第8話 人里での一日
朝食を食べて、冷たい水で顔を洗い、目を冷ました俺は今、人里に向かって歩いている。
「人里か……あの時以来だな」
「おや? 人里に行った事があるご様子で」
「ん? 入ってはいない。外から見ただけだ」
「なるほど……で中の様子は?」
「人々に活気があり賑やかだった。……外の世界より良いぐらいな」
「楽しみですね」
俺は水姫と会話しながら人里へと向かった。
人里に着くと俺は周りを見渡した。
理由はどんな店があるのか気になったからだ。
それともう一つ。
以前、人里の前に居た女性がいるかを確認したかった。
あの人なら人里に詳しそうだしな。
「まぁ大通りを進めば見つかるだろうな」
「それにしても賑やかですね。ここは」
「あぁ、とても楽しそうだ」
大通りは店で商品を売る声、買う者の声、笑い声等……色々と賑わっていた。
外の世界だと、こういう光景は中々見れない。
そんな活気の中で俺は考え込んだ。
「さて、どうするか……」
「どうしたんですか? 主」
「いや、人里に詳しい人がいたら楽だなって……」
「ん? 君はあの時の……」
水姫に説明しようとしたら聞いた事のある女性の声が聞こえた。
「あ、居た。人里に詳しい人」
「名前で呼ばな……あぁ自己紹介して無かったな。私は上白沢 慧音。この里で教師をしている」
「俺は風戸 響介」
「私は水姫です」
自己紹介を簡単に済ませて、本題に入る事にした。
まぁ水姫に喋らせるけど。
「あの、慧音殿に頼みがありんして……」
「ん? なんだ?」
「人里を案内して欲しいのでござんす」
「任せてくれ。しっかりと案内してやろう」
よし、これで大丈夫だな。
一応保険もかけておこう。
「……水姫」
「はい。なんでしょう? 主」
「店の場所とかをメモしておけ」
「かしこまっちゃいました」
(これで安心だな。)
俺は水姫に色々と任せて、ゆったりとついていく事にした。
「それじゃあついて来てくれ」
「おう」
「了解しちゃいました」
俺達は慧音さんについて行った。
ちなみに慧音さんは水姫が気になっていたらしく色々と聞かれた。
全ての案内が終わり、今は茶屋で休憩中だ。
「いやぁここは賑やかで良いなぁ〜」
「同感です」
「ここを気に入ってもらえて嬉しいよ」
みんなで団子を食べながら会話する。
すると向こうから子供達が走ってきた。
「「「慧音せんせ〜い!!」」」
「おぉ、お前達か」
慧音さんは子供達に手を振る。
「生徒さんですか?」
「あぁ、元気な教え子だ」
子供達は近づいてくると俺と水姫が気になったらしく直球に質問してきた。
「あれ? お兄さん達誰?」
「ん? 俺か? 俺は風戸 響介だ。よろしくな」
「私は水姫です。よろしくお願いしますね」
あれ?水姫が普通に敬語が喋れてる?
何故?
「それでお兄さん達は何しに来たの?」
「私達、遠いところから引っ越して来たんです」
「それで慧音さんにここの案内して貰ってたんだ」
正直、水姫のは嘘に近いが…………問題無いだろうな。
しかし……喋り方でここまで雰囲気変わるのか……。
「慧音先生って良い人でしょ〜?」
「えぇ、とても良い人です」
「こんな人が先生だなんてうらやましいな〜」
「「「へへへ〜」」」
子供達は笑顔だ。
なんかこういうのを見ると和むなぁ……。
そんな時、俺は面白い事を思いついた。
「あ、そうだ。ここで会ったも何かの縁。一つ面白い物を見せてやろう」
「「「え? 何々?」」」
「水姫。何か球とか無いか?」
「ありますよ。確か……小さめの鞠が一つ」
「何で持ってるんだよ……まぁ良いや」
俺は突っ込みを入れつつ、鞠を受け取る。
鞠の大きさはバレーボールくらいだ。
「それと桶無いかな?」
「ならこれを使うかい?」
「ありがとうございます。少しだけお借りしますね」
茶屋のおばあちゃんが貸してくれた。
この桶はバケツみたいな感じだった。
ただし持ち手はついてない。
「さて……この鞠と桶を使って手品をしようと思う」
「ねぇ、どんな手品なの?」
「見てれば分かるよ。まずは桶の中に鞠を入れるんだ」
子供達は目を輝かせて見ている。
「そしてこの桶に布を被せる。……そうだな。そこの少年、この桶を持っててくれないか?」
「え? うん、わかった」
俺は少年に桶を持たせた。
「君達で布を押さえててくれ。力強く、でも布が破けない程度にな」
「「えいっ!!」」
子供達は頑張って布を押さえている。
「それじゃあ……3・2・1・0!!」
俺は1と数えた時に左手を翳した。
そして0と数えたら右手の指を鳴らす。
「さぁ、その布を退けてごらん?」
「うん…………あれ?鞠が無い!?」
「どうだ!! これが"瞬間移動"だ!!」
この台詞を聞いたら分かるだろう。
もちろんタネもな。
子供達は「どうやったの!?」とか「スゲー!!」とか言っていた。
どうやら喜んでくれたようだ。
いや〜和むなぁ〜。
「あ、ちなみに鞠を出す事も出来るよ?」
「「「出して出して〜!!」」」
「んじゃ出しますか」
俺は子供達の期待に応えるため、鞠を出す事にした。
「それじゃあ、まずは桶を裏返して地面に置く」
「「「うんうん」」」
「そして君達が上から押さえる」
子供達は桶を押さえた。
「それじゃあ行くよ。3・2・1・0!!」
また左手を翳して、右手の指を鳴らした。
「さぁ桶をどけると良い」
子供達は桶をどけた。
するとそこには鞠があった。
「「「スゲー!!」」」
子供達は凄く喜んでくれたようだ。
「「「それじゃあまたね〜!」」」
「またな〜」
そして子供達は帰っていった。
「響介……君は凄いな。あんな手品が出来るなんて……」
「俺からしたらかなり簡単ですよ? 技を使っただけですし」
「まぁ……そうですよね。手品の名前を言った時点でわかってました」
「ん? 話の内容が掴めないんだが……」
「俺は瞬間移動って技があって…………」
この後、技の説明からタネ明かしまでを人里の出口に向かいながら説明した。
「どうです? わかりました?」
「あぁ、理解したよ。しかし興味深い……」
慧音さんは何か考え込んでいた。
「あ、もう出口か」
「そうですね……あ、主。あの件について聞いた方が……」
「そうだな。……慧音さん。一つ良いですか?」
「ん? なんだ?」
「ここでバイトとか無いですか?」
「どうした? いきなりバイトなんて……」
まぁ普通、そういう反応だよな。
「いや、こっちの通貨とかを持って無いから稼ごうかと……」
「なるほどな……わかった。探しておこう」
「そうしてくれるとありがたいです」
よし、これでお金はしばらくすれば大丈夫だな。
とりあえずしばらくは何とか魚とか山菜を食べて過ごすか。
「それじゃあ俺達は帰ります」
「あぁ、わかった。それじゃあ、またな」
「失礼致しちゃいます」
俺と水姫は人里から出て、家に向かって歩きだした。