第62話 対 混沌 戦 Ⅰ
響介達が外へ到着すると、日が暮れ、三日月が登っていた。
夕暮れの中、建物が崩壊していく。
神代柚希、水姫、アラディアは先に離脱しており、崩れていくのを見ていた。
三人は響介を見つけると近寄る。
「響ちゃん。無事?」
「あぁ」
「主、ダメージはどうでやがりますか?」
「大丈夫だ」
「流石は響介ね」
響介達はお互いの無事を確認する。
華音は建物を見て呟いた。
「………来る」
その声と同時に崩壊した建物から混沌が現れる。
『これで動きやすくなったぜぇ!! 野郎共!! 来い!!』
混沌が叫ぶと退魔士が空から飛んでくる。
その数、一万を超しているだろう。
「こいつらが最後かな?」
「……総力戦」
「響介、援護するね?」
「雑魚は任せて下さいまし」
「さて、暴れましょうか。全憑依!!」
神代柚希の姿も変化した。
4枚の翼を持つ天使へと。
『封じられるかぁ!? この混沌をぉぉお!!』
混沌は響介達に吠えた。
総力戦の始まりだ。
「混沌……どうしよう」
「おい。華音」
響介は拳を構え、倒し方を迷う華音に話しかける。
「……何?」
「奴の動きを封じれるか?」
「……出来なくはない………何をするつもり?」
「混沌を利柊から完全に切り離す」
「……やれるの?」
響介は無言で頷く。
華音は響介を見て、少し考えてから答えを返した。
「……わかった。ただ、少しは手伝って……」
「了解。援護する………来い。"刹那"」
響介は格闘戦の『業火』から射撃戦の『刹那』へと装備を変える。
華音は飛び上がり、右腕に力を込めて雷を宿した。
「………雷獣の剛撃」
右腕を振るい、腕に宿った雷が混沌へと向かう。
「……拡散型空間制圧兵装『メテオ・クラスター』」
その雷の周囲に響介がメテオ・クラスターを撃ち、大量の鉄球をばらまく。
『ふんっ!!』
混沌は障壁を発生させ、その攻撃を防いだ。
響介と華音の二人はそれを読んでいたらしく、既に次の攻撃を繰り出していた。
「……回転掘削弾」
「……掘削式装甲貫通弾『クシエル・ステーク』、及び加速式装甲破壊鉄槌弾『ミョルニル・ブレイカー』」
二人は全力で障壁を破壊しにいく。
華音は回転するドリル状のエネルギー弾を撃ち出した。
響介は巨大な加速器のついたハンマー型の銃弾を専用の砲台にセットして待機、ドリル状の銃弾を背中に装着されたバックパックの砲門から発射……混沌を守る障壁へぶつけに行く。
まず着弾したのは華音の回転掘削弾。
障壁にぶつかり、回転する。
火花が散り、掘削弾が砕けるが障壁にヒビを作った。
その瞬間に直撃したのは響介のドリル状の銃弾……クシエル・ステーク。
寸分の狂いなく、ヒビの中心に直撃。
響介はそれを確認すると、
「行け……」
ミョルニル・ブレイカーをクシエル・ステークに向けて発射した。
杭と金槌のようだ。
杭が撃ち込まれた障壁には物凄い速さでヒビが広がっていった。
「瞬転……リロード。……再度撃ち込む」
響介はダメ押しかのように、もう一回撃ち込む。
すると障壁は粉々に砕け散り消滅した。
だが、響介の攻撃はそれだけてはない。
打ち出したクシエル・ステークは一つの鉄球を排出して、爆散した。
鉄球には一つの穴が開いている。
「……クシエル・フレイム」
響介はそう告げた。
すると排出された鉄球はあいている穴から火炎放射を放ちながら高速で回転し始める。
クシエルは炎の鞭を扱う破壊の天使。
響介なりの再現だろう。
鉄球から放たれる炎は鞭のように動いて混沌に当たり、魔物の体を焼いた。
『ガァァァァァア!!』
