第61話 人知を超す戦い
「また鎌鼬で切り裂いてあげる………」
華音はさっきよりも腕を速く振った。
切り裂く風がまた響介へと向かう。
「通じん。"気攻拳"!!」
その風を風を纏った拳で思い切り殴る。
すると風は周囲へ散った。
「なら連続でいく……」
華音は右腕を連続で振る。
大量の風が響介へと向かう。
「通じんと言ったはずだ。"気攻拳"!! 連打ぁ!!」
だが、響介も片手で気攻拳を連続的に繰り出し、弾いていった。
「もっと風を使う……」
今度は両手を使い、攻める華音。
「数なら負けん!! "風連拳"!!」
響介も、それに合わせて両手を使う。
竜巻のように風の拳を切り裂く風へと打ちまくる。
「………………!!」
「ウララララララララァ!!」
切り裂く風は風の拳とぶつかり、軌道を変えて、相手へ届かない。
それを見て、華音は後ろへ下がった。
「……雪女の吐息」
口元に手を当て、軽く息を吹くと冷気の風が吹く。
響介はそれを見て、風連拳をやめ、別の構えをする。
「氷には氷で行く!! "氷紋掌"!!」
紋様の浮かんだ手の平を冷気の風に当てた。
すると衝突地点がたちまち凍っていく。
互いの攻撃が続けば続くほど、氷が大きくなっていった。
「……九尾の狐火」
今度は、背後から青紫の火の球を9つ飛ばした華音。
その狐火は空中を自由に飛び回る。
響介は氷紋掌をやめ、体を回転させ始めた。
数回回ると、逆立ちの状態になり、体を回転させ続ける。
「……行って。狐火」
「炎を炎で蹴り砕く!! "焔旋脚"!!」
響介の足は真っ赤な炎が燃え盛り出す。
体を回転させているので、炎が竜巻のように体の周囲を囲んだ。
「まず1つ!!」
狐火を炎の蹴りで、弾いた。
「2!! 3!! 4!! 5!!」
次々と狐火を蹴り、打ち消していく。
それを見た華音は少し表情を変えた。
「6!! 7!! 8!!」
「……追加する。……雷獣の剛撃」
狐火を打ち消している響介に、華音は右手を向ける。
すると電撃が華音の右腕に宿り、次第にその強さを増す。
「……行って」
その電撃は響介へ向けて放たれた。
「9!! よっ……と」
全ての狐火を打ち消した響介は、後ろへバック転する。
そして右腕を振りかぶって、
「雷を砕け!! "雷豪撃"!!」
迫り来る雷を殴った。
普通なら雷に直撃すると、人は即死なのだが響介は感電していない。
実は響介の拳にも雷が宿っていて、華音の雷撃を相殺していたのだ。
周囲が光に包まれ、その場にいた者の視界が奪われた。
そしてすぐに光が消え、華音と響介が向かい合う。
「……この体じゃ、力が足りない……」
そう言って、華音は空中に浮遊した。
「何をする気だ……?」
「さらに強くなるの………来て」
彼女は闇の球を作りだし、自らを取り込む。
その闇の球から危険な力を感じた響介は少し距離を取る。
「………んんっ」
華音が闇の球を消し去り、現れた。
響介は僅かに表情を変える。
彼女の体は響介と同じぐらいまで成長していていたからだ。
短髪だった黒髪は白髪へと、黒い瞳はサファイアよりも蒼い青へと染まっている。
「………力がみなぎる」
「俺も行くか……全憑依!!」
響介は体内の霊・妖・神・魔を体へ纏う。
しかし、今回の全憑依は普段と違う点があった。
それは、
「姿が変わった……?」
響介の姿が変わったのだ。
業火を装備しているのは変わらないが、背中から黒龍の翼、天星の翼、鳳凰の翼がそれぞれ2枚ずつ………計6枚生えている。
そして銀狼の頭部の形をした兜と胸部に新たな装甲が装着された。
「行くぞ!!」
「………行く」
二人はある程度、近づくと動かなくなる。
その場にはノイズのような音が響き出した。
二人は動いていないのに。
この二人以外は状況が理解出来ず、二人を見つめる。
音はさらに激しくなった。
戦いを繰り広げる響介と華音以外にはわからないだろう。
実はこの二人、戦いを繰り広げている。
他人に捉えられぬほど、速いスピードで格闘戦をしているのだ。
二人の世界は人知を超えているかもしれない。
『ハッ………』
『オラララララァ!!』
拳と蹴りが物凄い速さで繰り広げられている。
