第58話 利柊の衝撃的告白
お互いの神速の斬撃がぶつかった瞬間、光が弾けて何事も無かったような景色が広がる。
俺は業火と神化を解除して、水姫を見た。
「…………」
「…………くっ」
その直後、水姫の双牙が粉々に砕け散る。
持ち手の部分だけを残して。
「決着だな」
「何故……私を斬らないのですか?」
「そりゃぁ、俺の仲間だからな。催眠前だが」
「そうですか……私の負けです………それでは先に進んで下さい」
「あぁ。わかった」
俺は水姫の頭を掴む。
利柊の催眠を解くのだ。
「………っ!?」
「少し乱暴だが堪えてくれよ……?」
「……………」
水姫は静かに目を閉じて、膝から崩れ落ちた。
俺は優しく抱き抱えて、呼びかける。
「水姫!!」
「んんっ………流石で……やがります……主」
「……戻ったか」
「迷惑を……かけましたな…………」
「あぁ。だからこれは貸しにしておく」
「わかりました……と言いたいですが、主は私の双牙を粉々に砕いたので貸し借りは一切無しです」
水姫は双牙の持ち手を俺に見せ付ける。
「……後で直す」
「お願いします。双牙無しじゃ戦えませんので」
「あぁ」
俺がそう答えた瞬間、背後から爆発音が響く。
衝撃波と突風、砂埃が俺と水姫と左右を突き抜けた。
「なんだ!? 新手か!?」
慌てて振り返ると立ち込める砂埃の中から人影が歩いてくるのが見える。
「あー。久々に広範囲殲滅魔法使ったから疲れたわ……」
「……なんだ、アラディアか。随分と暴れたようだな」
「えぇ。相当暴れたと思うわよ。城壁、破壊しちゃったし」
「あの固かった城壁を破壊か。かなり威力の高い魔法を使ったんだな」
「広範囲殲滅用の中でも最強なやつを撃ったから。……あ、水姫。取り返したのね」
「あぁ。これで思う存分戦える」
俺は水姫を立ち上がらせた。
「次の城門に行きましょう」
「柚希ねぇが城門前で待ってるからな」
俺達は瞬転を使い、城門まで飛んだ。
「よっ……ぐぁっ!?」
俺が現れると同時、腹部に衝撃が走る。
「寂しかったよ…………響ちゃん」
「悪いな」
「……山姫様」
水姫が柚希ねぇにひざまずいた。
「あ、水姫ちゃん。戻ったんだね」
「はい。……迷惑をおかけしました」
「うん。大丈夫、気にしてないから」
「……はい」
水姫はひざまずいたまま、深く頭を下げる。
「で、響介。ここから先に行くんでしょ?」
アラディアがボソッと語りかけてきた。
「あぁ。利柊を追わなければならない」
「そう。なら、臨戦態勢を取っておくわね」
「わかった。……ウィルはどうなってる?」
「少し催眠が残ってるわ。意識を一時的に封じ込めてあるから安心して」
「……おぅ」
俺はそう答えると、城門へと足を運ぶ。
また呪術がかかってるかもしれないので一回調べたが、何もかかっていなかった。
「こいつは普通の城門だな………よっ」
俺は城門を殴る。
殴った城門は扉が吹き飛んで、ただのアーチとなった。
「さぁ、進もうか」
武器を構えながら、アーチをくぐる。
するとそこには高牙利柊が立っていた。
「城門をアーチにしちまうなんてなぁ………押せば開いたのによ」
「殴った方が楽だからな」
「まぁいい。こっちだ」
利柊は建物の中へと入っていった。
「……罠か?」
「さぁ? わからない」
「柚希ねぇ達は外で待機していてくれ。大丈夫なら空間転移して伝えるからな」
「わかった」
「無理はしないでよ。響介」
「ご無事で」
俺は仲間を置いて利柊についていき、建物の中へと入る。
入口の近くには階段があり、地下へと通じているようだ。
「風戸響介。お前は出会う前の零を知っているか?」
「聞いた事がないな。いつも語ろうとしなかったし」
「これから見る物は………お前が零と出会う前、奴から奪ったものだ……」
「……?」
利柊は薄暗い廊下の奥にある固そうな扉の前に立ち、鍵を開ける。
そして扉を開けると、部屋の奥には異様なものがあった。
「子供が……水槽の中に……?」
円筒状の水槽の中に一人の子供がいるのだ。
まだ中学生にも満たないぐらいの少女が中にいる。