混沌は体を焼かれる苦しみで、暴れる。
「……追撃可能と判断。これより追撃する。規格外照射型攻撃兵装……『ヴァルキリー・ストライカー』」
響介はヴァルキリー・ストライカーを呼び出し、装着した。
そして狙いを定める。
「……当てる」
混沌へ向けて、照射砲撃を行った。
その攻撃は混沌を捉える。
『グゥゥゥゥゥウ!!』
混沌の周囲に煙が広がった。
煙の中に混沌はいて、どうなったかは響介達には見えない。
響介はヴァルキリー・ストライカーを空間転移で収納した。
「……これで動けなくなればいいが……」
『オラァァァア!!』
突然、煙の中から黒いレーザーが飛んでくる。
響介達はヒラリと避けた。
さらに混沌は煙を突き破り、響介に格闘戦へと持ち込んでくる。
『ハァッ!!』
「換装『業火』!! おらぁっ!!」
響介はすぐに刹那から業火へ換装し、格闘を防ぐ。
『随分とやってくれるじゃねぇかぁ!! 今のは結構効いたぜオイ!!』
「まだ火力が足りねぇのかよ!!」
『俺の皮膚はダイヤモンドと同じぐらいまで硬くなれるんでな!! 防御には困らねぇんだよ!!』
「少しは困れ!!」
響介は一回、混沌から距離を取り『業火』を解除する。
「皮膚が硬くなるなんて聞いてねぇよ……どうするかな」
「ダイヤモンドより硬い物質……ぶつけるしか……」
「そんなもんあったか? あんな硬いやつより硬いのなんて……」
『戦い中に会話とは余裕か!? 舐めるな!!』
混沌は黒い光線を放った。
「……危ない」
「全くだ」
華音は最小限の動きで、響介は空中への月面宙返りで混沌の攻撃を避ける。
「……あれ? 今日って…………」
空へ飛んだ時、響介の瞳に一つの景色が移った。
それは時が満ちれば戦いの展開を一気に進める事が出来るほどの力を響介に与える景色だ。
しかし、時が満ちていない。
響介は一気に決めるよりも、確実な手を選んだ。
「よっ……と」
「……どうする?」
彼は鮮やかに着地して華音へ話しかける。
「……華音。利柊の義腕、斬り落とすが構わないか?」
「………義腕なら」
「了解。少し手伝え。……時間稼ぎにな」
「……何か策が?」
「まぁ、後で見せる」
「……? ……わかった」
華音は響介の言葉に疑問を抱きながら、彼の作戦に乗った。
響介は『業火』をまた纏い、混沌へと向かう。
「華音!! 援護!!」
「……はいはい。……鎌鼬の旋風」
華音は切り裂く風を放った。
砂も巻き込み、混沌へと向かう。
混沌は軽く受け止めたが、周囲が砂埃で視界が狭まる。
響介はその隙に混沌の背後へ回り込んだ。
『やつはどこだ!?』
混沌は砂埃の舞う中、声を上げた。
その後ろから飛び上がってくる影がある。
響介だ。
「"双刃黒堕刀"!!」
彼は両足を振り下ろし、混沌の両肩の端を捉える。
響介が捉えた位置は、利柊の義腕が取り付けられていたところ。
つまり、そこを蹴るということは……
『ガァァァァァァア!! 腕がぁぁぁぁぁあ!!』
利柊の義腕を強制的に外す事になる。
混沌の腕は利柊の義腕を元にしているので混沌は両腕を無くした。
響介は業火を解除して、華音へ指示を飛ばす。
「よし。華音、動きを封じてくれ」
「……了解」
華音は瞳を怪しく輝かせた。
すると魔法陣が混沌の足元に現れ、飛び出してきた鎖が混沌を縛りつける。
『グゥッ!? こ、こんな鎖なんて!?』
「……無駄。最強の封印の鎖だから………今の貴方じゃ無理……」
『な、なんだとぉ!?』
「……響介。今だよ……」
「わかった」
響介は混沌に向けて、一枚のスペルを取り出した。