましょう! 闇属性バージョンの!!』
「それ、1度も成功してねぇんだよ!」
嬉々として叫ぶクロノワールに、俺も叫び返す。こっちは全然嬉しい状況じゃないのに、喜びやがって!
『炎の鎧』が完成してから少しあと。正確には、『水の羽衣』を会得したときだな。
水属性以外の技も、同様に試してみた。
だけど、火と水以外の属性は発動することが出来なかった。
そこでクサリさんに相談した結果。俺が気絶して出てきた人格に左右されてるんじゃないか。という話だった。
そんな俺だが、ついこの間、『風の羽衣』が発動できると思ったのは、この話を思い出したのと、オルの話を聞いたからだ。
風属性を操る人格者が出てきたなら、風属性もいけるようになると思ったんだ。俺の思惑通り、成功したんだけどな。
しかし--闇属性と光属性だけは、いくらやっても発動しなかった。
クロノワールが体を乗っ取っているときは出来てるんだから、俺の体に問題がある訳じゃない。
なら、何処に問題があるのか。それが分からねぇのが目下、一番の問題だ。
『大丈夫です! 今の魔王様なら、バシッと決められます!!』
何を根拠に言ってるんだよ!?
『さぁ! さぁ!!』
「あぁ! 分かったよ!! 1回だけだぞ!? 『獄・剛打』!!」
攻めようとして来た機械兵を追っ払うために、闇属性の拳を放った。
当たりはしなかったが、それでも後ろに大きく下がったから、距離は大分開けた。
「マジで1回だけだからな! 『暗黒の鎧』!」
身体中を黒い煙が覆い始める。ここまでは、同じだ。
魔力の流し方も、いつも通り。『炎の鎧』とかなら、100パーセント成功する。
そして、体を完全に覆い尽くす前に、足元から煙が消えていく。
魔力は常に流しているのに、固定化される前に消えていった。……失敗だ。
「ほら、やっぱ、無理なんだよ」
俺が諦めて、魔力を切ろうとした瞬間。
『いや、まだです! まだ諦めずに魔力を流し込んでください!!』
クロノワールが頭の中で叫んだ。
そう言われても、どう考えても失敗だろ? 黒い煙は、完全に消えてるし。
とは言え、闇の精霊と化したクロノワールの言うことだから、信じて魔力を維持し続ける。
しかし、機械兵は待ってくれないようだ。
「『フレアアロー』」
火矢を放つ機械兵。その矢は、一直線に俺へと向かってくる。
「ヤバイ!?」
フル詠唱された火矢だ。今の俺が当たれば、アンリミテッド状態が解除されるかもしれねぇ!?
そうなれば、こっちの敗けだ。問答無用で昏睡状態に陥るから、煮るなり焼くなり好きにしてくれって状態になる。
十中八九、殺される。
『大丈夫です、魔王様。『暗黒の鎧』は発動されています』
火矢が当たる瞬間。クロノワールの声が聞こえた。
胸の辺りに当たるはずだった火矢は、俺の体を通過して消滅した。
消えた原因は、火矢に込められた魔力が無くなったからだろうけど……俺の体をすり抜けたのはなんでだ?
『魔王様』
「お、おう。なんだ?」
『この『暗黒の鎧』なのですが、常時発動される『ファントム』と同じ効果があるようです』
「『ファントム』!?」
いまだに、俺1人では発動できない魔法名に驚いた。クロノワールの手助けがあれば、なんとか発動はできる。まぁ、それでも、魔力の制御が難しくて、10秒くらいが限度なんだが。
『はい。黒い煙が見えなくなったのは、その副作用が原因かと思われます。魔王様がお1人で『ファントム』を扱えるようになれば、黒い煙が常時見えるようになるかと』
「それじゃあ、今も発動してるんだな?」
いつもと変わらない服装だし、体が何かに覆われている感じもない。
『はい。私には見えております。恐らく、『ファントム』が使えるかどうかが基準になるみたいですね』
……ってことは、今まで失敗だと思ってたとのは、見えなかったからってことかよ。
「ま、まぁいい。これで戦える!」
むしろ有利になったくらいだ。
相手の攻撃は、無効化されたようなもんだしな。
「クロノワール! 制御、頼んだぞ!」
『はっ!』
本当なら、体を明け渡してやりたいところだが、アンリミテッド状態だとそれが出来ない。
「オル! オルは、魔王七つ道具の方を頼んだ!」
『……えぇー』
「え? そこはブーイングじゃなくて、『うん! 分かった!』って返事をするとこだろ?」
なんで拗ねてるの?
『だって魔王様……さっきからヘタレワールと仲良さそうに話してるんだもん。オルが居るのに、ガン無視だし』
そんな感じに見えたのか?
「分かった分かった。この戦いが終わったら、食堂でデザート買ってやるからな? 機嫌直してくれよ? な?」
最近、抵抗がかなり付いてきた『食べ物で誤魔化す』をオルに対して実践する。
『……一番高いやつ、2個だよ?』
ぐっ!?
「わ、……分かった」
『魔王様! なにボサッとしてるの!? ガンガン攻めるよ!!』
了解したとたんにテンションが、ハイテンションに切り替わりやがった。
「お、おう……」
もう、アンリミテッドなんて……懲り懲りだ。




