プロローグ
「その力……。私達にも扱えないものでしょうか」
女の言葉に、着物を着た長身の男は無表情の冷たい目で女を見下ろす。
「フン、貴様ならともかく、素養の無いものが扱えるほど安い力ではない」
常人が見たら震え上がりそうなほどに冷え冷えとしている視線を真っ向から浴びても、女は少しもひるむ様子は無く、思案するように僅かに目を伏せた。
「やはり、全員に“覚醒”させるのは無理がありますか……」
やや残念そうな女の声に、男は目を細め、嘲笑するように鼻で笑った。
「当たり前だ。古代の人間ならば、あるいはそれも可能かもしれんが、今の腐りきった現代人では限りなく不可能に近い」
そう吐き捨てて話は終わったとばかりに歩き出す男に、女は相変わらずの落ち着いた表情で、男の背に呼びかけた。
「私達と、共に手を取り合うつもりは――」
「無い。皆無だ」
遮った男の声は、冷たさを通り越してもはや抑揚が無い。だからこそ、手を組むつもりは全くないのだと、女にも察せられた。
男は女に口を挟む余裕を与えず、すぐさま言葉を続けた。
「俺は俺で勝手に行動させてもらう。――――それに」
スタスタと止まる気配も無く歩いていた男は、そこでふと立ち止まった。
振り返った男の顔を見た女は、わずかに息を呑む。
女のほうを振り返った男は、口元にぞっとするような薄い笑みを浮かべていた。
「――それに、俺は“あの人間”が苦手でね」