第4話
5
これで、はっきりした。
ヒミコは、PCじゃない。
ERゲームでは、顧客が演じるキャラクターをPC、つまりプレイヤー・キャラクターと呼ぶ。
スタッフが演じるキャラクターをSC、つまりスタッフ・キャラクターと呼ぶ。
PCに対しては、いかなる場合においても、セクハラまがいの行為は許されない。
偶然接触するならともかく、こんなふうに堂々と十秒間もおっぱいにさわることはできない。
さわろうとした時点で保護機能が働き、そもそもさわれない。
だから、ヒミコは間違いなくSCだ。
SCにも原則としてセクハラは許されないが、ストーリーの進行上必然性があれば、ある程度は許容される場合がある。
SCで、しかも好感度のパラメーターがあるのだから、ひょっとすると攻略可能キャラなのかもしれない。
ヒミコの好感度、上げるべし!
今まさに、俺のメーンクエストがはっきりした。
「サルタ殿」
「は、はひっ」
「今、使いの鳥をやった。
すぐに四人の勇士がまいる。
高天原えりすぐりの者たちじゃ。
あなたにその者たちを率いていただきたいのじゃ」
おおお!
最初っからパーティーメンバーが用意されているのか。
ますます見直したぞ、サム君。
ん?
「ヒミコ殿。
率いることができる者の数には、限りがありましょうな」
「いかにも。
一つの部隊は五人までと、いにしえより定められておる。
サルタ殿について行けるは四人までとなる」
パーティー人数の上限は五人か。
だが、なぜこのタイミングで教えてくれるんだ?
すぐに四人が来る。
するとパーティーが組まれる。
……あ。
もしかしたら。
「ヒミコ殿」
「何か?」
「あなたは私と一緒に来てはくださらないのか」
「え?
あ、うむ。
それは、その。
あなたがお望みとあれば」
やたっ。
おっぱいゲット。
「お願いいたす。
どうか私とともに来ていただきたい」
「承知いたした」
〈ヒミコがあなたのパーティーに加入しました〉
よし。
よく気付いたぞ、俺。
たぶんヒミコを仲間にできるのは今だけだ。
予定されていた四人が来てからでは、その選択は不可能になるはずだ。
ヒミコは隠しキャラなのだ。
ぐっふっふっ。
お父さんは隠し事は許しませんよ。
「おめでとうござる、姫」
「よかったですね、サルタさまとご一緒できるなんて」
ヒミコの後ろにいた二人の男が口々に言った。
そういえばいたね、キミたち。
眼中にないから無視してたよ。
「うらやましゅうござる」
「いいなあ」
ありゃ?
この二人、仲間に入れてほしい目線全開だな。
「そなたたちの名は?」
と聞いてみる。
「おう。
わしは、カナヤマ」
「わ、わたしはタケルです」
カナヤマですと?
カナヤマヒコか。
ビッグネームではないか。
「カナヤマどのは、何ができる?」
「何が、といわれても、神ができることが普通にできるだけのこと」
え?
おかしいな。
調べてみよう。
カナヤマのステータスよ、現れよ!
……あれ?
表示されない。
もっと強く念じないといかんのかな。
カナヤマのスキルが知りたい。
知りたい。
知りたいぞー!
……だめだ。
どうなってるんだ。
そういえば、俺自身のステータスって、見られるんだろうか。
お、見えた。
[個体名]サルタ
[種族]神族
[類別]客人神
[属性]なし
[体力]8/10
[精神力]9/10
[スキル]ステータス・スキャン(使用可能回数:0/1)
ええっと、客人神ってのは、まろうどがみって読むんだったかな。
よそから来た神様ってことだよな。
属性はなしか。
体力……低っ!
ヒミコの千分の一しかないし。
しかも二つ減ってるし。
何でだー!
あ、さっきの椰子の実か。
すると何か。
俺はあの椰子の実を五回くらったら死ぬのか?
なんちゅう最弱設定。
精神力もヒミコの千分の一か。
一つ減ってるのは、さっきステータス・スキャンをしたからかな。
そして、スキルと。
一個だけだな。
ヒミコも一個だけだった。
もしかして全キャラそうなのか。
これは増えないのかなあ。
うわっ!
こ、こりゃ何じゃ?
使用可能回数は一回だけで、それも使用済み?
もう使えないのか?
じゃ、じゃあ、俺って。
身分は神様でも、何のスキルもなくて、ちょっとこづかれたら死んでしまうようなキャラなのか?
泣いていいか?
