第47話 行脚の終わり
「響介様ー……まだ着きませんか?」
「そろそろ見えてくると思うぞ」
俺は今、水姫とウィルを引きつれて風見幽香という猛者の住む太陽の畑を目指している。
向日葵が一面に咲いているからわかりやすいはず。
「多分、この坂を登った先だろうな。頑張れ」
「わかりましたわ……」
「で、主。風見幽香といえ猛者と戦いやがるつもりなんですよね?」
「あぁ。強くなるためにな。全力でぶつかるさ」
「そうですか。でも、あまり無理はしないように」
「わかってる………お、もう着くぞ」
坂を登りきった先に待っていたのは黄色い絨毯が広がる場所だった。
一面中に向日葵が咲いていて、絨毯のように見えている。
「綺麗ですわね……」
「確かに綺麗な場所です」
「ここに風見幽香がいる………楽しみだな」
俺達は思い思いに呟き、花畑に入ろうと歩き出す。
すると花畑の向こうから殺気を持った攻撃が飛んできているのがわかった。
「っ!? 危ない!! 二人とも避けろ!!」
「え!? え!?」
「飛びますよ。ウィル殿」
水姫はウィルを抱きかかえて飛び上がり、攻撃の当たらない上空へ。
俺も横に飛びのいて攻撃の当たらない位置へ移動した。
その直後、花畑の向こうから飛んできた攻撃「虹色に輝く太いレーザー」が俺の横を通り抜ける。
そのレーザーには見覚えがあった。
魔理沙の使うスペル『マスタースパーク』だ。
威力、太さ、弾速全てが似ている。
これは魔理沙が撃ったのだろうか?
可能性としてはあるかもしれないが…………何かが違う気がする。
謎のマスタースパークは過ぎ去り、第2波は飛んでこない。
「二人とも無事か?」
そう問い掛けると水姫は降りてきてウィルをゆっくり立たせた。
「無傷でやがります」
「助かりましたわ、水姫様」
「いえ、主の命令に従っただけですので……」
どうやら無事のようだ。
それを確認すると同時に、俺は花畑の方を見る。
すると、広大な花畑の向こうから人影が飛んできていた。
その人影からは膨大な妖力を感じる事ができる。
「……どうやら、人捜しの手間が省けたみたいだな」
「風見幽香様……ですか?」
「そうでなければ、妖力の強さが説明出来ない」
「主、ご武運を」
水姫とウィルは一歩下がっていった。
「あぁ」
そう答えると同時に人影は俺達の目の前に降りてくる。
緑髪の日傘を持った女性だった。
「フフッ…………よく避けたわね。あの距離からの攻撃を」
「殺気のこもった攻撃が飛んできたら避ける事など、どうという事ではない」
「私が攻撃した訳はわかるかしら?」
「不意打ち……というよりは、俺の事を少しばかり知っていて、戦える実力があるかを試すため………か」
「正解。流石は博麗の巫女と魔理沙を倒した外来人ね」
「そうでもないんだがな……風見幽香」
「あら。私の名前を知っているの?」
「道案内してる人に聞いた。この花畑には強力な妖怪が住んでいる……ってな」
「へぇ……なら貴方は私と戦うつもりなのね」
風見は日傘の先を俺の方に向けて、言い放った。
俺の答えはもちろん決まっている。
「そのつもりだ」
「なら始めましょうか………。そういえば名前を聞いてなかったわね。名前はなんて言うのかしら?」
「俺は風戸響介。そして後ろにいるのは許婚のウィルと従者の水姫だ。よろしく頼む」
俺は二人は後ろで一礼したのを横目で確認する。
「えぇ。よろしく」
風見はそう言葉を放つと同時に傘を振って、俺に攻撃してきた。
俺はすぐさま神槍を呼び出して防ぐ。
「おいおい。いきなりかよ」
「体が疼いて仕方ないの………強い人と戦いたくてね!!」
