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三代目魔王の挑戦  作者: シバトヨ
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初めての闇に挑戦!

「そこまでして、なんで笑っていられるんですか!? 貴方は!!?」

 薄れていく意識の中で、気の強そうな女性の声が俺の脳に響いてきた。


 その直後には、体がズタズタになる感覚。


 チラッと見えたのは、戦いの時に負った、傷だらけの俺の体だった。




「……で? これはどう言うことだ?」

 気が付いたら魔王城のベッドの上だった。

 ってか、体が戻っている………………と言えるんだろうか?

 まぁ、なんでそんなハッキリしないのかと言うと……

『起きられましたか、魔王様』

「あ、あぁ……目が覚めたよ」

 頭の中で女性の声が響いてくるんだよ。

 しかも、あんまり覚えてないけど、夢の中にまで現れた気がする。

『では、本日のスケジュールですが、……病み上がりの魔王様が急に仕事をされるのは、体に良くありません。本日は一日中ゴロゴロとして頂くのがよろしいかと思います』

 いきなり始まったスケジュール確認。おまけに激甘だ。過保護な親バカの姿ともろに被っていた。

「いやでも、何ともな『い訳が御座いません! 魔王様の足下にも及ばない私が……勝手にあなた様の体を使ってしまったのですから…………もう、死んで詫びるしか方法が思い付きません』……いや、死ぬ必要もないから」

 ちょっと口を開いて反抗すればこの有り様だ。ネガティブにも程がある。

 結果的に

「はぁ……分かったよ。誰かが来るまで、もう一眠りするよ……」

『はい! そうしてください!!』

 ……こう言わざるを得ないのだ。

 ってな訳で……本日5回目となるやり取りの後に寝る俺だった。腹減ったなぁ……。




 あまりの空腹に耐えられず、ご飯を要求すると、真っ黒な人の形をした影が食事を運んできた。

 廊下で起きた悲鳴は、誰かがこの得たいの知れない人影を見たからだろう。

「あ、ありがとう……」

 俺がお礼を口にすると、黒い影は床に溶けて消えた。溶けた形跡も見当たらない。

「……今のってなに?」

 誰も居ない部屋で、独り言のように呟く。

 すると、頭の中で1人の女性が嬉しそうに説明を始める。

『はい! 闇属性の上級魔法です! 1度与えた命令を完遂するか、途中で掻き消されない限りは、消えることのない人形を生成する魔法です! 有効範囲も生成できる数も、理論上は無限ですが、距離や生成した数、与えた命令によって魔力を大きく消費いたします!』

「へ、へぇー」

『先程、食堂まで向かって魔王様の体を考慮した食事メニューを作らせ、ここまで持ってこさせるのに、およそ1パーセントの魔力を消費してしまいました……もう、死ぬしかありません……』

