第64話 対 混沌 戦 Ⅲ
混沌は夢操の矛を扱い、響介を攻めてくる。
柚希に乗り移っているとは思えない武器捌きだ。
響介は防戦一方……やはり柚希の体を傷つけたくないのだろう。
「ほらほらぁ!! どうした響介ぇ!!」
「くそっ……」
響介は混沌の連続攻撃をビットフル回転で防御に回して防ぎ続ける。
混沌は後ろへ飛んだ。
「くくっ……やはりこの体はいいなぁ!!」
「許さない……混沌。貴様だけは!!」
「許さないからと言ってどうする? 今の貴様には俺を傷つける事は出来ないだろ?」
そう言って混沌は柚希の胸を揉んだりして彼女の体をじっくりと楽しむ。
それを見て響介は怒りの表情を浮かべた。
「絶対許さない!! 楽に死ねると思うな!!」
「ふふっ……俺をこの体から出せればな」
そう言って矛を構え、突きの動きを繰り出す。
それを見て響介はビットをDHで配置して防ごうとする。
「"ワームホール"!!」
「なっ……がはぁっ!!」
混沌は柚希の能力を使い、攻撃を別のところへ転移させた。
響介の背後だ。
「まだまだ行くぜぇ!!」
「がぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
連続の突きを繰り出し、全てワームホールを通して攻撃を響介に当てる。
響介は防ぐ事が出来ない。
「形勢逆転だなぁ!!」
「くぅっ……何故、柚希ねぇの能力を完璧に扱える?」
「扱い方が脳に染み込んでるから使いたいと思えば使えるのさ!!」
混沌は矛を振り回しながら言った。
響介は膝から崩れ落ち、四つん這いになる。
「ちくしょう……あと15分……」
「お前、さっきから時間に厳しいな………訳を聞かせてもらおうか?」
「そいつは口が裂けても言えないなぁ……」
「そうか……」
混沌はそう言って矛を響介の左手に突き刺した。
響介は痛みのあまり、倒れ込む。
「ああぁぁぁぁあ!!」
「なら徹底的に傷つけて、喋らせるまで」
混沌は傷を広げるように矛を動かし、響介を痛み付ける。
響介の手から大量に血が溢れ出した。
「ぐっ……あぁぁ!!」
「喋る気になったか?」
「嫌……だねっ……」
「なんだ、まだ痛み付けられたいのか」
響介の左手から矛を引き抜き、右肩へと突き刺す。
「あぁぁぁあ!!」
「このまま血を流し続けてたら確実に死ぬよな……喋れば助けてやらん事もないぞ?」
「……そんな必要は……ないっ……」
大量に血を流しながらも響介は時間に厳しい理由を話そうとしない。
混沌はそれを見て、方針を変えた。
「……ならお前の仲間を傷つけるしかないな」
「なっ!?」
「どうする? 素直に喋ればお前の仲間は傷つかないで済むんだぞ?」
「…………」
「とりあえず……そこの女でいいか」
混沌が指差したのは連合軍の配下を掃討し終わって残党勢力を探すアラディア。
彼はワームホールを作り出して狙いをつける。
「死ね……」
「し、"瞬転"!!」
響介は慌てて、アラディアと水姫を自分の近くへ飛ばす。
混沌の矛はアラディアを捉えられずに外れた。
「響介!? 大丈夫!?」
「主!! 今すぐ傷を回復させます!!」
「いや、いい……。そんな暇はない……からな……」
響介はゆったり立ち上がる。
手から流れる血が雫となり、地面を赤く染めていく。
「喋る気になったか?」
「ならねぇな……」
「じゃあ、あいつを傷つけるとするさ」
混沌はまたワームホールを作り出して、矛を構えた。
「あいつ? 他にいたか……?」
響介は周囲を見渡す。
アラディアが慌てて響介に言った。
「響介!! 多分、華音の事だと思うわ!!」
