第52話 響介の過去回想
水姫に刺された俺は、とても深い闇の中に沈んだ。
そして俺はそこで、過去を巡る事になった。
これは俺の過去物語。
俺達の種族は人類との戦争に負け、仲間の大半が消えた。
残ったのは俺と一人の少女だけだ。
その少女はある一人の軍人について行った。
というか利用したのかな?
俺はもう戦うのは嫌だったから戦場には行かずに人間として暮らす事を選んで別の世界……いわゆる並行世界に転移した。
降り立った場所は木の生い茂る山だった。
「さてと………どうするか……」
とりあえず人間がどんな感じなのかは分かる。
しかしそれは軍事的な事ばかりだ。
一般人が何なのかが分からない。
しかも俺は小学生5年と同じくらいの身長だ。
まだまだ生活に支障がある。
「しばらくさ迷う事になりそうだな……」
「………あなた……面白い子ね。空間転移……いや時空転移かしら?」
目の前には巫女のような服を着た高校生ぐらいの女がいた。
「……何者だ? 邪魔をするなら叩き潰す」
「あら。この私に勝てるとでも思ってるの? 随分と自信過剰なのね」
女は俺を挑発するような口調で言った。
俺はその挑発に乗ることにした。
「……ならやってみるか?」
「いいわよ? "夢操の矛"」
女は夢操の矛と呼ばれる武器を出現させた。
「武器か……まぁいいだろう」
「貴方は武器無しね。……それじゃあやりましょうか?」
「あぁ!!」
俺と女は戦いはじめた。
俺は弾き飛ばされて地面に叩きつけられた。
「っ!? かはっ!!」
「私の勝ちね。これ以上やっても無駄よ」
「い、いいや……ま、まだ終わってない!!」
俺はなんとか立ち上がりまだ戦おうとする。
だが今の状況では俺に勝ち目は無い。
女はほぼ無傷、俺にはもう戦う力がもう残されていない。
「その諦めない目……嫌いじゃないわ」
「うるさい!!」
俺は体の中のありとあらゆる力を振り絞り、最後の一撃を放つ準備を始めた。
「仕方ないわね……来なさい」
「"連衝弾"!!」
拳を思いっきり女に振った。
しかしその攻撃は避けられて、
「私の勝ちね」
首に刃が突き付けられた。
「…………俺の負け……か……。さぁどうにでもしろ」
俺は座って死を覚悟して目をつぶった。
「良い引き際ね。でもそんな事しないわよ。人を殺すなんて嫌だしね」
「……人じゃないんだが……」
「良いの良いの。こっちの世界では人間として生きなさい。化け物ってばれたら殺されるから」
女は笑顔で怖いことさらっと言った。
「あんたは人間じゃないのか?」
「私は人間じゃないわよ。山姫っていう女神なの。あ、君の名前は?」
「………キョウスケ」
「私は神代柚希。よろしくね、響ちゃん?」
これが柚希ねぇこと、神代柚希との出会いだった。
なんか響ちゃんって呼ばれた。
「響ちゃんって………なんだその呼び方……」
「敗者は勝者に反抗しない……この言葉……知ってるわね?」
「……あぁ、わかったよ……」
俺は戦いの掟に従い、要求を受け入れた。
「どうせしばらく居るところ無いんでしょ。しかも貴方の実力じゃこっちの世界じゃ生きていけないから私のところに住みなさい」
なんか住む事も言われた。
「それも要求か?」
「いえ、ただ貴方みたいな子が死なないように心配してるだけよ?」
いや、絶対に要求してる言い方だ。
「まぁ死にたくないから居候させてもらうよ」
「そうこなくちゃね♪」
この後、数年間色々な意味も含めて厳しい修行をした。
ちなみに余談であるが、
「あ、ちなみに私のことは"柚希ねぇ"って呼びなさい」
「言い方的に要求か………仕方ない。わかったよ。柚希ねぇ」
呼び方まで強制された。
俺は強くなり、彼女の元から離れて山の外で暮らし始めた。
まぁ家を持ってないから毎日野宿だけど。
「僕のところへ来ないか?」
空き地の木の枝に座っていた俺に一人の男が声を掛けてきた。
「……誰?」
「僕の名前は"風戸 零"。ただの物好きさ」
風戸………零。
何故、彼は俺に話し掛けてきたのか俺にはわからなかった。
だから俺は彼に問い掛けた。
「何故……俺に近づく? 人間であるお前が……」
「君が僕に似ているから……かな?」
似ている?
