第60話 零の遺産との戦い
「くぅっ!?」
利柊は響介の放った弾丸を刀で防ぐ。
だが、弾丸の威力がとても高く、利柊は押されていった。
普通ならここで踏ん張るが、今の利柊にはその行為が出来ない。
何故なら爆風で空中に上げられたからである。
飛行出来ない利柊は弾丸に押され、壁に衝突した。
土埃が利柊の姿を隠す。
「………逃がさない」
響介はさらに追撃をするため、左腕を上げた。
すると響介の背後から、何かが出現する。
身長とさほど変わらない大きさのコンテナだ。
「…………拡散型空間制圧兵装『メテオ・クラスター』……発射……!!」
響介は上げたを腕を利柊の居るであろう土埃の舞う場所へと振った。
するとその腕の動きに同調して、巨大なコンテナ……メテオ・クラスターが動き出す。
メテオ・クラスターは響介と利柊の中間辺りへ到達すると、外装が剥がれ、黒い粒……鉄球を大量にばらまく。
中には小さな銃口が大量にありその全てから鉄球が発射されたのだ。
無数の鉄球は土埃の中へ突入していき、壁や地面にぶつかる音が響いたが、音はそれ以外にも響いた。
金属同士がぶつかる音だ。
その音が響いた直後、何発かが土埃の中から戻ってきた。
「利柊……生きてるのか」
「……あぁ。……今にも死にそうだがなぁ……」
土埃の中から利柊が歩いてくる。
体には大量のかすり傷があり、血がでていたり、電気が漏れていた。
「……降伏するか?」
「いや。そういう訳にゃいかねぇんだよぅ。………連合軍の元帥としての役目があるからなぁ……」
「……一つ聞いていいか」
「なんだよ……早めに済ませろよぅ」
「何故………幻想郷へ来た? お前、幻想郷を滅ぼそうとしているのに………行動が噛み合っていないぞ?」
「………」
「……それを話してからでも遅くはないだろう?」
利柊は響介を見つめ、何かを決断したか口を開いた。
「……そいつはな……『ビー! ビー! ビー!』っ!?」
だが、その言葉は突然鳴り出したサイレンにより遮られる。
「……利柊。なんだこのサイレンは」
「なんで今、目覚めるんだ……!? 何か異常でも!?」
利柊は明らかに慌てていた。
何かに恐怖するかのように。
『…利……柊……くん……』
突然、聞いた事のない声が頭の中に直接送られてきた。
「なんだこの声……」
「……響介。後ろを見ろ」
「後ろだと? ………あれは、水槽が割れている……?」
少女の入っていた水槽が割れていたのだ。
響介の放った拡散型空間制圧兵装『メテオ・クラスター』を利柊が弾いた鉄球のいくつかが水槽に直撃し、ガラスを破壊したのだろう。
中にいる少女の姿は見当たらず、ガラスの破片のみが残っていた。
「この声の正体………まさか!?」
「……あぁ。彼女が目覚めたんだ………"暁 華音"が……」
その声が聞こえると同時に、風が吹き荒れる。
「………やっと、出てこれた……」
利柊の前に降り立ったのは、水槽の中にいた少女だった。
その少女は包帯だけを身に纏っている。
「華音……出てきたのか……?」
「………うん。ガラスが砕けたから」
「……そうかよぅ」
「……で、貴方は誰?」
「俺は風戸響介だ」
「……!? 風戸………あの人の身内……なの?」
「………風戸零の息子だ」
そう響介が言うと少女の目付きが変わった。
威圧感を直接ぶつけてくる目だ。
「また利柊君を傷つける……両手両足を食べただけじゃ足りないの?」
「そんなつもりは…………ぐぁぁぁぁあ!?」
響介が反論した瞬間、華音は右手を軽く振り上げた。
すると、風が吹いて響介の左目から一筋の血が吹き出す。
「嘘。利柊君……もう傷だらけ。これを見て、傷つけるつもりは無いなんて言っても無駄。説得力皆無」
「…………鎌鼬の旋風。神速の一撃だな……」
響介は左目を押さえながら、華音を見る。
彼は今、何をされたか見えていたらしい。
