第56話 無敵城壁破壊作戦
長い山道を登って山頂に辿りついた。
そこには巨大な建造物とその建造物を囲む城壁らしきものがあり、圧倒的な存在感が出ている。
「ここが奴らの根城……」
「そうね」
「ここに水姫様が……」
正面にぶ厚い鉄の扉があり、根城への入口なのだろう。
「どうせ扉の前に立っても開けてくれないだろうし壊すか」
「え?」
俺は星穿の神槍を呼び出して構え、力を溜める。
「サイキック・インパクト・ブラスター!!」
神槍の先から太いレーザーを普段の3割増しで放った。
その攻撃は巨大な鉄の扉を直撃する。
しかし鉄の扉は全く壊れていない。
傷一つ付いていないのだ。
「ほぅ……。中々固いな」
壊れていないと認識すると同時に、俺が攻撃をぶつけた場所が輝いた。
そして巨大なレーザーが返ってくる。
「うぉっ!?」
俺は慌てながらもその攻撃を空へ弾いた。
どうやら城壁には様々な呪術がかけられているらしい。
俺は城壁を凝視する。
凝視する事により、呪術を判別する事が出来るからだ。
「"対物理"、"対魔法"、"対妖術"の強化型プロテクト。追加付与で力の"反射"と破損部分の"自動修復"。城壁に触れた人間以外の力を奪う"吸収"、さらに空間転移や上空からの襲撃に対して内側の空間を閉じて侵入を防ぐ"次元結"……か。結構、頑張ってる城壁だな」
「奴らの自慢の城壁『無敵城壁』だもの。私でもこれは破壊するのは難しいかなぁ……」
柚希ねぇは頭を掻きながら呟いた。
「効果持続の条件は恐らく鉄の扉が閉まっている間。扉が開けば城壁に掛けられた呪術は機能しないと思う。……どうやって扉を開けるか……」
「空間転移は出来ないのですか?」
「次元結は指定領域の空間を閉じるんだ。だから城壁の外と中はお互いに干渉出来なくなる。干渉出来ないという事は空間転移が封じられるのさ」
「でも響介様は並行世界というか異世界というか……他の世界から来られたと聞きましたが……」
「誰だ、そんな事話した奴」
俺は柚希ねぇを見るが、本当に知らないというように首を振る。
この事実を知っているという奴は…………もう一人のウィルしかいない。
「あいつかぁ……」
俺は額に手を当て、呟く。
その事に関しては後で本人に聞くとしよう。
「気を取り直して説明するが並行世界なら分岐点となる世界に一度転移して、そこから分かれている世界へと飛ぶ事が可能だ。手間が掛かって大変だけどな」
「並行世界の自分と入れ替わらないといけないもんね」
「あぁ」
「なら異世界の場合は、どうするんですか?」
「全く異なる世界なら、並行世界の時みたいに多くの手間はかからない。楽といえば楽だな。しかし問題もある………危険過ぎるんだ」
「そうね。世界と世界の間ではありえない事象が普通に起こり、転移する者を傷つける」
柚希ねぇも説明を手伝ってくれた。
次元と空間に関しては凄く詳しいから助かる。
「簡単に言えば、気安くやってはいけない転移って事」
「ただ、俺は訳あって次元転移も空間転移もノーリスクで行えるから例外。柚希ねぇは次元と空間を能力で操れるから例外なんだ」
「あ、頭が混乱しますわ…………」
「まぁ、難しいからな」
「で、響ちゃん。どうするつもり?」
柚希ねぇがそう問うて来た。
「少し試してみるか…………来い!!」
俺は神槍を変化させて体に鎧を纏った。
それと同時に熱い力が流れこんでくる。
「まずは呪術の目を探すとするか!!」
俺は走って城壁に近寄った。
そして体に力を溜める。
「情報を回収させてもらう!! "ハッキング・プレッシャー"!!」
体の力を放出すると白いエネルギーフィールドが城壁に触れた。
それと同時に城壁に張られた呪術の目が、頭の中に送り込まれる。
「見つけたぁ!!」
俺は後ろに飛びのいて、構える。
「神化!! 全憑依!!」
体に新たな力を纏い、神経を集中させた。
俺は何もない空間を握る。
すると俺の手には持ち手だけの剣が握られていた。
その剣を逆手持ちにして、城壁を見る。
目標を確認。
「光速剣……両刃の槍となれ!!」
剣に青白い両刃の長い刃が現れた。
刃の長さは恐らく身長の倍はあるだろう。
俺はその剣を……
「はぁぁぁあ!! ぶっ壊れろおぉぉぉぉお!!」
思い切り投げた。
光速剣は物凄い速さで飛び、鉄の扉に直撃する。
すると城壁にかかる呪術の"強化型対物理障壁"と"反射"が直撃した光速剣に働き、六角形状の波紋が城壁を守る障壁に広がる。
鉄の扉ではなく、城壁を守る障壁に当たったのだ。
本当なら障壁にぶつかった光速剣は弾かれるはずだが、光速剣は弾かれずに城壁の呪術と拮抗する。
「拮抗か……。ならこいつでどうだぁぁぁぁあ!!」
俺は飛び上がり、空中で体を捻った。
「究ぅぅ極ぅぅ!! ゲシュペンストォォオ!!」
しっかりと狙いを定めて、
「キィィィック!!」
加速する。
狙いは光速剣の柄。
拮抗を崩しに行くのだ。
「はぁぁっ!!」
うまく柄に蹴りを当てる事が出来た。
後はさらに力を込めて貫くだけだ。
脚に力を込め、念動力のブーストを使って推進力を加えてぶつける力を増す。
「ぬぅあぁぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶと同時、障壁にヒビが入った。
拮抗が崩れてきた証拠だ。
「貫けぇぇぇぇえ!!」
もう一度、力を込めて光速剣を押す。
すると巨大なガラスの割れた音が聞こえた後、金属同時がぶつかる音が豪快に響いた。
呪術の障壁が破れ、鉄の扉にぶつかったのだ。
「破壊!! 粉砕!! 大!! 勝!! 利!!」
鉄の扉はあっさりと砕かれ、崩れさる。
俺は着地した後、光速剣を回収して月面宙返りでウィルと柚希ねぇの元へ飛んだ。
体に纏う力を全て解除する。
「なんとか砕けたな」
「流石だね!! 響ちゃん!!」
「……あの……響介様?」
「ん? どうした?」
「今のは一体……?」
「あぁ。ウィルは見るの初めてだったな。さっきのは星穿の神槍の派生、近距離格闘戦専用装備『業火』」
「派生ではないけど響ちゃんの装備だから何も言わないでおくとして………業火を装備すると熱血になるのが特徴だよね」
「他にも特徴があるだろうに…………」
「この特徴が一番、わかりやすいからね」
「格闘専用装備がただ熱血になるだけだと思われるじゃないか……」
「熱血になったあの響介様もいいかもしれません……」
「お、大胆発言? でも確かにいいかもね」
ウィルは顔を赤らめて言って、柚希ねぇもその発言に乗る。
良いかも……とは一体?
「まぁいいか。早く乗り込むとしようか」
「はい。わかりましたわ」
「わかったわ。ついに奴らとの最終決戦の始まりね」
(水姫…………今、助けるからな!!)
俺はウィルと柚希ねぇを連れて、城門をくぐり抜けて奴らの根城へと乗り込んだ。