「いやいやいやいや! 死ぬ必要ないからね!?」

 だいたい使いたい放題の魔力を有効活用してくれるなら、大歓迎! ……だと思う。

『はっ! 魔王様のお役に立てて、私! 感激で胸が張り裂けそうです!!』

 感情の被服が激しいってのは、こういうことを言うんだろうなぁ。情緒不安定でもいい。

「そうだな……俺の魔力なら問題無さそうだから、使うときは事後報告でもいいから教えてくれれば有り難い……かな?」

『はっ! 承知いたしました!!』

 目の前にいたら、絶対に敬礼をしてるだろうなぁ。

 そんな微笑ましい姿を思い浮かべていると、扉がノックされる。

『魔王様、先程の上級魔法『ブラックドール』を使わせていただきます』

「え? う、うん」

 真剣な口調で言われて、曖昧な返事を返してしまった。

 こういう時は、大概ろくなことになら無いんだよなぁ。


「……ねぇ? 魔王ちゃん?」

「何も言わないでくれると有り難いんですけど。リリンさん」

 案の定、ノックをしたのはクロノワールと因縁を持つリリンさんだった。

「……何時から闇属性の上級魔法が使えるようになったのよ?」

「目を覚ました時からですけど……って、うるさいなぁ~。後で聞いてあげるから、少しだけ静かにしてくれねぇか?」

 クロノワールがさっきから、リリンさんに対する不平不満を俺にだけ垂れ流してくる。

 周りに聞こえないため、この状況は不便きわまりない。

「……私何も喋ってないけど? 頭でも打ったの?」

 おかげで、こんな心配をされるだろうなぁ~って考えていた1時間後に言われたよ。

「俺の頭に……多分ですけど、クロノワールが居るんですよ。ってか、クロノワールって女性だったんですね」

 本当ならさん付けで呼ぶべきなんだけど……呼んだ瞬間に自殺願望を発揮したから、こっちも必死に止めた。

「……なるほどね。魔王ちゃんの魔力を使って、闇の精霊になったクロノワールが魔法を使ってるわけね。……そりゃあ、掻き消せないわけだ」

 俺の説明で納得するリリンさん。俺だったら、今の説明で納得できねぇけどな。

 だって、黒い人影に剣を突きつけられた状態で、360度完全包囲されてるんだからなぁ。

「……クロノワールと話すことって出来るの?」

「ちょっと待ってください、本人に聞いてみますから。……っで、どうなんだ?」

 俺が聞かれたことについて、頭の中に居るクロノワールに聞く。

『可能でございます。……しかし、私ごときゴミ屑めが、魔王様のお体を使用するなど……恐れ多くて出来ません!』

 俺が気絶するまで俺に向かってゴミ屑とか言ってきたくせに、今では立場が大逆転だ。正直、素直に喜べない。

「……一応出来るけど、精神的に俺の体を使いたくないって」

「なにそれ? 魔王ちゃん、嫌われてるの?」

「なんで?」

「だって、精神的に受け付けられないんでしょ? それって心の底から嫌われてるってことじゃない?」

「えっ!? そうなの!?」

『そのような考えは全くもって、考えておりません!! 私は魔王様の存在がなければ、生きていく事の出来ないちっぽけな存在なのです!! もし、魔王様が消えろと仰るならば、笑顔でこの命を絶ちましょう!!』

「そんな物騒なことを、声高々に言わないでくれないかなぁ!?」

 洒落じゃすまねぇぞ!?