どうやら少女は生きているらしく、口から小さな泡が少し出ていた。
周囲を見渡すと部屋の中には散らばった本やノート、大量のコードがあり、それらは一つの円筒状の水槽を支える機器に繋がっている。
「利柊……こいつはどういう事だ?」
「昔、零は人間の子供を捕まえて実験台にしていたんだ。この子はその中で特に改造されてた子さ」
「父さんが……そんな事を……」
俺は水槽に触れ、その少女を見る。
体の様々なところに傷痕があり、その傷を見ると胸に何かが刺さった。
「ちなみに彼女は……12年前から水槽へ入っているんだ」
「少女が? 育っていないのか?」
「いや、年齢は取っている。身長も伸びてる。ただ一年に1cm〜2cmだがな」
「………どういう事だ?」
「実験の影響だよ。零の実験で彼女は身体の成長速度が遅くなっちまったのさ」
「だが、なんでこんな水槽の中にいるんだ? 成長速度がズレたぐらいなら大丈夫だろ?」
「"成長速度"だけならなぁ………」
利柊は足元に落ちていたノートを取り、俺に渡してきた。
「………これは?」
「その子に植え付けられた力を調べ、まとめたものだ………見てみろ」
俺は言われる通りにノートをめくり、中身を読んだ。
「……!? こいつは……人じゃ制御しきれないぞ!?」
そこに書かれていたのは驚愕なものだった。
少女の体は部位によって違った能力が植え付けられているらしい。
全身の筋肉は改造され、人間離れした力を得ている。
様々な状況に対応出来るようにエラ呼吸と肺呼吸を切り替える事が出来たり、翼を生やして空を飛ぶ事も、水掻きを指の間に生やして泳ぐ事も、土の中を高速で掘り進む事も……なんでも出来るように改造が施されていた。
さらに多くの妖怪の能力も植え付けられている。
もはや持つ力が人では無くなっていた。
恐らく水槽の中で力を暴走させないように封じているのだろう。
「……何故、俺にこれを見せたんだ?」
「決戦前に、全て知っておいて貰いたくてよぉ。ただそれだけなんだが……まぁ、それはいいとする」
「…………」
「今は戦おうか。その為に来たんだろう?」
「あぁ。だがここでは戦いにくいから場所を移してくれないか?」
「わかっている」
利柊は懐からリモコンを取りだし、ボタンを押した。
すると部屋の壁が沈んでいき、部屋が広くなる。
さらに足元に散乱していた本や機器に繋がるコードは、床が開いて収納された。
この空間に残ったのは、少女の入っている水槽だけとなる。
「この水槽……戦いに支障が出そうなんだが……」
「まぁ焦るな。とりあえず俺がいる辺りへ来い」
「わかった」
俺は、入口の近くに立つ利柊の隣に立った。
それを確認した利柊はまたリモコンのボタンを押す。
すると建物全体が振動し始める。
天井が開いていた。
俺の立つ床は少女の入った水槽を置いて、天井へ向かっていく。
地上へ向かうようだ。
「上に出たら驚くぜぇ。本当になぁ」
「………何故?」
「まぁ百聞は一見にしかず……見てみな」
俺は地上を見た途端、目を疑った。
「……こいつは」
目の前に広がるのは、とても広い空間。
コロシアムと同じくらい広いが広がっていた。
観客席のような物がその空間を取り囲んでいる。
「特設バトルフィールドだ」
「なるほど。ここなら思い切り出来そうだな」
「最後に一つだけ」
また利柊はリモコンのボタンを押した。
玉座が置いてある他の席よりも高い場所にあるところに何かが上がってくる。
少女の水槽だ。
「見届けて貰うのか。この戦いを」
「あぁ。死んだとしても彼女の傍で死にたいしな」
「わかった。なら、俺も」
俺は右腕を上げて、力を込める。
すると拳が蒼く輝いた。
「もう戦う気か?」
「いや、呼んでるのさ」
俺がそう言うと同時に空間に穴が開く。
「響ちゃん、呼んだ?」
柚希ねぇだ。
「戦いが始まるから二人を連れて、観客席に居てくれ」
「わかった。頑張ってね」
「あぁ」
柚希ねぇは空間を閉じた。
利柊と向き合う。
「さて、始めるとするかなぁ……」
「あぁ、そうだな」
俺と利柊はある程度離れて、武器を構えた。
これが最後の戦いとなる。
最終決戦の始まりだ。