その言葉に響介はハッとして、華音を探す。
華音は遠くで利柊に肩を貸して立っていた。
「マズイ!! あの距離じゃ術が間に合わない!!」
「死ねぇ!!」
「華音!!」
「………え?」
華音へ向けて矛が放たれる。
彼女は何が起きてるか、わからず動かない。
矛が華音の心臓へと向かう。
「……華音!! 危ねぇ!!」
動かない彼女を誰かが突き飛ばした。
矛は突き飛ばした者の右胸に刺さり、貫かれる。
「ぐぁっ!!」
突き飛ばしたのは混沌の離れた利柊だった。
「り、利柊君?」
「ちっ……また外したか」
利柊の右胸に矛は引き抜かれ、倒れる。
華音は倒れてくる利柊を抱きしめた。
「よかった……無事か……」
「……利柊君!! 今、傷を治すから!!」
華音は自らに宿された能力の内の一つである回復を使おうと利柊に手を伸ばす。
だが、その手を利柊は掴んで拒んだ。
「いい……もう助からねぇからよぉ……」
「…………そんな事言わないで!!」
「自分のことぁ……自分が一番わかるからなぁ……ごふっ」
利柊は血を口から吐き出す。
「利柊!!」
そこへ響介が飛んできた。
「響介……ありがとよぉ……混沌を切り離してくれてよぉ………」
「傷を治せ、利柊!!」
「いや、いい……元々、先も短かったしなぁ……」
「なら命がある限り生きろよ!!」
「はっはっはっ…………治すにしても傷が深すぎて無理なんだよぉ……」
利柊の刺された場所は貫けており、肺を貫かれていて、治す事は不可能に近い。
「響介……頼みがある……」
「……なんだ?」
「華音を……頼む……。一人にしないで……やってくれ」
「あぁ……わかった……」
「華音……これからは……響介の元で……暮らせ……」
「…………わかった」
その言葉を聞くと利柊は頬を緩ませた。
「……華音……好きだった……ぜ……?」
「……私も……好きだったよ……」
「ありが……とう……」
利柊はその言葉を口にして、瞳を閉じる。
華音の手を握っていた彼の手は力が抜けて、落ちた。
華音は利柊を抱きしめて、涙を流す。
その光景を見た響介は混沌を見た。
「ふわぁ……感動のお別れは終わったか?」
混沌は大きな欠伸をして、立っている。
「……利柊君……」
「おーおー。泣けるねぇ。感動のシーンだよなぁ」
「混沌…………絶対に許さねぇ……怒らせた事を後悔させてやる!!」
響介は『乱舞』を神槍に戻して、膨大な力を流し込む。
その行為は神槍をありえないほどに輝きを放たせる。
「来い!!」
神槍は光の球となって、すぐに弾け飛んだ。
体のあらゆるところに光が宿り、武装が現れたが、それは『業火』『刹那』『乱舞』………どの形態でも無い姿へと変化する。
左腕に巨大な弓と盾を、右腕には突きに特化した槍、背中には巨大な翼を得た。
「『殺戮』………お前は死ぬ……絶望に身を包まれて」
「はぁ? この体はお前の仲間の体だぜ? 傷つけられるわけねぇだろ!!」
混沌は矛を構えて、響介に言い放つ。
柚希の体を盾に混沌は一方的に響介を傷つけるつもりなのだろう。
だが、今の響介には混沌を倒す事しか頭に無い。
「……残り7分。貴様は絶望に歪み始める」
「それはお前だぁ!! 今度こそ死ねよ響介!!」
「絶望を知らねえ奴が……つけ上がるなよ!!」
二人は全力で武器をぶつけあう。
響介は混沌のワームホールを使った変則攻撃を全て見切って避けたり盾で防ぐ。
混沌も響介の突きをしっかりとしたステップや空間転移で避けていく。
お互いの攻撃は相手に届かない。
「……あと5分」
響介の数える絶望のカウントがどんどん短くなっていった。