第46話 次の目的地へ
「響介様、どうやらご飯のようですわ」
運動中にウィルがそう伝えてきた。
「そうか。なら柚希ねぇを起こさないと」
「主、それは私がしておいちゃいましょう」
「大丈夫ぅ……起きたからぁ……ふわぁぁ……」
柚希ねぇが欠伸をしながら出てくる。
髪の毛がボサボサだ。
「柚希ねぇはとりあえず身嗜みを整えてくれ。挨拶しなきゃいけないからな」
「はぁ〜い……水姫ちゃん、手伝ってぇ…………」
「かしこまりました。主は先に行って下さい。後から向かいます」
「了解。ウィル、行くぞ」
「わかりましたわ」
俺とウィルはゆっくりめに歩き出した。
「失礼します」
襖を開けるとそこには質素な料理が机の上に置かれていた。
そしてそれを囲むように座っているのは……聖さん、星、ぬえ。
その他にも初見の顔が数人、こちらを向いている。
鼠のような耳を持つ少女、尼っぽい服装の人、その後ろにいる恐持てなおじさんの顔をした雲、夏に海に居そうな女子高生っぽい人。
個性豊かだ。
「俺達はどこですか?」
「私の正面です」
「わかりました」
俺とウィルは聖さんの真っ正面に座った。
そしてその直後に、
「すいません。お待たせしました」
綺麗になった柚希ねぇと水姫が入ってくる。
「座って下さいな」
「はい」
柚希ねぇは水姫と一緒に座った。
「それじゃあ、まずは自己紹介してもらいましょう。響介さん?」
「はい。わかってます」
俺は一歩下がり、ゆっくりと頭を下げた。
「夕食の時に顔を出せずにすいませんでした。突然、用事が入ってしまったので……」
頭を上げて、俺は言葉をつなげる。
「この場を借りて謝ります。……で、自己紹介をさせて下さい。俺は風戸響介。幻想郷行脚をしています」
「私は神代柚希です。山姫っていう女神のような仙人のような事をしています」
「そして、従者の水姫と許婚のウィルです」
俺がそう言うと二人は頭を下げた。
「どうぞよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「……こんな感じでいいですか? 聖さん」
「いいと思いますよ? 謝られるとは思いませんでしたが」
「ほっ……馴れない事したから緊張した……」
「ナズーリン、一輪、雲山、ムラサ。自己紹介を」
「私はナズーリン。ご主人……虎丸星の使いをしている。よろしく」
鼠の耳をした少女がそう言った。
そして次に口を開いたのは尼の格好をした人。
「私は雲居一輪。姐さんの元で尼をやっているわ」
「…………」
雲がジィッと見つめてきた。
「で、この雲は雲山。私とコンビを組んでるようなものよ」
最後は夏っぽい人。
「私は村紗水蜜。星蓮船のキャプテンをしていた舟幽霊さ」
「よろしくお願いします」
俺は改めて頭を下げた。
「それにしても響介さん。凄く口調を変えたようで」
「初対面の人もいるので、とりあえずは。馴れないので噛みそうでした」
「なら、元の口調でいいと思いますよ?」
「わかりました。…………ふぅ」
俺が口調を戻して一息つくと、誰かのお腹が鳴る。
「あらあら。それじゃあ食べましょうか」
聖さんは音の原因を突き止める事をせずに、ご飯を食べるように誘導した。
「「「「いただきます!!」」」」
朝食の始まりだ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
朝食を片付けるのを手伝い、俺は自分の席に座る。
すると正面に座る聖さんが話しかけてきた。
「響介さんはこれからどうするんですか?」
「まずはこのままの進行ルートで博麗神社辺りまで行くつもりなんですが……」
「このままの進行ルートと言いますと、響介さんはどういうルートで来られたんです?」
「博麗神社から妖怪の山方面に旅をしてきました」
「という事は、次に辿り着くのは太陽の畑ですね」
「太陽の畑?」
「えぇ。夏には一面、向日葵が咲く花畑です」
「へぇ。今が旬みたいな感じですか?」
「しかし太陽の畑には強力な妖怪である"風見 幽香"が住んでいます」
「風見……幽香?」
「はい。幻想郷の中でも五本指に入るほどの実力者です」
「なるほど……」
「恐らくは響介さんの噂も彼女の耳に届いている事でしょう。なので戦いを挑まれると思います」
「戦いが好きなんですか? その風見幽香という妖怪は」
「花を粗末に扱う人には容赦ないですね」
「気をつけます」
「あ、私はそろそろ仕事があるので失礼します」
「情報提供に感謝します」
聖さんは部屋を出ていった。
俺は聖さんから聞いた名前と情報を思い出す。
「風見幽香……か。少し会うのが楽しみかもしれないな」
そう呟いた時、水姫がやってきた。
「主、どうかしましたか?」
「次の目的地は太陽の畑だ。ちょうど道の途中にあるらしいからな」
「わかりました。お付き合いします」
「支度を始めてくれ」
「かしこまっちゃいました」
水姫は部屋から出ていった。
それと入れ代わりで柚希ねぇが俺の隣に座る。
「あ、何かいい情報でも仕入れたでしょ」
「なんでわかるんだよ」
「空間の揺らぎよ。悩んでる時とは違う揺らぎが響ちゃんの周りの空間で出来てたから」
「相変わらずの空間か」
「で、なんの情報?」
「幻想郷の猛者が俺の通り道にいるらしいから戦えるかな? って感じ」
「修練を積んでまた強くなるの? そんな事したら元の力に覚醒したら複製よりも強くなっちゃうよー」
「強くなってほしくない……と?」
「いや、越えられちゃうなー……って思ってさ」
「柚希ねぇもがんばればもっと強くなると思うが」
「これからは、か弱い女神様でもやろうかな?」
「やめておけ。女神様は強いってイメージが多いからな」
「は〜い」
柚希ねぇはそう言って立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ時間だから行かなきゃ」
「わかった。水姫とウィルにも挨拶しておいてくれ」
「は〜い。わかってるよー」
柚希ねぇは部屋から出ていった。
俺は柚希ねぇが出ていった後、ゆっくりと立ち上がる。
「……さて、とりあえず外に出るか。"瞬転"」
一晩眠り、ご飯を食べて力が回復した俺は瞬転を使い、命蓮寺の外に飛んだ。
水姫とウィルが既に準備万端で待機していた。
「来やがりましたか」
「遅れてすまない。柚希ねぇと挨拶したか?」
「はい。ちゃんと挨拶しましたわ」
「ならいい」
「もう行かれるのですね」
後ろにいた聖さんがそう言った。
「はい。一晩、お世話になりました」
「いえいえ。よろしかったまた来て下さい」
「……その時はまたお願いします。それではまた」
「またお会いしましょう」
「お元気で!」
俺達は次の目的地である太陽の畑へ向かって歩き出した。