久しぶりの本気で国王に挑戦!
「『剛打』!」
「うん、キレは良いけど、まだまだ甘いね」
そこそこの評価を受けながらも、拳の方は簡単に流される。
「『三段突き』!」
胸、額、首と性格かつ高速な突きが繰り出される。勇者領の十八番芸だな。
今までの俺ならあっさり食らっていただろうが……
「これでも成長してるんだぜっ!」
体中に溜め込んだ魔力を一気に爆発させる。
「『轟』!!」
「ぐっ!?」
全く動いていないのに、技名の通りに周囲に轟音が轟く。
『さすが魔王様です。たった1週間でモノにされるとは』
これでも切っ掛けは得ていたからな。
体中に溜め込んだ魔力を一気に爆発させる。爆発って点では火属性中級魔法の『エクスプロージョン』に似ているけど、これはそんな生易しいモノじゃない。
なんせ、体中の魔力を根こそぎ外に放出させるからな。
「魔力使いたい放題の俺じゃなきゃ出来ねぇ技だ!」
吹き飛ばされた国王は、空中で態勢を整え、綺麗に着地する。
さすがに、今のでやられてくれねぇよな。
「ふっ、さすが魔王君だ。なかなかに強烈なパンチだったよ」
「その割には全然利いてなさそうだけどな」
ニヒル笑いをしながら剣を構える国王。
「これなら少し……本気を出してもよさそうだ」
その直後に空気が変わる。俺よりも魔王らしい王様だ。普段はおちゃらけているくせに。
「いくよ……!」
そして、国王の身体が薄れていく。
『右から来ます!』
頭の中でクロノワールが叫ぶ。
「サンキュー! 『剛打』!」
指示通りに右に身体を捻り、左腕を突きのばす。
「っ!?」
国王の剣は、俺の拳に阻まれる。
唖然とするのは早いぞ、国王!
「『剛打連拳』!!」
宙に浮いている国王に、コレでもかと連撃を浴びせる。
このまま一気に押し切るっ!
『魔王様、後ろから来ます!』
「なっ!?」
「せいやぁ!」
「ぐっ!!?」
背中に鈍い衝撃が走る。鈍器で殴られたみたいだ。
目の前の国王を殴っている感触はあるのに、なんで後ろから……!?
『まさか、人間如きに『ファントム』が使えるとは』
マジかよっ!?
「なにも1年間の間。遊び呆けていた訳じゃないんだよ」
剣を構え直した国王。
俺が殴っていた国王の残像は、姿かたちを消していた。
「僕だって修行をしていたんだよ」
そう本人は言っているんだけど……クサリさんはそう思っていないらしいぞ? 凄く冷たい目で見られてるぞ? 国王。
「さて、まだまだ行くよっ……!」
「くっ!」
『魔王様。私がナビゲートします』
「よろしく頼むぞ、クロノワール」
俺はクロノワールを信じて瞼を閉じる。
『右から偽物1人。左から偽物2人』
指示された方向に拳を突き出していく。
「『剛打』! 『剛打』!!」
手数を少なく。隙を大きく見せないように。
『次、右から偽物3人。左から偽物と本物1人ずつ』
「『剛打』! 『剛打』!! 『剛打』!!!」
左右の手を使って、連撃のような単発の拳を的確に打ち出していく。
そして、指示された最後の一匹を正面にとらえ
『正面のが本物です!』
「『剛脚』!」
「ぐはっ!?」
右足を突き出して、国王の腹部に叩きこむ。この場合は蹴り込むってのが正しいかな。
さすが闇の精霊様だ。闇系統の魔法ならば、お茶の子さいさいだな。
「……どうやら頭の中に居る子は、相当優秀な様だね」
「知ってたのか……?」
正直、一言もその話題を出していなかったし、弄られるような事も無かったから気付いていないと思ってた。
「まぁね。世界樹の説明をしろと喚いていたのが、すっかり止んだところで確信を持てたよ」
「あぁ……そんなに喚いていたつもりは無かったけどな」
膝をついていた国王は、立ち上がって剣を構える。
「一応俺の力って事で、認めてもらっていいよな?」
言いながら、俺も拳を構える。
「あぁ。建前上、オルちゃんが一緒に居られない場合を想定しているからね。魔王君の側に四六時中いるのならば、問題ないだろう」
「そうこないとなっ! クロノワール!!」
『はっ! 魔王様!!』
許可が下りたところで、クロノワールに指示を出す。
「修行の成果……全力でぶつけてやるぞ!」
『たかだか人間の王。……しかし、全力をぶつけるに値する力です! 魔王様!!』
周りの空気が変わる。気持ちいい緊張感だ。
力と力がぶつかり合う瞬間の前触れ。そんな感じにが、俺の心をゾクゾクさせる。
「今の魔王君はまさに、……魔王だね」
お墨付きをもらったみたいだし、早速……
「歯を食いしばれよっ!」
全身に張り巡らせた魔力。まずは右足から噴出させる。
国王との距離は、瞬間でゼロになる。
「『剛打』!」
「くっ!?」
咄嗟に詰められた距離。そして、ゼロ距離で放たれた俺の拳をなんとか受け流す国王。
それでも多少のダメージは与えられたみたいだ。
「まだまだ行くぞっ! 『剛脚』!!」
「なんのっ!」
身体を捻り、俺の足技を避ける国王。
「くっ!?」
さらにカウンターまで放つ余裕があるなんて、ホントに人間かよ!?