俺が?
お前に?
「どういう事だ?」
「恐らく君は怪物だろ?」
(こいつ………俺の正体に気がついてる!? 俺を殺すのか?)
俺は死に恐怖した。
しかし彼はそのまま言葉を繋いだ。
「僕も……化け物なんだよ。妖怪っていうね」
「妖……怪?」
俺は徐々に掴んできた。
彼は人間では無く妖怪。
俺と同じ"化け物"なのだ。
「だから……妖怪である僕のところに来て暮らさないか?」
「お前が……良いなら……」
俺はそう言った。
自分でも分からずに、言ったのだ。
「よし、なら決まりだな。君の名前は何だ?」
「……キョウスケ」
「ならこれからは"風戸 響介"と名乗れ。わかったか? 響介」
「わかった……"ありがとう、父さん"」
俺は今まで誰にも言った事が無い言葉を言った。
自分でも驚いたくらいだ。
しかしこの"ありがとう"という言葉は暖かい気持ちになる。
それは不思議な感覚だったが、そんな事より俺は"家族"が出来た事がうれしかった。
それから俺と父さんの生活が始まったのだ。
父さんと暮らし始めて4年が経った。
そこで父さんに大変な事が起きた。
「なぁ、響介」
「どうしたの? 父さん」
「結婚する事になった」
「………え? ゴメン、もう一回言ってくれる?」
取り合えず聞き間違えかと思ったからもう一回聞いてみた。
「だから結婚するんだよ。僕がね」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
そう、父さんが結婚する事になったのだ。
相手の人の名前はお金持ちで、美人らしい。
しかも、しっかりした性格で会社の社長をしていて若いようだ。
「なんでそんな凄い人と結婚する事になってるの?」
「とある事情があってね。まぁそういう事だからよろしくな」
その"とある事情"が知りたいんだが?
「まぁいいや。俺達、化け物でも大丈夫だよね?」
「ばれないように頑張るんだ。赤城さんの家は神社だからな」
駄目じゃん。危険じゃん。
「父さんは死ぬ気?」
「まぁ……頑張る」
そんなこんなで父さんは結婚した。
それからしばらくしてまた大変な事が起きた。
「響介。ウィルさんは貴方のお嫁さんになる人だから仲良くね?」
「あぁ、わかってるよ。母さん」
そう、許婚が出来た。
彼女の名前はウィル・アインス・ウェンツィアー。
とある国のお姫様みたいな存在らしい。
何故、このような人と許婚になったかというと、母さんの仕事が有利になるからである。
だが、俺は平和ならなんでも良かった。
だから俺は許婚を受け入れたのだ。
「あの……響介様?」
ウィルがもじもじしながら話しかけてきた。
「ん? 何だ?」
「こ、これから……よ、よろしく……お、お願いします!」
「あぁ、よろしくな」
俺とウィルは挨拶を交わした。
ついでにウィルは居候になるそうだ。
ウィルと会ってから数年経ち、ウィルは家庭の事情で母国に帰るらしい。
なんか戻るまで結構かかるみたいだ。
俺とウィルは学校から一回家に帰り、空港へ向かった。
「ウィル。荷物は忘れてないな?」
「もちろん大丈夫ですわ。お見送り感謝いたします」
ウィルが笑顔でそう言った。
「じゃあな、ウィル。また会おうな」
「えぇ、響介様もお元気で」
ウィルは飛行機の搭乗口へ向かった。
「……はぁ、これからが大変だな。どうせ"あいつら"が俺を殺しに来るんだからねぇ……」
俺は少し凹みながら家へと帰った。
俺はいつも通り家路へとついた。
しかしここからいつも通りでは無い帰り道が始まったのだ。
俺は空港から駅を繋ぐ大通りを歩いていた。
ブゥゥゥゥゥゥン!!
