第45話 夢と朝とまだ見ぬ猛者
真夜中の一騎打ちから戻ると、やはり時間が時間だったので誰も起きていなかった。
柚希ねぇの能力で、静かに部屋へ戻る。
「じゃあさっさと布団に入って寝るとするかな」
「あ、響ちゃん」
「なんだ?」
「私、朝になったら一旦別行動するから」
「……何故?」
「やらなきゃいけない事があるからね。奴らの現状とかなんとか」
「わかった。でも朝飯まではいろよな」
「はーい。んじゃ、お休みなさーい」
「おやすみ」
柚希ねぇは笑顔で襖を閉めて、水姫とウィルの居る部屋へ入っていった。
柚希ねぇはやはり幼いところがある。
はしゃぎ方といい、会話中といい……。
どっちが年上なんだか……。
そんな事を考えながら布団へと入る。
「しかし、今日は色々とあったな……仇の影武者、柚希ねぇ登場、本来の俺……」
影武者があれだけ強いなら、本体もきっと強いんだろう。
柚希ねぇがやってきたのは早かったな……。
そして本来の俺って…………どんだけの力があるのだろう。
柚希ねぇを倒せるレベルって予想がつかない。
「自分がわからないって………結構怖いな」
それだけ呟き、俺は眠りに落ちた。
「…………ん?」
目が覚めると、景色が変わっていた。
周囲には何もなくて、ただタイル張りの床が続く。
外の世界で社長が使いそうな机に向かって俺は大きめの椅子に座っている。
真っ正面にも同じ机と椅子があった。
「……ここは?」
「ココハ"精神世界"サ」
いきなり声が響く。
それと同時に真っ正面の椅子に赤い俺が現れた。
「……お前か。狂介」
「"僕"ハ"狂介"ジャナクテ"響介"ダヨ」
「元はフランの狂気だろ」
「ソノ"思考"ハ"間違イ"。"僕"ハ"フラン"ノ"狂気"ヲ"拝借"シタ"響介"ダ」
「なんか雰囲気変わったな」
「"君"ト"合体"シタコトデ"口調"トカ"思考能力"トカ"色々"ト"変化"シタンダ」
「へぇ。そんなもんか」
「"僕"モ"驚キ"ダッタケドネ。マサカココマデ"変化"スルナンテ"予想外"ダッタ」
「で、なんか用があるんだろう?」
俺がそう言うと、狂介は頷いた。
「マァ……"簡単"ニ"言ウ"ト"フラン"ノ"狂気"ヲ"全部拝借"スル"許可"ガ"欲シク"テネ」
「拝借だと後で返さないといけないが?」
「……ジャア"吸収"?」
「全部吸収したらお前……暴走するんじゃないか?」
「"暴走"ハ、ナイト"思ウ"。"一応、君"ヨリハ"力ノ制御"ガ"出来ル"シ。ソレニ"一回"デ"全部吸収"スル"訳"ジャナイ。"必要最低限ノ力"ヲ"必要ナ時"ニ"吸収"スルノサ」
「なるほど……」
「ツイデニ"言ウ"ケド、"最終決戦ト思ワレル戦イ"ガ"近々"アルダロウ?」
「あぁ、ヤツらとの戦いの事か」
「"フラン"ノ"狂気"ヲ"全テ吸収"スレバ"力ノ底上ゲ"ニハナル」
「なら一応吸収は許可しよう。ただし少しずつにしろよ」
「ソレデモ……"君"ノ"勝利"ハ……ナイ」
「……なるべく力をつけないといけない……修業だよな」
「"君ノ修業"ニピッタリナ"対戦兼修業ノ相手"ヲ"見ツケダシタ"」
「準備良すぎだろ………とりあえず聞こうか」
「ワカッタ。"紅魔ノ館"ノ"門番"ト"図書館ノ主"」
「寝てた人とパチュリー……だったっけな」
「"妖怪ノ山"ノ"マスコミ"」
「射命丸か」
「"有頂天ニ住ム天人"ト"災イヲ告ゲル竜宮ノ使イ"」
「天子と依玖だな」
「コレデ"全部"サ。"正直ナ話"ヲスルト"君"ナラ"数日"デ"終ワル"ダロウネ」
狂介は俺を指さして言った。
その顔はとても真剣。
俺の事を真剣に考えていたのだろう。
「わかった………ん? あれ?」
俺はそこである事に気がついた。
俺は紅魔館の門番の事なんて知らない。
何故、狂介が知っているのだろうか?
