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黄昏の御柱  作者: 倉木 優
二章 幽玄の地
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仮初の平和

 ――鶴龍。


 その言葉の意味を正しく知ったのは、それから一日のことだった。


 鶴龍の名を、一部を除いて誰も知らなかった。何故か。

 ――鶴龍は世界の“裏”に身を置いていた秘密結社だったからだ。闇に生きている住人――しかもその中でも幹部クラスの国レベルでの発言力があるような要人しか知りえないその“幻の名”。

 今回、世界の惨状を見るに見かねて“裏”から“表”へと姿を現したのだと、鶴龍のトップである鶴龍隼人(かくりゅうはやと)は述べる。


 鶴龍は世界中に蔓延っていた魔物たちを一掃。光の柱を沈め、完全に制御下に置いた。

 さらに世界中に光を操る能力者を派遣。

 光の能力というのは本当に様々な種類があるらしく、そのなかでも、時を操る能力はずば抜けて復旧の早期解決に一役買った。

 魔物によって破壊しつくされた家や土地を魔物に襲われる前の状態にまで戻し、物凄いスピードで復旧は進んだのである。ましてや日本は小さい島国、復旧があらかた完了するのに数日も掛からなかった。

 また、治癒の能力も、同じ理由で民衆の支持を買った。


 鶴龍は世界を激震させた。

 諸各国はもちろん、アメリカなどの強国、国連でさえ録に鶴龍に反抗する事は出来なかった。

 精神的にも、世界的にも、軍事的にも。主に最後の理由が大きい。

 世界は今鶴龍が魔物の出現を止めてくれているからこそ滅びを免れている。いまだ世界は滅びの二文字の紙一重に居るのだ。鶴龍が魔物を押さえる技術を世界に|行使してくれているからこそ《・・・・・・・・・・・・・》、世界の平和はある。

 考えても見て欲しい。

 これはありえない例だ。

 鶴龍の本拠地がどこだが、世界はまだ支部さえ発見できていない。今まで裏で家業をしていたのだから当たり前の話なのだが。だからこれは不可能な例だ。だが仮に万が一鶴龍の力が欲しいと、考えなしの国が鶴龍に軍を派遣したとしよう。

 当然恩を仇で返された鶴龍は怒り、光の柱をその国へと出現させ、魔物の軍勢を大量に送り込み、能力を保持している鶴龍の人間を送り込ませる。

 考えずともその先は推して知るべしだ。

 というよりは、実際そんな事があった。不可能な例とはいったが、なんらかの公での交渉時や世界中の要人などが集まるパーティーに呼ばれたときなどは、暗殺者を差し向ける事くらいは、けっして不可能ではないのである。

 その国の末路は、それは悲惨なものだったという。最初の魔物の来襲が生温いと思えるほどには。

 それからというもの、鶴龍に逆らうものなど誰一人としていない。

 ――え? 核爆弾があるじゃないかと? 原爆で鶴龍を脅して見せたらいいだって? 馬鹿言っちゃいけない。

 あの“光”は原爆ですら通さないと実験を見せ付けられて自他共に証明されているし、鶴龍の総本山がどこだか分からない状態で心当たりのある場所に原爆を辺りかまわず投下でもしたら世界が滅ぶ。そんなものは本末転倒でしかない。そもそも鶴龍が原爆を所持していない可能性すらひどく低い。相手が同じ威力の武器を持っているのならば、この脅しは全く効力を持たないものだ。

 軒並みの強国が鶴龍に土下座する勢いの差。

 各国の王族でさえもが礼儀を尽くせざるを得ない差。

 事実上、鶴龍は世界の頂点に君臨したのだ。




 それからだいたい二週間後、ある程度の平和を取り戻して、蓮達は暢気に朝食を取れているというわけだ。

「これは父さんからの情報だが、今までも秘密裏に国を乗っ取っていたらしいな。表に出てきたからか、躊躇というものがなくなってきたらしい。特に隠すという事もしなくなった。驚いている輩も多いようだが、今までの歴史を鑑みるに、これもそんなに言うほど珍しい事でもあるまいに。大げさな」