「えっと、使っていいから、リリンさんの質問に答えてあげてくれないか? 頼むから」

『はっ! かしこまりました!!』

 なんとなく、クロノワールの扱い方が分かってきた気がする。

「それで、リリアーデ。私にいったい何用だ?」

「……あんたの体ってどうなってるのよ?」


 入れ替わる瞬間。

 あれだけ寝たというのに、すっと意識を奪い取られる感覚に襲われ、特に抗いもせずにその感覚に身を預けた。

 目を開くと、水の中に浮いているような感化が身体中を包み込む。プールでプカプカ浮いているみたいな感覚だ。

 多分だけど、俺の耳を通して聴こえる音が俺の頭にも直接響いてくる。音を直接頭の中に叩き付けられているみたいで、……慣れないと少し気持ち悪い。

 目から入ってきた情報も似たような感じだ。

「……あんたの体ってどうなってるのよ?」

 入れ替わった直後に、リリンさんの声が頭の中に響いてくる。

 そして、入れ替わった体を見るクロノワール。

 その視覚情報により、俺の頭もパニックだった。


『何で俺の体が、女になってるんだよ!?』

「どうして魔王様が、私になっているんですか!?」

 2人して理由が分からなかった。

「も、申し訳御座いません! わ、私が死ねば元に戻ると思いますので! サックリ死にます!!」

『まてまてまてまて!? クロノワールが死んだら、俺も死ぬかもしれないから止めろよ!!?』

「はっ! 申し訳御座いません! 例え世界が滅ぼうが、この体を守りきって見せます!!」

 本当に守りきりそうで怖い。……死ぬよりは、かなりマシだけど。

「……まぁいいわ。それよりもクロノワール。コレを解いてくれないかしら? 話しづらくてしょうがないのよ」

「ふんっ。誰がお前の言うことなど。絶対に解除『クロノワール』してやる。今すぐにな」

 クロノワールは指を鳴らして、黒い人影の集団を消す。

 ちょっとずつだが、クロノワールの扱い方が分かってきた。

「はぁ~。まぁいいわ。それよりも聞きたいことがあるのよ」

 大きな溜め息をついたリリンさん。俺だってつきたくなるから、文句の1つすら言えない。むしろ、同情しちまう。

「……精霊は何人居るの?」


 なんか、とんでもない話になりそうだなぁ。

 ちょっと精霊について、おさらいをしておくか。


 たしか、精霊ってのは、属性外属性を除いた六大属性を(すかさど)る人達の事だ。

 今なら、クロノワールが闇属性の一角を担う存在だ。

 だから、結果から言えば、6人なはずだけど……リリンさんがそんな初歩的なことを知らないとは思えない。

 何かあるんだろうなぁ~きっと。

「知らん!」

 目の前に……というか、本来の姿に戻ったクロノワールが、自信満々に口にする。せめて6人って言えよ。

「あんたねぇ……」

「私が考えるべきなのは、1から100まで魔王様のことだけだ! 他の精霊など、何処で死のうが勝手にすればいい」

 とんでもねぇ人が精霊に選ばれたもんだな。

「ならもういいわ、次の質問よ。闇の精霊になったあんただけど、他の精霊はどうなってるのよ? 分からないなら、この前のあんたの状況で良いから教えて頂戴」

 それは俺も聞きたいな。

「いいでしょう。……他の精霊と言うよりは、私たち六大属性の精霊は、魔王様の意識に囚われております」

『えっ? そうなの?』

 クロノワールの予想外な説明に、思わず声をあげる俺。

「はい。精霊同士ならば、意識と身体を切り離すことで意思疏通することができますが、肉体を動かすことは出来ません」

 ……なんだか途端に申し訳なくなってきたなぁ。

「しかし、魔王様の意識が薄れている……あるいは、完全の途絶えている場合は、魔王様のお体を使用することが出来るのです。……他にも細々とした条件はございますが、一番大きな条件はこれでしょう」

「あれ? でもあんたって、この間、魔王ちゃんの身体を奪ってたよね? あれはどうやったのよ?」

『そうだな。あの時は突然意識を失ったけど、身体を奪われる感覚は俺にもあったぞ?』

 リリンさんの質問に、俺自身も気になる点を揚げる。

「さすが魔王様です! そこまでお気付きであるならば、答えまではもう1歩です!」

 スンゲェ嬉しそう。

 顔を見れないから確証は無いけど、絶対眼をキラキラさせてるよ。

「以前地下で、私が魔王様のお身体を使用したのを覚えられていますでしょうか?」

『あぁ~もう1年近く前のやつな。国王に持ち掛けられた力試しの最後の領土の時だな。覚えてる覚えてる』

 まぁ、事後報告で聞いた内容だけなんだが。

「あのときの私は、粗大ゴミと矮小な小娘にやられてしまいました」

 粗大ゴミ(ガスター)とオルな。

「そして、意識を完全に立たれる前に、対象の魂を抜き取る闇属性最上級魔法を発動準備常態にしたまま、私は意識を手放したのです」

 何気に恐ろしい事をやってくれてたんだな。

 背中がない今の俺だけど、冷や汗ビッショリだぞ。

「それで、あの時に発動条件を満たしたから、魔王ちゃんの魂を抜き取った挙げ句、その身体を手に入れたって訳ね。……ちょっと納得したわ」

 今の話で理解をするリリンさんが凄いのか、理解できない俺がバカなのか……。たぶんリリンさんが凄いんだろうなぁ。

「それじゃあ最後の質問よ。本当はまだまだ沢山聞きたいことがあるけど、あまり独占すると怖いから」

 リリンさんを怖がらせるモノって、いったい何だよ?