『失礼しますっ!』
クロノワールが俺の身体を使って、国王の剣によるカウンターを防ぐ。
「っ!? そんな芸当までできるのかいっ!?」
空いていた俺の左腕をクロノワールが使い、真っ黒な炎を纏わせ、真っ黒な剣を形成。それで国王の剣を防いだんだ。
『このまま攻めますっ!』
左腕だけじゃなく、右腕の制御まで渡して、クロノワールに攻めさせる。
『『黒龍剣戟』!!』
クロノワールが頭の中で技名を叫ぶ。
俺はクロノワールの剣筋に合わせるように、脚を国王に詰めていく。
この技。神経を擦り減らすほど、複雑に動く両腕に注意しないといけねぇから、どうしても足が止まりがちになるんだよな。意識が少しでもそれると、自分の身体を攻撃しちまう。
ある意味、俺とクロノワールだから出来る芸当だろう。
「『硬』! ぐっ!!?」
だから、あれだけ避けていた国王が、避けずに体中を魔力で満たして、頭を守るようにしている。
『最後は魔王様、お願いします!』
クロノワールの剣技が終わる。その兆候は事前に打ち合わせしてある。
「あぁ!」
俺の右腕が、クロノワールから解放される。それと同時に、クロノワールの最後の一撃が左腕から放たれる。
そして俺は、クロノワールがその場に足止めした状態の国王に、最高の一撃を放つ!
「『轟打』!!」
「がはっ!!!?」
国王が辛うじて防御した剣に拳を当てる。
しかし、それだけじゃ防ぎきれなかったのか、後ろに吹き飛ばされる国王。クサリさんが受け止めなかったら、後ろの木々を薙ぎ倒していたかもしれねぇな。
「うん。見事だったよ。特に最後のは……これからは、最初から本気を出して良さそうだね」
力試しが終わった時には、国王の剣は柄だけを残して砕け散り、当の国王はクサリさんに支えられている状態だった。
ってか、最初から本気を出されても困るんだけど。
「俺だってボロボロだからな?」
最後に放った『轟打』。本来なら体中の魔力を爆発させるように放出する『轟』を、右腕一本で行っている。右腕一本に凄まじい衝撃が走るから、骨も筋肉も悲鳴を上げるんだよなぁ。
『剛打連拳』を右腕一本でやっている感じだ。しかも、50連発とか、それくらいの量を10秒とかの短い間に打っている気分だ。
「それでも、……ここまでボロボロにされたのは久しぶりだよ」
「……そんな奴がゴロゴロいてたまるか」
どんな世界だよ。化け物じみた奴しかいない世界とか、チートって言われるような能力を持っていても不安になるぞ?
「それじゃあ、こんなにボロボロにしてくれた魔王君には、いつかリベンジしないとね」
「……トランプとかなら勝負するぞ?」
正直、あんな冷や冷やする戦いを序盤から繰り広げたくない。
「はははっ。それなら僕の圧勝が決まってしまうじゃないか」
「……試してみるか?」
「はははっ。……いいだろう、ババ抜きでいいかな?」
望むところだ……!
こうして、平和で熱い戦いが幕を開けた。
トランプは全敗だった。……まずはポーカーフェイスを覚えねぇと。