しかしそこへ車が突っ込んで来た。
乗用車ならまだ良いがトラックだ。
「危なぁぁぁい!!」
誰かが叫んだ。
しかし俺は動揺一つせずに避ける。
「よっ……と」
うまく体を捻り、ダメージを無くす。
「全く……危ないなぁ…まぁ良いか。さっさと帰ろ」
俺はまた歩き出した。
そして地下鉄のホームへと降りた。
「はぁ……また嫌な予感がする」
俺はここでも何かがある感じがした。
俺は荷物を纏めて足元に置いて電車を待つ。
そしてしばらくして電車が来る。
ドンッ
「おっ?」
誰かに突き飛ばされた。
しかもヤバい事に電車が目の前にやってきている。
「やっぱりか……ほいっと」
俺はホームの床の端っこを掴み、すぐに腕を引いてホームの下に滑り込む。
ズザァァァァ!!
その直後、電車が通り過ぎる。
「何とかなったな。全く……今日はいつもより多いな」
俺は気楽に考えた。
そのまま俺は電車に乗り込んだ。
自宅の最寄駅の出口への階段を登っている。
しかし油断はしない。
だって狙われているんだからな。
恐らく登りきったら来………
「誰か止めて下さぁぁぁぁぁい!!」
まさかの登ってる最中にくるか。
だが、落としたのは若い女性だ。
それに落とした物は果物。
……これは"奴ら"と無関係と考えるべきだが、奴らはこれを利用してくるだろうな。
「ほい、ほい、ほい」
俺はどんどん拾っていく。
そして積み上げて両手が塞がった。
俺は渡そうと階段をゆっくり登る。
ガンガンガンガン!!!!
しかしそんなところへドラム缶が転がり落ちてきた。
これは奴らが仕込んだな。
「……どうする? とりあえず投げるっ!!」
俺は果物を上に投げて構える。
「せいっ!!」
俺は両手で受け止める。
しかしかなりの力がかかり俺は押された。
「たぁっ!!」
ドガァァァァン!!
俺はドラム缶を蹴飛ばして階段を登らせる。
そして果物を受け止め終わり。
そして女性に果物を渡して階段を登りきった。
「はぁ、今日は本当に酷いなぁ……はぁっ!!」
俺は全速力で家へと走った。
そしてなんとか家に着いた。
「はぁ……はぁ……自宅なら安全だ…………ん?」
そしてある物が目に入った。
「クウゥ………」
「…鼬か? 酷い傷だな……」
自宅の前に傷だらけの鼬がいたのだ。
「お前……禁じられた山から来たのか?」
「ゥウ……」
「今はそんな場合じゃないよな………治療してやるから大人しくしてな」
俺は鼬を抱えて家の中へと入った。
そして自室のベッドに布を敷いて鼬を寝かせる。
傷薬と包帯を取り出して治療を始めた。
「まずは……止血だな。で、その後は傷をふさいで……っと」
「…………」
「あとは食べ物を食わせてやらないと……とりあえず生肉でいいよな?」
「……(コクリ)」
「わかりやすい反応をありがとう。じゃあ持ってくるから待ってな」
俺は走って肉を取りにいき、すぐに戻って鼬に肉を渡した。
「………(ガツガツ)」
「今日は父さんも母さんも居ないからちょうどよかった。傷が治るまで家に居ていいからな」
「………(コクリ)」
「そういえば名前がないと面倒だな………う~ん……」
俺は鼬の名前を考えた。
なんか目が綺麗な水色だな……。
それでなんとな~くウィルのように姫さまっぽい毛をしてるから……。
「決めた。今日からお前は"水姫"だ。よるしくな」
「くぅ……(ペロペロ)」
俺が手を差し出すと水姫は手を舐めた。
これが水姫との出会いだったなぁ……。
今日この日、俺の父親、"風戸 零"が死んだ。
別に寿命や病気で死んだ訳では無い。
"奴ら"に殺されたのだ。
俺の父親は体を滅多刺しにされ、見つかったそうだ。
え?奴らって誰かって?
