第54話 二人を取り戻す戦い
柚希ねぇの護っていた山の麓に転移した。
「ここか……」
「えぇ。そうよ」
「トラップとかありそうだよな……どうする?」
「まずは……そこら辺に隠れてる奴らでも蹴散らす?」
「いいなぁ……やるか!!」
俺達が叫ぶと同時に地面の下や、木の裏、空、茂みの中から大量の人間が出てきた。
「軽く見積もって………1000人超してるかな?」
「まぁ大丈夫でしょ?」
俺は槍を取り出し、柚希ねぇは矛を取り出した。
「行くぜ!! 憑依装術!! 妖!!」
俺は体に銀狼の力を纏う。
「"螺旋風斬"!!」
俺は爪のような日本刀を装着した両手を広げ、回転しながら相手に突っ込む。
敵を壮大に吹き飛ばしていった。
「憑依装術!! 神!!」
俺は神力を纏い、空高く飛び上がった。
「"放閃火"!!」
巨大な炎の塊を出現させる。
そして片手を振り降ろすと、炎の塊から大量の炎が降り注ぎ出した。
その炎は当たった相手を焼き尽くしていく。
「憑依装術!! 魔!!」
今度は魔力を纏う。
両手剣を下で構え、力を溜める。
「"黒龍の尾"」
豪快に横へ振る。
すると黒い衝撃波が発生。
黒龍の尾で薙ぎ払われたように敵は吹き飛んだ。
「これで最後!! 憑依装術!! 霊!!」
俺は弓を構えた。
そして下に向ける。
「"衝華霊波"!!」
真下に矢を放つ。
すると矢は地面に吸い込まれていく。
いきなり地面に巨大な蕾が現れて、俺を包みこんだ。
「咲き誇れ!!」
華が一気に開くと、衝撃波が全方位に走った。
柚希ねぇを除き、全て吹き飛んだ。
「私も………憑依装術!! 霊!!」
柚希ねぇも憑依装術を使い、霊力を纏う。
背中には白の翼があり、頭上にはリングが浮かんでいる。
弓を持っていて天使のような姿へ変わった。
「"霊光閃雨"!!」
柚希ねぇが空に向けて一本の矢を放つ。
するとその矢は上昇するにつれ増えていく。
そしてあるところまで上がると止まり、矢の先端が全て敵を捕らえる。
「行け!!」
その掛け声と共に矢は降り注ぎ、複数の敵を貫く。
俺達の周りは死屍累々と化していた。
「「憑依装術……解除」」
「片付いたかな? 流石、響ちゃんだね」
「疲労がない……修業の成果は中々だな」
俺は槍を振り回したりして体を確かめる。
「とりあえず先に進むか………っ!?」
いきなり山の中からブーメランが飛んできた。
「はぁっ!!」
俺はそのブーメランを弾く。
弾かれたブーメランは飛んできたところに戻り、人影がそれを取った。
「……侵入者を発見致しましたので迎撃します」
「……同じく迎撃します」
その人影の正体は操られているウィルと水姫だった。
「水姫!! ウィル!!」
「風戸響介……まだ生きてましたか……」
「利柊様の邪魔をする者は……排除します」
「やはり催眠術か……」
「どうするの? 響ちゃん」
「叩けば治る感じで、ダメージを与えれば解けるだろ。柚希ねぇは手だし無用」
「無茶はしないでね……」
「わかってる」
俺は槍を構えて二人と向き合う。
「さぁ……始めようか」
俺と水姫とウィルの戦いが始まった。
《side out》
響ちゃんは水姫ちゃんとウィルちゃんの二人を相手に戦い始めた。
タイマンなら響ちゃんの勝ちは見えている。
しかし、水姫ちゃんとウィルちゃんはチームワークで戦っている。
前衛は近距離戦が得意な水姫で後衛は遠距離支援が専門のウィル。
こうなると勝負はわからなくなってくる。
「お願い……無茶はしないで……」
私はこの戦いを見守り、祈る事しか出来ない。
「きっついな……」
「攻め手に欠けています………そこです」
「……援護です」
二人がかりの攻めを響ちゃんはなんとかしのいでいる。
しかし、さっきからしのいでばかりだ。
隙があっても攻めないで、守りに徹している。
これでは決着がつかない。
さっきは「叩けば治る感じで……」とか言っていたのに…………。
……もしかして!!
