第65話 対 混沌 戦 Ⅳ
「おらぁ!!」
「読めている……くらえ!!」
「よっ!!」
混沌と響介は格闘戦を続けている。
距離を調整しながらお互いの攻撃を避けていく。
「あと3分……」
「お前、時間を気にする暇があるなら自分の身を心配しやがれぇ!! 超術『次元切断』!!」
混沌は柚希のスペルを掲げて仕掛けてくる。
「ほぅ。技も使えるのか」
「お前を包む次元をまるごと引き裂いてやる!!」
次元切断で響介の周囲の空間を引き裂いた。
響介は後ろへ飛ぶ事で、その攻撃を避ける。
「甘いんだよ」
「隔離『視認困難の空間格子』!!」
「お、行動制限か。やるな」
混沌は空間格子を張り巡らせて響介の動きを封じた。
そして矛を構え、突撃。
「死ねぇ!!」
「そうはいかない!!」
響介は槍を振り回した。
「そんなんじゃ、檻を破壊するなんて出来ないぜ!!」
「破壊? そんな事するわけないだろ」
響介の槍は次第に回転速度を上げていく。
その回転は響介を中心に竜巻を作り出した。
その竜巻はどんどん大きくなっていく。
「近づくな!! "リフューズ・トルネード"!!」
これは"拒絶する竜巻"。
『殺戮』専用防御技である。
「ぐぁっ!! しまった!!」
響介の作り出した竜巻は混沌を巻き込む。
竜巻に飲み込まれた混沌は近づかれる事を響介に拒絶され、空高く舞っていった。
それを追撃するように響介は構える。
「1つ目の大罪……"スロウス・プレッシャー"」
これは"怠惰の重圧"。
「己にかけられる重圧により、心身共に怠惰しろ」
膜のようなものが響介を中心に広がり、空に舞う混沌を包み込んで消えた。
「受け身を………っ!? 体が!!」
混沌は受け身を取ろうとしたが、取れない。
怠惰の重圧は、範囲内の相手の行動力を低下させる技。
受け身を取ろうにも行動力が足りないのだろう。
混沌はそのまま地面へ落ちていき、地面に叩きつけられた。
「がはぁっ!!」
「……そろそろ自分の体で戦えよ。貴様の存在は保証してやるからな」
「げほっげほっ! ……嫌だと言ったら?」
「強制的に引きはがし、存在の保証はしない」
「出来るもんならやってみやがれぇ!!」
立ち上がり、混沌は矛を投げつける。
空間転移を用いて、響介の背中へと移動させて確実に彼の命を狙う。
「ふん。わかりきった攻撃だな」
響介も空間転移を利用し、矛を混沌の目の前に飛ばした。
混沌の顔から拳一つ入るかどうかの距離に突き刺さる。
「ひぃっ!?」
「残り1分………貴様の解答は拒否と受け取った……"ミステリック・アーチャ"」
左腕に装着された弓を響介は混沌へと向ける。
矢は装填されておらず、弦も張られていない。
だが、まるで矢があり、それを引くような動きをしていく響介。
「ナマクラで何が出来るって言うんだ?」
「…………」
混沌の疑問には答えず、彼は引いた矢を……
「……発射」
放つように動いた。
二人の間には沈黙が走る。
「ククク……なんだ、何も起こらなっ!?」
笑い出した混沌に突然、異変が起きた。
柚希から黒い塊が飛び出していく。
彼女の体から混沌が引きはがされたのだ。
「お前!! 何をしやがった!! ただパントマイムで矢を放っただけだろ!?」
「パントマイム? そんなもんはしてねぇよ」
実は響介の矢と弓の弦には特殊な加工がされていて、響介以外には見えないようになっている。
さらに矢には、マブイエグリに似た術『マブイトバシ』が仕込まれていた。
つまり混沌は柚希の魂から弾き飛ばされたという事になる。
「じゃあ何をした!!」
「貴様の存在を柚希ねぇの魂から弾いた……それだけさ」
「くっ……まぁいい。また入ればいい話だ!!」
混沌はまた柚希に取り付こうとして彼女の体へ飛びついた。
しかし、また飛ばされる。
「言い忘れてたが、もう誰の体にも取り付けないからな? お前の魂に障壁が張られてるからよ」
「くそっ!! いいさ!! やってやる!!」
混沌は己を形作り、武器……響介の身長より大きな鎌を構えた。
そしてすぐに飛び掛かってくる。
響介は混沌の攻撃を受け止め、弾くと同時に蒼い光の球を手に宿らせる。
「2つ目の大罪……"ラスト・ミラージュ"」
これは"色欲の幻影"。
「色欲に塗れた幻を見て、体力を失え」
蒼い光の球を混沌の目の前に飛ばして、破壊した。
蒼い光が混沌の目の前で弾け、一瞬で消える。
「……な、なんだ!? この女達は!! こっちへ来るなぁ!!」
光を浴びた混沌は何もいないのに、鎌を振ったり、格闘戦をしている。
混沌は淫らな幻影に支配され、混乱しているのだ。
「時間か………今夜は月が綺麗だな」
響介は空を見た。
空に浮かぶ月はリング状になっている。
皆既月食だ。
「………混沌を……喰らう」
響介の前に一つの仮面が現れた。
特に変わった装飾がされていない……口が無く、目のみ描かれた銀色の仮面だ。
響介はその仮面を取り、そっと装着する。
「うぁっ……ぐぅっ……やめろぉ……」
「混沌はまだ幻影の中か………」
混沌は色欲の幻影の中に捕われている。
何を見ているのかは想像出来ないが、立つ事が出来ずに座り込んでいた。
体力が削ぎ落とされ、足に力が入らないのだろう。
その姿を見て、響介は指を鳴らす。
「うぁっ!? ……はぁ……はぁ……」
すると混沌は横に倒れる。
幻影が解けたのだ。
「さて………混沌よ。俺はお前を大罪を含めた技を以って身を傷つけていく」
「……た、大罪?」
「あぁ。大罪の技は既に2つ使ったがな」
大罪……それは悪徳とされる行為の源であり、『怠惰』『色欲』『暴食』『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』が大罪として伝えられている。
殺戮装備状態の響介は大罪に加え、『拒絶』『悲嘆』『絶望』『戦慄』を元にした技を使うのだ。
「全ての大罪と負の衝動を受けて存在を無くすがいい」
「……ぜ、絶対にそんな事……させてたまるか!! 俺は他の奴とは違うんだよ!! 頂点に立つ者になるんだ!!」
「その発言は3つ目の大罪……"ウィーク・アロガンス"」
それは"弱者の傲慢"。
「弱者の思い上がりは、自らの身を滅ぼす」
響介は混沌の額に一つの魔法陣を作り出す。
「……何をした?」
「これからお前が『傲慢』な発言……つまり『驕り』と『虚栄』に該当する発言をすると罰が下るだけだ」
響介は混沌に言い放ち、武器を構える。
「……助けてほしいか?」
「へっ!! お前の助けなんか無くてもここから逆転してみせるさ!! 俺は強いからな!!」
混沌がそう言うと額の魔法陣が輝いた。
「……『虚栄』と『驕り』を同時か。かなり痛いぞ」
「ああぁぁぁぁぁぁあ!!」
響介の発言と同時に混沌に電撃が走り、混沌の作り出した体を痛めつけていく。
すぐに電撃は収まるが、混沌は倒れて動かなくなった。
電撃による痛みの影響だ。
「あと4つの大罪と3つの負の衝動……覚悟しろよ?」
響介は次の技を繰り出すために構えた。