つか、こんなマゾな設定を喜ぶ顧客って、ほんとにいるのか!
い、いや、俺。
とにかくもちつけ。
じゃなくて、落ち着け。
今はカナヤマの能力を確認するんだ。
自分のことはあとで考えればいい。
カナヤマができそうなことというと。
「鍛冶など得手かとお見受けするが」
「おお。
そういえば、わしは金物を何でも生み出すことができるようじゃ」
金物を何でも生み出す?
加工職じゃなくて、創造職なの?
「おおっ?
カナヤマにそのような技芸があるとは。
サルタ殿の眼力は、まこと素晴らしい」
おお。
ヒミコが目をキラキラさせている。
このぶんなら。
[好感度]-1/-10〜10
上がってませんでした。
「わ、私には何か特別な力はないのでしょうか」
と、タケルが聞いてきた。
タケルねえ。
やっぱり、ヤマトタケルなのかなあ。
天津神だとか国津神だとかとは時代がぜんぜん違うけど。
「タケル殿は、オウスとかオグナとかいう呼び方に聞き覚えはありませんか」
「そ、それは私のことです。
サルタさまは恐るべき叡智をお持ちなのですね」
うーん。
やっぱり、ヤマトタケルか。
戦力としてはそれなりに強力そうだなあ。
というか、俺、ヤマトタケル好きだし。
仲間に入れていろいろ話したら楽しいだろうなあ。
しかし、もうタケルと名乗ってるってことは、クマソ征伐は終わってるわけかな?
どうでもいいけど、クマソ兄弟の弟のほうのクマソタケルを殺したときに、「お前は強い男だからタケルを名乗れ」って言われてヤマトタケルになったんだよな。
でも、あれは、女になって色仕掛けでたぶらかし、酒を飲ませて油断させた上で、いわば暗殺したんだよね?
それなのに英雄の名であるタケルを名乗れなんて、あれ絶対皮肉だよね。
ところがオウスはそれからヤマトタケルを名乗り続けるんだから、その恥と死ぬまで向き合ったってことなのかな。
そうじゃないとしたら、オウスはいつヤマトタケルという名にふさわしい武徳を得たんだろうか。
ヤマトタケル伝説では、そこのところが一番分からん。
まあ日本最古のTS風味文学としての輝きは曇らないけど。
「サ、サルタさま?」
「ああ、失礼。
タケル殿には、女装とかの能力がおありかも」
「……ありません」
あ、暗い顔になった。
心の傷をえぐっちまったかな。
まあ、こんなやつより、カナヤマが気になる。
「カナヤマ殿」
「なんでござろう」
「えーっとですねえ。
たとえば鍬が作れますか?」
「む?
おお。
できますな。
お待ちくだされ。
掛け巻くも賢き天之常立神の御前を伏し拝みて乞い祈みまつらくは、天地万物の生成をしろしめすそが御徳のまま、吉備の真金のいと硬き鉄鍬生れ坐せと白す」
うおっ。
いきなり別天津神の名を呼びやがったよ。
さすがカナヤマ。
ぱねえ。
「できましたな」
「うーむ。
カナヤマ殿、お見事です」
ほんとに見事な鍬が出てきやがった。
じゃあ次いってみよう。
「剣は作れますかな。
鋼の剣が」
「……いや。
できません。
祝詞が浮かんでまいりませぬ」
祝詞ときたか。
実施可能な事項を思い浮かべたら、必要な呪文が勝手に心に浮かんでくる仕様なんだろうな。
どうも武器は無理っぽい。
しかし、武器以外の金属製品が何でも出し放題というのは、相当なチートスキルだわ。
こいつは連れていったほうがいいな。
……いや、待てよ。
ウズメはどうなる。
これから来る四人の中の、いったい何人までがスイッチ可能なんだ?
それは分からない。
待てよ。
もし四人全員が女神だとしたら、どうなる。
おお!
ということは、来たるべきウズメとの愛欲の時間のためにも、ハーレムエンドのためにも、これ以上のスイッチはするべきじゃない。
「むむっ。
ひらめいたっ。
カナヤマ殿。
タケル殿」
「おうっ」
「はいっ」
「あなたたちはここに残ってやるべきことがある。
しっかりと留守を守られよっ」
「そ、そうなのか。
よし、お任せあれ」
「わ、分かりましたっ」
ぐふふふふ。
ちょろいぜ。
「サルタ殿。
四人の勇士が到着いたした」
もう来たの?
ウズメちゃん。
ウズメちゃんは、どこ?
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