うとうと
水族館に来ていた。
彼はいつものようにおどおどしていて私もそわそわしていた。海辺近くに建てられた建物内に風がそよそよと吹き抜けていく。
大きなマンボウだ。小魚の群れが水槽の水を掻き回す。薄暗い館内に私たち以外にも休日で癒されに来た多くの客がいた。彼は時折遠慮がちに微笑む。ひときわ大きな水槽の前に随分と長い間、時が過ぎるのを待っていた。周囲の騒音から切り離されたようなふわふわとした感覚。魚の群れが通り過ぎる度にふと思い出したように目を合わせる。
言葉はない。いつまでもこうしていたいと思った。いつまでも、とかずっと、という言葉はそうであることが叶わない。
だから私は知っている。この時間が永遠ではないことを。じりじりと差し迫ってくる。胸がどきどきして頭が沸騰しそうな程熱い。
彼は知らない。私の気持ちを。
周りの景色がだんだんとピントが外れて
心臓のどくどくいうのを心に閉まって
私の今日が始まる。