第57話 利柊の試練
「…………ここは、闘技場なのか?」
城門をくぐり抜けた先にはコロシアムのような場所が広がっていた。
その向こうには、また門を挟んで巨大な建造物。
ここで何かと戦うのだろうか……?
「ここは……捕まえた妖怪同士を闘わせるコロシアムでやがります。主」
突然、言葉が響いてコロシアムの中央に人影が現れた。
水色の瞳の、黒髪の長いポニーテールで変わった和服を来ている姿をした。
その姿には見覚えがあった。
「水姫!! 無事だったか!!」
俺は彼女に駆け寄ろうと足を動かす。
「来ないで下さい!! 主!!」
しかし、その行為は水姫から発せられた拒絶の言葉により止められた。
「どうしてだ!?」
「この水姫………今生最大の不覚です。敵の大将に呪術で操られ、主を刺し、刃を向きました…………」
「………」
「主が呪術を剥がしてくれましたが、敵の大将の策略により………呪術がまたかけられてしまいました……。体はもう自分の意思が効かなくなっています……。もう少ししたら…………私の意識も取り込まれてしまうでしょう……」
水姫は双牙を震わせながら構えた。
どうやら拒絶しても自分の意思で体が動かないらしい。
「だから……主。私の意識が残っている間に…………私を殺して下さい」
「み、水姫様!?」
「主の一撃で………私の命を砕いて下さい…………お願いします……」
「馬鹿野郎っ!! そんな事、出来る訳ないだろ!!」
「し、しかし……」
「お前は助け出す!! 例え、地獄の底であろうと追いかけてな!!」
そう言うと水姫は、少し安心した表情を出した。
「……全く。主はやっぱり駄主でやがりますな……」
「うるさい」
「……それでは…………後は……任せ……」
そこで水姫の言葉は途切れて動かなくなり、沈黙が走る。
「響ちゃん。水姫ちゃんをよろしくね?」
「あぁ。必ず助け出す」
「うん。あ、水姫ちゃんが動くよ?」
ゆっくり、ゆっくりと水姫が動き出した。
手を握ったり、広げたり。
肩を回したりした後、口を開いた。
「………全く。要らぬ苦労をさせられました……」
「水姫?」
「風戸響介。利柊様の命により、貴方を討ちます」
水姫は双牙を改めて構える。
完全に乗っ取られてしまったようだ。
「約束を果たす!!」
俺は神槍を取り出して、構える。
「まぁ、待て。水姫。奴と話をさせてくれ」
突然、コロシアムに声が響いた。
その声を聞いて、水姫は双牙を降ろす。
「会いたかったよ……風戸零の息子」
建造物に続く道から一人の男がやってくる。
黒短髪の長身で、日本刀を4本携えた男だ。
「何者だ!!」
「俺か? 俺はなぁ……」
「高牙利柊……退魔陰陽連合軍の元帥。響ちゃん……貴方の父親を殺した男よ」
男が口を開く前に柚希ねぇが説明してくれた。
「こいつが父さんを!?」
「おいおい………俺のセリフを取るんじゃねぇよぉ……。神代柚希」
「で、その元帥さんが何か用かしら?」
「零の息子がどんな奴か、最後に確認したくなってな。直接、出向いたって訳だ」
「お前が水姫を操っているのか……?」
「おぅ、俺の能力でな。……俺の能力は"人を操る程度の能力"ってやつでよ。目があった者を操れるのさ………例えば、こんな感じでな!!」
「きゃっ!!」
利柊は俺の後ろに立っているウィルに手をかざした。
「ウィル!!」
「"こちらへ来い。我が命に従ってな"」
「………はい」
ウィルは利柊の元へ歩き出した。
「ウィル!! 行くな!!」
俺は叫んで止めようとする。
その声を聞いて、ウィルはこっちを向いて口を開いた。
