第55話 本来の戦い方
「はぁぁぁぁぁ……」
響ちゃんは神槍に力を流し込み続ける。
すると神槍が突然、青い光を放ち始めた。
「……まさか私の掛けたプロテクトを解除したの……?」
「まぁそんなところかな?」
響ちゃんは血を流しながら、言った。
何故、あれだけ大量出血しながらも立ち続けられるのだろうか……。
神槍はさらに輝きを増していき、形状を崩して光の球へと変わり、彼から離れていく。
「来い!!」
そう響ちゃんが叫ぶと光の球が膨らみ、彼の体を包み込む。
包み込んだ後、すぐに光が晴れた。
傷は全て回復し、体に新たな装備が付けられている。
胸、腕、脚、肩に紺碧の鎧を付けて仁王立ちしていた。
「響ちゃん……?」
「どうした? 柚希ねぇ」
「身体は大丈夫?」
「ん〜………あぁ!! 傷も消えたし、体が軽く感じるぜ!!」
「ん? 熱血キャラになっちゃってる?」
「わからねぇが血が熱くなって止められなくなっちまってるんだよぉ!!」
どうやら格闘装備を装着したら、久々過ぎて流れ込んでくる力に影響されているらしい。
「さぁて!! 二人を取り戻すとしようかなぁ!!」
「少し変わったぐらいで勝てると思っちゃわないで下さい………」
「負けられないのです……」
水姫ちゃんは双牙を振り、響ちゃんを倒しにいった。
「……倒されやがり下さい」
「なんのっ!!」
響ちゃんはその攻撃を左腕で防ぐ。
そして右腕を後ろに引き、
「必中!!」
「かはっ!?」
手の平を当てただけで水姫ちゃんを弾き飛ばした。
「遠距離からならいかがです?」
ウィルちゃんがブーメランを投げて攻撃してくる。
「欠伸が出るぜぇ!!」
高速回転するブーメランを躊躇う事なく、掴んで回転を止めた。
「なっ……」
「間合いが甘い!!」
なんと掴んだブーメランを投げ返した。
そのブーメランはウィルちゃんの片腕を間に挟んで、木に刺さる。
「う、動けない……」
「ウィル殿…………!?」
水姫ちゃんはウィルを助けようと近づいた。
「信じられんほどに隙だらけだ!!」
響ちゃんはそれを見逃さずに、電撃のこもった球を投げた。
その球は二人の近くで雷撃が広がる。
すると電撃に触れた水姫ちゃんとウィルちゃんは体に痺れが走ったようで、座り込む。
「この力で目を覚ましてくれ!!」
響ちゃんは二人の頭を掴み、目を閉じる。
彼の手が赤く輝き始めると二人の表情が歪んだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
「…………!!」
どうやら響ちゃんは念で催眠術を剥がしているのだろう。
しかし、それを妨げる事が起きた。
いきなり山頂から狙撃が飛んできて、水姫ちゃんを掴む腕を撃たれたのだ。
「のわっ!?」
怪我はしていないのだが、水姫ちゃんから手を離してしまった。
手が離れた瞬間、素早い動きで何者かが水姫ちゃんを連れ去ってしまう。
「逃がさない!!」
「待って響ちゃん!!」
追おうとする響ちゃんを私は止めた。
「なんだ!?」
「今はウィルちゃんが先!! また二人とも失う気!?」
「くっ……!! こんちくしょおがぁぁぁぁぁぁあ!!」
響ちゃんは立ち止まり、大声で叫ぶ。
やはり悔しいのだろう。
しかし、ここでまた二人を失ってしまうよりはマシなはず。
我慢してもらうしかない。
「とりあえずウィルちゃんだけでも助けましょ……?」
「……あぁ」
響ちゃんは装備を解除して、戻ってきた。
「解けてくれ……」
響ちゃんがまた催眠術を剥がし始めた。
その儀式のような事はしばらく続く。
そして響ちゃんはウィルちゃんから手を離した。
「……どう?」
「これで解けたはずだが…………」