「響ちゃん!! やっぱり二人を傷つけられないんでしょ!?」
「ははは……まぁな。どうしても迷いというか、躊躇っちまうんだよね」
「……甘いですね」
「……甘々でやがります」
やっぱり響ちゃんは優しい。
でも、今の戦いではその優しさが裏目に出ている。
「助けたいが、傷つけたくない……」と心の中で考えているのだろう。
「響ちゃん!!」
「なんだ? 柚希ねぇ」
「神化と全憑依を使いなさい!! そうすればしばらくは回避しやすくなるから!!」
「……わかった」
響ちゃんは神化を発動させてから憑依装術を全て同時に発動させた。
これで避けきれなくても受けるダメージは減る。
……しかし問題はここから。
どうやって傷つけずに二人の催眠を解くかだ。
何か手があっただろうか…………。
………たった一つだけ可能性はあるかもしれない。
そのためには……。
「ブーメランも刀も全部、避けないで武器で防いで!!」
「何故!?」
「いいから言う事聞きなさい!!」
「……わかったよ」
響ちゃんは神槍で全ての攻撃を防いでいく。
うまく事態が運べばいいんだけど……。
「中々しぶといでやがりますな……」
「……一気に攻めると致しますか?」
「そうですな……決めに行きましょう……」
ウィルちゃんはそう言って、スペルを構えた。
「転爪『スピニングスラッシュ』」
ウィルちゃんは巨大なブーメランを縦に投げた。
それは地面を穿ちながら響ちゃんへ向かっていく。
「ちぃっ………はぁっ!!」
響ちゃんはその攻撃を防ぐ。
でも、予想以上に威力が高いらしくて押されていく。
「かはっ!?」
ブーメランは弾いたが、響ちゃんは体勢を崩してしまった。
「……今です。双牙『疾風・迅雷の型』」
水姫ちゃんは響ちゃんの隙を見逃さずにスペルを使う。
「煌めきなさい……双牙」
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目に見えない神速の一撃が響ちゃんを襲った。
彼の体を守る鎧に一筋のヒビが現れ、そこから大量の血が吹き出る。
神化と全憑依が解除され、響ちゃんは倒れてそのまま動かなくなってしまった。
「響ちゃん!!」
「…………」
「ここまでですね………風戸響介」
水姫ちゃんは双牙を構えて、トドメを刺そうとする。
響ちゃんは神槍を握りしめたまま全く動かない。
「……ん? あれ?」
私は目を擦る。
響ちゃんにノイズがかかったように見えたからだ。
一体、何が起きているのだろうか………。
「サヨウナラです」
水姫ちゃんは双牙を振り降ろした。
「響ちゃん!!」
「……起きてるよ。"瞬転"」
双牙が当たる瞬間に響ちゃんは瞬転を使い、回避する。
「……あの傷で生きているのですか」
「しぶと過ぎでやがります」
私は瞬転してきた響ちゃんを抱きしめて、叫ぶ。
「もうっ!! 本気で心配したんだから!!」
「ははっ……悪いな……」
「生きてるから許すけど………その傷じゃ……」
「……いや、行ける。時間は稼げたからな」
「……もしかして、私の考えを理解したの?」
「あぁ。もう準備は出来た」
響ちゃんの握りしめる神槍はヒビだらけ。
その神槍に小さなノイズが大量にかかる。
「まだ無理じゃないの?」
「……まぁ見てな」
彼は槍を構えて、力を流し込み始めた。