しかし、体が追いつかずに喰らってしまったようだ。
「……利柊君を傷つける人は容赦なく……私が撃つ!!」
「……があああぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
華音は右腕を何回も振った。
その度に風が走り、響介の体から血が吹き出る。
響介はその場で膝から崩れ落ち、俯せで倒れた。
響介の『刹那』と神化、全憑依は解除され、神槍へと戻る。
「……つ……強い……」
「この程度なの……? まだ鎌鼬だけなのに……」
「……うらぁあ!!」
響介は叫びを上げた。
全力の叫びだ。
その声が響くと同時に、響介の体の傷が塞がっていく。
再生能力を全開にしたのだろう。
「……回復?」
「……良かった……普通だったら即死だな……」
そう言うが、響介は立ち上がれない。
ダメージが残っているのだ。
「……死ぬまで切り裂く。徹底的に」
また華音は右腕を構える。
「響ちゃん!!」
「響介!!」
「主!!」
その攻撃が開始される前に響介の仲間である3人が間に入ってきた。
「ガイア・プリズン!!」
巨大な土の牢獄で響介と自分達を囲み鎌鼬の旋風を防ぐのはウィルの体を借りている魔女アラディア。
「視認困難の空間格子!!」
その牢獄を内側でさらに防御するのは山の護り神である神代柚希。
「アクセル・ヒール!!」
ダメージの残る響介の体を癒していくのは、響介の従者をしている水姫。
「響ちゃん。無事?」
「……あぁ。なんとかな……いつつ……」
「相当、ダメージが来てます。完璧は約束できませんが……よろしいですか?」
「……仕方ないだろう。可能な限り頼む……」
「響ちゃん。赤眼解放したから思う存分戦っておいで…………そのかわり……生きて帰ってきて?」
「……あぁ。わかった」
その時、土の牢獄にヒビが入る。
華音の連続攻撃によって砕かれそうなのだ。
「そろそろ限界だわ……響介!! 準備はいい!?」
「あぁ!! やってやる!!」
「主……ご武運を……」
「勝ちなさいよ絶対に!!」
「頑張って……」
彼は仲間からの声をしっかりと受け止め、神槍を構える。
「柚希ねぇ。二人を連れて離れてくれ…………相当暴れるからな」
「うん。わかった」
神代柚希は水姫とアラディアを連れて空間転移した。
響介はそれを見届けてから、力を込める。
「赤眼解放……神化……!!」
彼がそう叫ぶと星穿の神槍が、蒼い光を放った。
「……なんだ、この現象は……?」
『赤眼ト神化ノ発動ヲ確認。"最終安全装置"解除』
槍からそう声が聞こえる。
響介が疑問に思った瞬間、彼を取り巻く力が膨れ上がった。
理由は簡単。
彼の持つ『妖力』『霊力』『魔力』『神力』『念動力』にかかっていた安全装置が解除されたのだ。
今までこの現象が発動しなかったのは神代柚希がその力を神槍に入れていなかったからである。
最終決戦前に柚希が神槍にした行為は、この能力を宿すためだったのだ。
響介の姿が変わっていく。
黒髪から金髪混じりの蒼髪へと。
瞳は真っ赤に染まり、目の下には大小二つのルビーよりも赤い水晶が現れた。
これが響介本来の姿だ。
「こいつならやれるかもしれん………」
響介は槍を振り上げ、力を込める。
「業火!! 来い!!」
響介は近距離格闘戦専用装備『業火』を身につけた。
アラディアが残した土の牢獄に限界が来ている。
彼は先手を取るために脚に力を集めた。
「"土震脚"!!」
響介は脚を地面にぶつける。
すると地面が揺れ、地割れが起きた。
華音がいるであろう位置へ向けて。
それと同時に土の牢獄が砕けた。
風が吹き荒れ、響介を襲う。
「…………」
「…………」
地震と風が止み、響介は華音を、華音は響介を見る。
互いの仕掛けた攻撃は届いていない。
「さぁ仕切り直しだ」
「……負けない」
信念を貫くために二人は構えた。