響ちゃんの表情には不安の色が残っている。
「ん……んんっ……」
突然、ウィルちゃんが声を漏らした。
それを見た響ちゃんは傍へ駆け寄る。
「ウィル!! ウィル!!」
「き……響介……様?」
「よかった……気がついたか……」
「……あの……私は一体?」
「無理に思い出さなくていい。……よかった…………無事か……」
響ちゃんはウィルちゃんを抱きしめた。
「よかったね。響ちゃん」
「あぁ……本当によかった……」
「あ、あのー……響介様?」
「……なんだ?」
「腕を挟んでるブーメラン、外してもらっていいですか? 地味に痛いので」
「あ、悪い。今外す」
響ちゃんは腕を挟んでいるブーメランを外した。
ウィルちゃんは何かに気がついて、口を開く。
「……あれ? 水姫様は何処ですか? 確か一緒に居たはずですが……」
「詳しい事は道中で話すが……立てるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
彼女は自力で立ち上がり、響ちゃんについていく。
「柚希ねぇ。山頂へ急ごう」
「うん。わかってる」
私はウィルちゃんと響ちゃんと一緒に山へと入っていった。
《side out》
今は山の中腹辺り。
少し休憩を挟む事にした。
俺は偶然近くにあった川にウィルを休ませ、少し深い茂みに入って……
「くそっ!!」
俺は思い切り木を殴る。
二人とも助ける事が出来たはずなのに、水姫をまた連れ去られてしまった。
「俺の実力不足か………」
俺は拳を木から引いて呟く。
「本来の戦い方が戻っても………奴を倒せるかどうか……」
「響ちゃん……あんまり考え過ぎないようにね?」
柚希ねぇが横に並んできた。
「……あぁ」
「とりあえず響ちゃんには一つ教えておく事があるの」
「なんだ?」
「響ちゃんの使う鎧には特徴があってね? ごにょごにょ………」
柚希ねぇは俺の鎧について耳打ちをした。
その内容は驚きの一言。
「……マジか」
「うん。だから響ちゃんはまだまだ強くなる。……とりあえずこれからの戦いのために赤眼の力、解放しておくね?」
「なんで、今まで解放しなかった?」
「……忘れちゃってた♪」
柚希ねぇは笑顔でウインクしながら言った。
純粋に忘れてたんだろうな。
「……まぁいい。早く解放してくれ」
「はいは〜い。じゃあ、目を閉じて? 解放するから」
「ん? 今までそんな儀式みたいな事、無くても解放出来たよな?」
「一時的な解放なら儀式が無くても出来るよ。でも、完全解放の場合は必要なの」
「……わかった」
俺は目を閉じる。
すると胸の当たりに固い感触が当たった。
これは……柚希ねぇの頭?
「……ゆ、柚希ねぇ?」
「ちょっと黙ってて。今、作業中だから」
「あ、あぁ」
俺の胸に柚希ねぇが頭をくっつける。
この状況は数分続いた。
時間が経つ事に、体の底から湧き上がってくる力が増してきている。
俺にはそれがわかった。
「…………ふぅ」
柚希ねぇはやり切ったような声を出す。
「終わったか?」
「ううん。最後に一つだけやる事が」
「ん?」
「目は閉じててね?」
「わかった」
「…………ちゅっ」
その音が聞こえると同時に、額に湿った感触がわかった。
俺は目を開き、後ろに飛びのく。
「っ!? な、何を!?」
「女神様からのおまじないだよ?」
「だが、このおまじないは…………」
「ご利益はあるから安心してね?」
「わ、わかった」
きっと、俺の顔は赤くなっていただろう。
こんな事は初めてだからだ。
「響介様〜?」
川の方からウィルの呼び声が聞こえる。
「早く山頂に行かねぇとな」
「そうね」
俺達はウィルと合流し、山頂を目指して歩き出した。