「あんたは、魔界(わたし)の敵? それとも味方?」

「ふっ」

 クロノワールは、いつものように鼻で笑った。


 ただ、――

「私は、魔王様の味方だ」

 表情は、幼い頃のように晴れ渡っていた。


「そっ。そんじゃあ、恋愛の先輩としてアドバイスしてあげる」

「お前のアドバイスなど無くとも成就して見せようぞ!」

 なんだか、物々しい雰囲気だったのに、今はガールズトークって言葉が合いそうだな。いや、俺は男なんだけどね?

「今回の魔王は、競争倍率が激しいわよぉ~? あの人はおじさんだったけど、今回はかなり若いからねぇ~」

「ぐっ! 確かに……!」

 おいおい。本人が()()に居るんですよ?

 そういう話は、俺の聞こえないところでやってくれよ。

 ……だいたい、競争倍率が高い? 何処をどう見たら、そんな評価が下るんだよ?

「『白は全てを受け入れる愛。黒は全てを拒絶する恋』よ。忘れずに精進することね」

「はっ。昔呼んだ恋占いの一小節のまんまじゃないか」

「けど、これで私はあの人と結婚できたんだもん。きっと効果があるのよ」

「………………」

『完全に、言いくるめられてるな』

「ま、魔王様!? 何時からいらっしゃったのですか!?」

『いや! 最初からいただろ!?』

 慌てふためくクロノワールに背中を向けて部屋を出ていくリリンさん。

 それとなく入ってきたのは、オルとドーラだった。

 そういや、助けてからどれくらいの時間が過ぎたんだ?


「「お姉さんは、誰……?」」

 入ってきて早々。クロノワールの手足(真っ黒な人影)に捕まり、拘束を解くように言いつけるはめになった。

 この調子だと、この部屋に訪れた全員が同じ目に遭うだろう。

「貴様等のような矮小な小娘に、名乗るな名など『自己紹介しような?』クロノワール・グラムだ!!」

 ほんと、素直で良い子だ。

「……あのお姉さん、頭でも打ったのかな?」

 こうやって心配されるのが悲しいけど。

『クロノワール、少し変わってくれねぇか? 事情を説明しないと俺が泣きそうだ』

「はっ! ただいま!!」

 そう言って、クロノワールは目を瞑る。


 同じように目を閉じた俺が、クロノワールの声で瞼を上げると、……目を点にした2人の顔が目の前に迫っていた。

「……2人とも近い」

「「あっ……ごめんなさい」」

 軽く頬を赤らめながら戻る2人。

『やはり矮小な小娘達に違いありません……』

 矮小ってどういう意味だっけ? 俺はとぼけるので精一杯だった。


「つまり、魔王様の中に女の人がいるって事なの?」

「まぁそうなるな」

 俺の認識を再確認するつもりで、2人に説明をする。再確認って言っても、大層な事じゃないんだけど。

 要約すれば、多重人格者な上に自分にしか見えない友達が出来たようなもんだしな。……なにこれ、怖い。精神科にダッシュで向かうべき人じゃないのか? 俺って。

「……そして、その女の人が魔王様の身体を使うときは、女の人そのものになってしまうと」

 オルは、怒っているのだろうか? 口調がきつくなっている気がする。

『これでは私の計画が…………!?』

 頭の中では物騒な計画を立てられているし、どういう状況なんだよ。ホントに。

 あまりにも混沌としてきたから、平和そうなドーラに話を振る。

「……ドーラは何か質問はあるか? 分からない事もあるけど、答えられる範囲なら応えるぞ?」

 するとドーラが立ち上がって、ベッドに乗り込んでくる。

「あの……ドーラ?」

 そして、

「イチャイチャチュッチュッってどうやればいいの……?」


 特大の爆弾を投下した。

 はっ。特大爆弾を最後に透過してやったぞ!

 次話は、修羅場だ。覚悟するがいいハーレム魔王め!(涙

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