華音の攻撃を見切り、響介は攻撃を返す。
しかし、華音も見切り、攻撃を返す。
この行為を捉えられぬ程のスピードで行い続けているのだ。
『……よくついてくる』
『ついてきているのはお前じゃないのか?』
『……余裕そう』
『そっちもな』
二人は会話しながら戦っている。
この会話、他人には絶対に聞こえない。
何故なら、二人の脳内での会話だからだ。
響介は純粋な念動力で、華音の脳内へ。
華音は念動力に似た異質な力で、響介の脳内へ。
よって、二人の会話は成立していて、他人に聞こえない。
『……一つ聞きたい』
『なんだ?』
『なんで……利柊君を傷つけた? 利柊君……何か悪い事したの?』
『……人外を殺しに、人外の集まる世界に踏み込んできた。……だから戦っただけだ』
『……利柊君。そんな事しない……』
『だが、実際に踏み込んできている』
『………理由は?』
『聞こうとしたら、お前が目覚めて聞けなかった』
『……なんかごめん』
何故、この二人は会話をしながら超人的な戦いを繰り広げられるのだろうか。
やはりお互いに人では無いからだろう。
『……なら今から理由を聞く?』
『その方がいいかもな』
『……なら一回離れる』
『あいよ』
二人は格闘戦をやめ、僅かに離れた。
二人は利柊へと視線を移す。
「なぁ、利柊」
「な、なんだ?」
「さっき聞き損ねたんだが、お前……なんで幻想郷に来たんだ?」
「突拍子なさすぎだろぅよぉ………」
「……私からもお願い」
「まぁ話し損ねたし、話さねぇとならねぇよなぁ……」
利柊は立ち上がり、響介達に向かい合う。
「……俺は妖怪を滅ぼそうなんて思った事はねぇ。だが、その俺が連合軍の指揮を取っている……矛盾だよなぁ」
「壮大な矛盾だ」
「最初は零を止めるためだけにここまで上がったんだが………少し訳ありで今の状況なんだよぉ」
「……訳あり?」
「あぁ。その訳ってのはなぁ………あがっ!?」
「!?」
「……!!」
利柊は頭を抱えてうずくまった。
それと同時に強大な闇が利柊から発生する。
「邪魔するんじゃねぇ!!」
『そろそろお前の体、よこせよ。俺が響介を殺す!! 跡形もなくなぁ!!』
「うるせぇ!!」
『お前じゃ俺には勝てねぇよ……弱いもんなぁ!! お前はよぉ!!』
突然、利柊から二人の声が響いた。
その声を聞いて、響介は利柊の訳を理解する。
「……なるほどな。そういう訳か」
「……どういう訳?」
「利柊に、人格の呪術が植え付けられていて……そいつが、人外全滅を考えていた訳だな。……つまり、もう一人の奴が元凶なのさ」
「……理解」
二人は利柊を見た。
利柊は闇の中でもがき、苦しみ、暴れている。
彼の背中からは、漆黒の翼が姿を見せていた。
そして皮膚が変化していく。
「どうやらお出ましだな」
「……利柊君」
『……さぁて!! 人外狩りの始まりだぁ!!』
悪魔の姿へと変貌した利柊が響介達の前に立ちはだかった。
響介達の前に立つ利柊……いや、魔物は威圧的な視線を響介にぶつけている。
『人外狩り……幻想郷最初の標的はお前だぜ!! 響介ぇ!!』
「呪術の人格………お前は何者だ?」
『俺かぁ? 俺は利柊の中にあった怒り、恨み、恐怖を利用して育った人外滅亡を願ってやまない人格"混沌"だぜぇ!!』
そう言って魔物"混沌"は響介へ咆哮をぶつけた。
混沌へと華音は呼び掛ける。
「利柊君を……返してよ」
『あぁ? 嫌だね!! 俺は幻想郷を滅ぼさねぇとならねぇからな!! やる事が終わったら返してやるよ……死んでるかもしれないがなぁ!!』
「利柊君……そんな事しないのに……」
『知ってるぜ? ずっと内側から見ていたからな!! あはははははは!!』
混沌は笑い声を上げた。
その笑いは華音の気持ちをあざ笑いだ。
混沌の笑いを聞いた華音は、目付きを変えた。
「許せない………混沌……討ち果たす」
『ここでは動きにくい……場所を移そうか!!』
混沌は突然、咆哮を上げた。
その声が響くと空間が崩壊を始める。
「華音。こっちへ来い」
「……何故?」
「この場から離脱し、外で戦闘する」
「……わかった」
「瞬転」
響介と華音は外へ空間転移した。
元凶を討ち果たす戦いの場へと飛んだのだ。