「……なんちゃって。簡単に行くわけないでしょ? 人妖魔滅殺を考えてる奴のところへ行っても面倒なだけだし」
突然、白銀の鎧を纏って髪の色が金から銀へと変わり、利柊の能力を防ぐ。
「ほぉ。許婚からは魔女が出てくるか」
「ウィル。久しぶりだな」
「えぇ。久しぶり。………魔力の吸収とかを省けるようになってて正解だったわ」
「はぁ………ウィルちゃんが向こうに行かなくてよかったよ……」
柚希ねぇが安堵の息を吐く。
「……風戸響介。この場を切り抜けてみせろ」
いきなり利柊は訳のわからない事を言い出した。
「この場で死ね……ではないのか?」
「あぁ。俺は、ちょいと訳ありでな。お前には俺の城まで来て貰わなければならない。戦いを切り抜けてな」
「…………」
「と、いう訳で頑張れ。じゃあな」
利柊は俺に背中を向け、第2の城門を抜けていく。
「まずは水姫を助けないといけないな」
「……私を倒し、先に進めるかの試験………ですか。手加減はしませんので」
水姫は手を数回叩いた。
すると大量の敵が城門から入り込む。
「さっきより多いかな?」
「雑魚は任せて。私の魔法が最大限に生かせる環境だから」
「あぁ。俺は水姫をやるから援護を頼む。ウィル」
「あ、そうそう。言い忘れてたけど私の事、これからは"アラディア"って呼んで?」
「……何故だ?」
「今はウィルの別人格だけど、昔の通り名がやっぱり恋しいのよ。この名前の方が呼ばれた感じがするし、ウィルにも呼ばせてるからね」
「わかったよ、アラディア」
「じゃあ行きましょうか」
俺とアラディアは神化と禁じられた力を解放して敵を見る。
「柚希ねぇは先に城門へ行ってくれ。後から追う」
「わかった。頑張ってね」
柚希ねぇは空間を開き、中へ入っていく。
「それじゃあアラディア。豪快に暴れるとしようか!!」
「こういう戦闘なら任せなさい!!」
アラディアが魔力全開で、雑魚を倒しに行ったのを確認して俺は水姫と向き合う。
お互いに武器を構えた。
「先手はいただく!!」
「来やがり下さい」
俺は星薙の太刀となった武器を振るい、水姫に攻撃した。
水姫はその攻撃を防ぐのではなく、避けて隙を伺ってくる。
これでは無駄に力を消費するだけだ。
「来い!! "業火"!!」
近接格闘装備の業火を装備し、攻め方を変える。
「はぁっ!!」
「ふっ!!」
「おらぁっ!!」
「はっ!!」
お互いの攻撃は相手に大きなダメージを与える事が出来ず、防がれる。
俺は一度、距離を取って仕切り直す。
「流石、水姫だな。近接格闘で俺についてくるなんて……」
「特訓の成果です」
「だが、ここからが本番だ!! はぁっ!!」
俺は素早く近づいて、握りこぶしを引いて構える。
力を集めて、技を叫ぶ。
「"水鱗掌"!!」
「かはっ!?」
手を開いて水姫にぶつけると、水滴が弾けて、水姫を弾き飛ばした。
俺は攻め手を緩めず、追撃しに行く。
握りこぶしを構えたまま、水姫の吹き飛ぶ先に回り込む。
「"気攻拳"!!」
「っ!?」
風を纏った拳は水姫を跳ね返して、吹き飛ばした。
水姫はコロシアムの壁に衝突して、倒れる。
「いい感じかな」
「くぅっ………なんて技でやがりますか……」
ゆっくりと水姫が立ち上がった。
「本番だからなぁ!!」
「……強すぎでやがります」
双牙を改めて構えた水姫が、加速してくる。
「…………この一撃に勝負をかけます!! 双牙『疾風・迅雷の型』!!」
「スペルにはスペルで応えるぜぇ!! 『業火瞬撃』!!」
俺は光速剣を呼び出して構えた、
水姫も構えを取り、俺の隙を伺う。
「煌めきなさい!! 双牙!!」
「一撃必殺!!」
お互いの斬撃は、思い切りぶつかった。