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色彩のない世界

 わたしは、あの時のことを忘れない。


 無機質な部屋の中、台に顔を突っ伏して泣く女性と、立ったまま表情を押し殺して黙る男性。

そして、台の上には・・・・・・。


「沢木君・・・・どう・・・・して・・・」


わたしの好きな人が横たわっていた。





膝に置いてあるキャンパスを眺めていると、先生がそのキャンパスを覗いた。

「斎藤さん、何回目だと思ってるの!」

「何回目、ですか?」

「いい加減にしなさい。貴女あの事故からずっとそんなでしょ。」

先生はずっとと言うけど、わたしはさっきまであの無機質な部屋の中にいたはず。

「なんでわたしは此処に居るんですか?」

「なんでって、学校よ、斉藤さん。貴女は部活をしているの。」

そうか、わたしは沢木君がいなくなった後にこうなってしまったんだ。

 わたしの目の前に広がるのは灰色の景色・・・・・彩度のない世界の住人になってしまった。

 記憶の中にある景色は沢木君のいるものばかりで、鮮やかに彩られていた。渡されたスケッチブックを開くと、そこには記憶にあるものと同じように沢木君が笑っている姿があった。でも、やっぱり灰色だ。

 記憶も、やがてはこのスケッチブックの様に彩度の無いものになっていくのだろうか。





 記憶に浸っていたせいか、気付いたのは部員の一人とぶつかってよろけた時だった。

 周りを見ると泣き叫ぶ人や逆に笑い転げる人もいた。何が起こったのか分からず戸惑っていると、突然窓の外に影がよぎった。直後に重い打撃音と呻き声。多分飛び降りたか落とされたのだろう。

「や、やだぁ・・・・死にたくないよぉ」

『死』という言葉に反応して、頭を抱えているその人を見る。

「何があったの?」

「あと数十分で地球は滅亡するそうよ。まあ、信じないけど。」

質問に答えたのは横の机で帰り支度をする先輩だった。

「先輩はどうするんですか?」

「塾。・・・・でも誰も居ないかもしれないわね。また明日、斎藤さん。」

「お疲れ様です。」


 先輩を見送った後、わたしはまた斎藤君のことを想った。部活で斎藤君を書いた時の記憶を辿りながらベランダに出ると、足元に人が倒れていた。さっき上から落ちてきた人だろう。血を大量に流して動かない。

わたしも死ぬのだろう。そのことに不思議と抵抗はなく、寧ろこの世界から抜け出せるという開放感があった。この開放感をもう少し感じていたいと目を瞑る。

――死んだら沢木君と同じ場所に行けるのだろうか。会えるだろうか。

そうだったらいいと期待をしてしまう。

「沢木君、もうすぐそっちに行けるから。」

だから待っててね、とわたしは呟き、スケッチブックを撫でた。

 ふわ、と柔らかい風が吹いて髪がなびく。懐かしい気がして目を開けると目の前に鮮やかな色彩が広がった。思わず立ち上がり周りを見渡すと、見慣れた風景に赤い色が上塗りされているのが解る。

「……沢木君?」

色彩が戻ったのは沢木君のおかげとしか思えない。

「沢木君、沢木君――」

すぐ近くに沢木君が居るような気がして名前を繰り返し呼ぶ。




 優しい気配が、わたしを包んだ。

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