風見の攻撃は重く、俺は一度距離を取った。
「流石、風見だな」
「幽香でいいわよ。名字で呼ばれるの、慣れてないから」
「わかった。いくぞ!! 幽香!!」
「来なさい!!」
俺は槍のリーチを生かして、日傘の届かない位置から突きを繰り出す。
幽香はそれを見切り、一歩横にずれる事により回避。
その流れから日傘を俺の顔へ目掛けて突きを繰り出した。
だが、後少しのところで俺には届いてない。
「届いてないぞ。距離感がズレたのか?」
「いいえ。これでいいのよ………『マスタースパーク』」
幽香は傘を開いて、聞き覚えのある技を呟く。
すると傘の先端が輝いた。
「なっ!? "瞬転"!!」
俺は咄嗟に瞬転を使って上に飛び、その攻撃を回避する。
「……危ねぇな。危うく死ぬかと思った」
「あら? 避けてよかったの? 後ろには連れがいたのに」
「!? しまった!! 水姫!! ウィル!!」
俺は慌てて、下を見る。
砂埃が立ち込めていて、姿が確認出来ない。
「……響介様。危なかったですわ」
その声が聞こえると同時に砂埃が吹き飛び、そこには"転壁"を使っているウィルが立っていて……
「全くです。主」
水姫は近くにあった木の上に立っていた。
どうやら二人とも無事のようだ。
「あら。中々やるわね」
「悪いな、二人とも」
「大丈夫です。響介様は気にせず戦って下さい」
「自分の身は自分で守りますので」
「あぁ」
俺は幽香の方向を向く。
「それじゃ、改めて………やらせてもらう!!」
「えぇ!!」
神槍と日傘をぶつけ合い、俺と幽香は戦う。
お互いに全力を出して戦っていて、俺の頭に少しだけ言葉が出てきた。
(このまま神槍にヒビが入れば……後々、楽なんだが……)
「…………」
いきなり幽香は後ろへと飛びのき、口を開く。
「ここまでね」
それは戦いを終わらせる言葉だった。
「……なんだと?」
「貴方の頭の中には私との戦い以外の事が時々掠めているわ。だから……その事が消えたら、また戦ってあげる」
今の戦いで、その事を読み取るなんてな………。
「戦えるようになったら………また来ていいか?」
「えぇ。戦えるようになったらいつでも歓迎するわ」
「あぁ。それじゃあ………またな」
俺は幽香に背を向けて、水姫とウィルのところへ戻る。
「戦いは中断ですか」
「あぁ。ただ……彼女の強さがわかったよ。戦うだけで相手の悩みとかを読み取れるなんて、よっぽどの手練だ」
「これで……旅は終わりですか?」
「そうだな。あとは家に戻るだけさ」
「わかりました。それでは戻ると致しましょう」
「……戻るか」
俺は二人を引き連れて、自宅へと歩き出した。
《side out》
真っ暗な部屋の中に一人の男とがいた。
手に酒瓶を持っていて瓶から直接飲み、彼は言葉を発する。
「………後5日……。どれだけこの日を待ったことか…………奴の息子である"あの男"を討ち果たせれば、俺の復讐も終わりを告げる……ってなぁ……」
男は立ち上がり、酒瓶を叩き割って叫びを上げた。
「待っていろぉ!! 風戸零!! この高牙利柊が貴様の息子を血祭りに上げてぇ!! 四肢を喰われたこの恨みをぉぉ!! 晴らしてくれるわぁぁぁぁ!!」
そして男は部屋の扉を開けて、廊下に待機していた部下に命令を下す。
「風戸響介の仲間の居場所を探せ!! 見つけたら俺に知らせろぉ!!」
「ハッ!! 直ちに!!」
部下達は走ってその場を立ち去る。
「風戸響介ぇ……!! 貴様にはとてつもなく深い絶望を見せてやるぅ!!」
利柊の叫びは誰の姿も見当たらない廊下に響き渡っていた。
《side out》