あぁ、説明して無かったな。
奴らとは"退魔連合協定組"の事だ。
俺はパラレルワールドからやって来て、この世界に住んでいる。
そして来てみると彼らはこの日本に存在する魔物……簡単に言えば日本にいる妖怪達を殺して民間人に被害が及ばないように管理、殺戮を行っていたのだ。
だから妖怪である父さんは殺されてしまった。
俺は今まで何度も殺されそうになったが回避してきた。
奴らは、いつか……俺を父さんのように滅多刺しにするつもりなのだろう。
だが、可能な限り俺は生き延びる。
その決心を俺は固めた。
ただしウィル達には絶対に言わないで、出張で居ない事にした。
そして3年が経ち、ウィルが帰ってきた。
「久しぶりだな、ウィル」
俺はウィルを出迎える。
するとウィルは飛びついてきた。
「会いたかったですわ!! 響介様!!」
俺はウィルを程々に懐かせて、落ち着かせた。
「雰囲気が随分と変わったな」
そのままウィルを連れて家の中に入る。
「随分と汚いが、入っててくれ」
「汚くても構いませんわ。貴方様の部屋なら」
やっぱりウィルは相変わらずだな。
俺は安心した。
しかしそんな幸せな生活は長続きしないのだった。
俺はウィルと一緒に帰っていた。
しかしそこへ"奴ら"がやってきた。
「お前が風戸 響介だな?」
俺はウィルを後ろに退かせて答える。
水姫はバックの中へ入った。
「そうだったら?」
「貴様の命を貰うのみ!!」
奴らは日本刀や拳銃を構える。
数は約10人だ。
「ウィル。バックを持っててくれ」
「響介様……これは一体……?」
「あとで話す。……待たせたな」
「さて……そろそろ始めようか」
「来るなら来い。相手になる」
「かかれぇ!!」
俺は素手で戦いを始めた。
「ウィルは目を閉じろ。そして絶対に見るな」
「は、はい!!」
俺はウィルにそう伝え本格的に動き出す。
まずは拳銃を全て吹き飛ばす。
向こうの世界でやっていた戦いに比べたら凄く甘い。
だから全部の弾を避けて拳銃を破壊した。
次は日本刀……さすがに恐怖がある。
俺は回避に徹した。
しかしやはり数で押され始めてついに俺の体に……。
ザクッ!!
「ぐっ!?」
日本刀が刺さった。
そこへ他の敵が刀を刺してくる。
グサッ!! ザクッ!!
そして奴らは歓喜を上げた。
「やったぞ!! 響介を倒したぞ!!」
……ドクン!!
(あ、ヤバい……もう……駄目だ……)
その時、俺の力の制御が外れた。
制御解除と同時に俺の体に別な力が湧いてくる。
俺の眼の下に小さな赤い水晶が2つずつ、左右に現れる。
そして眼が赤に染まり、髪は金髪混じりの青髪になった。
そして俺は声を発する。
「舐めるなよ……人間風情が……」
俺はこの時に気づいた。
ウィルに俺が人間では無い事を知られてしまった。
しかし今は父さんの仇、そして己を守る為だから仕方がない。
「うわぁぁぁぁぁ!? 日本刀が体に刺さっているのに生きていやがる!!」
「こんな刀で俺を殺そうなんて甘いんだよ……」
俺は体に刺さった日本刀を抜きながら言い放つ。
そして抜いた刀は折り、捨てた。
「ば……化け物だぁ!!」
「あぁ、化け物さ。だがお前達は、その化け物に戦いを挑んだんだから覚悟はあるよな?」
俺は自らの力で日本刀を作り出し構える。
奴らはさっきの余裕はすっかり消えさり、恐怖に怯えていた。
「た……助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
「それじゃあ……さようなら」
俺は日本刀を振り回して奴らを刺したり斬り刻んだりした。
返り血は全て避けて地面に落ちる。
俺とウィルに当たらないように努力した。
しばらくその復讐の血祭りは続いた。
「はぁ……はぁ……終わったか……」
奴らは全て斬り刻んだ。
俺の周りは血塗られた大地となっていた。
俺は落ち着いてリミッターをセットした。
「ウィル。もう開けていいぞ」
俺はウィルに優しく声をかけた。
ウィルはとても泣いていた。
まぁ泣くのは当たり前だろう。
しかし俺は可能な限り優しく言った。
「さぁ帰ろう? 俺達の家へ……」
しかしウィルは怖がり、こう言った。
「少し先に……帰って貰えますか?」
これ以上、ウィルを恐怖させる訳にはいかなかったのでウィルに謝った。
「……わかった。そして、すまなかった。怖い思いをさせて……」
俺はバックを持ち、走って"禁じられた山"へと向かった。
「……ここから別世界に行こうかな? 名残惜しいけど仕方ない……」
俺は道無き道を歩いた。
しかしその時、俺は無重力感覚になる。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
俺は地面に強く打ち付けられた。
「もう……死ねるのかな? あは…はは……」
俺の意識はここで途切れた。
過去を全て巡り終わった直後、誰かが闇の中の俺を引っ張り出した。