 身も蓋もない蓮の言い様に、秋彦は苦笑した。

「全く、鶴龍も国を秘密裏に乗っ取ってたなんて、まどろっこしい事するよな」

 武力を行使すれば、それこそアメリカでさえ乗っ取れる。秋彦の意見は一理あるだろう。

「そのほうがスリルがあってよかったんじゃないか? 鶴龍にとって、国の乗っ取りは、いわば一種の頭脳ゲームみたいなもんなんだろう。知らんが」

「……いや、その邪推の仕方もどうなんだろうな、蓮」

「でもさあ」

 そこで玲が二人の会話に口を挟む。いつの間にか皿の上のサンドイッチは一欠けらも残っていない。サンドイッチがよほどおいしかったのか、玲の表情は御満悦だ。

「実は鶴龍が自作自演してたっていう噂はともかくとして、鶴龍のおかげで今があるんだし、鶴龍に対しての評価って結構割れてるよね、実際」

「確かにな。これも父さん情報なんだが、鶴龍ばかりに光の術を――“光術”を行使させてはいけないと、鶴龍の排斥組織も秘密裏に結成されたらしい。鶴龍ならすでにこの情報以上のものを掴んでいそうな気もするが」

 蓮は紅茶のカップに口をつける。

 余談だが、蓮と秋彦はもうすでに朝食は終えている。蓮たちが頼んだのはサンドイッチに鶏肉と野菜をはさんだもの。ソースと丁度いい具合に混ざり合って、非常に美味だった。

「いや、蓮の両親本当に何もんだよ……」

 極秘の情報をほいほい息子に話すような両親。いろんな意味で恐ろしい。

 そもそも根本的な話、このような物騒なデンジャラスな話をさわやかな朝のカフェテラスで、なおかつ高校生が語るような話題ではないのだ。

「英語で話しといてよかったよね。日本語で話してたら色々まずい事になってたと思う」

 今現在、蓮達は日本語ではなく英語を使用している。英語をペラペラと使いこなしている所、やはり蓮たち三人は普通の高校生ではない。あまつさえ、国家機密の情報を交わしておいて顔色一つ変えやしないのだ。おかしいを通り越してもはや異常である。玲などはここ二週間で一皮も二皮も剥けたのか、一層肝が太くなったようだ。命の危険に晒された事をばねに出来る事は、純粋に賞賛に値する事ではある。末恐ろしい事この上ないが。

「うん。周りの人たちがな」

「周りの人たちって言えば、ここ数日で鶴龍に入りたがる人増えてるみたいね」

「それはそうだろう。鶴龍にはいって光を操る術を手に入れたら、それこそ身の安全は保障されたようなものだ」

「噂でしかないけど、貰ってる給料も馬鹿みたいに高いらしいぜ。入るにしたって厳しい試験があるらしいけど」  

「ていうか、蓮たちならすぐにでも採用されるんじゃない? 光操れるし、頭いいし、蓮なんて時々一生ついていきたい! って思わされるときあるし」

「蓮って、幹部どころか、いつのまにか鶴龍トップの右腕の座にでも納まってそうだよな」

 冗談を言っているような口調ではあるが、秋彦と玲の目は全くもって笑っていない。本気でそう思っている証拠だ。二人は、本気で蓮がそうなるのではないかと思っている。

 さすがに虚を突かれた様な顔になって、蓮はそうだな、と笑った。細められた瞳には、どこか好奇の色がある。

「確かに興味はあるな。鶴龍にはどれほどの人物が居るのか。俺を越える奴はいるのか。世界をまたにかける鶴龍が、これからどうなっていくのか、そばで、当事者となってみていくのも面白いかもしれない」

 瞬間、耳元で、秋彦や玲には聞こえないような小さな声が発せられた。

「なら、なってみるかい、龍ヶ峰蓮。この鶴龍隼人の右腕に」



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