「なんでお前、俺の知らない事知っているんだ?」
「サテ、"何故"ダロウネ。"正直"、モウ"理由"ハ"言ッタ"ヨ?」
「今までの会話を遡れと…………」
「ソウトハ"言ッテ"ナインダケドネ」
俺は顎に手を当て会話を可能な限り遡る。
「……わからねぇ」
「ダロウネ。ワカル"訳"ガナイカラ」
「そんな問題出すなよ」
「トリアエズ"解答"ヲ"発表"スルト……"狂気"ダヨ」
「は? 狂気は関係ないだろう?」
「"フラン"カラ"抜キ取ッタ"……ッテ"言エバ"ワカルヨネ」
「もしかしてフランと共にあったから狂気にフランの記憶のようなものが記録されているのか……?」
「"正解"。タダ、"流石ニ全テ"ハ"記録"サレテイルワケジャナイ。"紅魔ノ館"ニ"住ンテイル時"ダケダヨ」
「しかし、狂気は気だぞ? 記憶されるなんて聞いた事がない……」
「"普通"ナラネ。"君"ハ"魂刔"デ"フラン"カラ"狂気"ヲ"刔リ出シタ"………ソノ"時"ニ"記憶"ヲ"抜イタ"ンダト"思ウ"」
「フランの記憶は抜かれたのか………?」
「ソレハナイ。"君"ハ"魂"カラ"抜イタ"。"記憶"ガ"残ル"ノハ"脳"ダ。ダカラソコハ"問題ナイ"」
「よかった……」
俺は少し安堵感に包まれた。
「"結構、会話"ガ"混雑"シテキタネ」
「誰のせいだよ……」
「"僕"ダネ。ソコラヘンハ"理解出来テル"」
「で、こっからどうすんだ? 他に用事が無いのなら、俺は帰るぞ」
「"最後"ニ"一ツ"ダケ」
「なんだ?」
「"頑張レヨ"」
「……了解。じゃあな」
俺は椅子から立ち上がり、狂介に背中を向けて歩き出す。
「バイバイ」
狂介の言葉を聞いてすぐに周りが真っ暗になった。
「うん…………ん?」
朝の光が当たり、俺は目が覚めた。
体を起こそうとすると、何かに捕まれて動けない。
「な、なんだ……?」
「ふみゅぅ………まだ眠いぃ……」
俺が布団をめくると柚希ねぇが入っていた。
「はぁ…………柚希ねぇ。起きろ、朝だぞ」
「……あと5分ぐらい寝かせてぇ……」
「なんでだよ」
「……だってぇ…………昨日、遅くまで頑張ってたから眠いのぉ……」
「俺も遅くまで起きてたのに…………後でまた起こすから寝てていいぞ」
「はぁーい…………んんっ…………」
柚希ねぇは俺への拘束を解き、代わりに枕を抱きしめ、また眠りについたようだ。
俺も意外と甘いのかもな。
立ち上がり襖を開ける。
「さて、今日も頑張るか」
水姫とウィルが廊下を歩いてこちらに向かってきた。
「おや、起きやがりましたか。おはようございます。主」
「おはようございます、響介様」
「あぁ、おはよう」
「早速ですが主。山姫様を知りませんか?」
「柚希ねぇ? 俺の布団で寝てるが……」
「……なんで主の部屋にいやがるのでしょうか」
「きっと寝ぼけてたんだろう。柚希ねぇは意外と眠気に弱いからな」
「「…………」」
二人はじぃっ、と俺を見つめる。
「とりあえず言っておくが、何もないぞ」
「ならいいです」
「なら構いません」
「なんなんだよ一体」
「ところで、朝食まであと一時間ぐらいあるそうですが」
「なら、少し体を動かすか」
「お付き合いします」
「私は神代様を見ていますわね」
俺達は朝食の時間まで、軽く体を動かした。
《side out》
一面に向日葵の咲く花畑の中に傘をさしている一人の女性が立っていた。
その手には新聞があり、彼女はそれを読んでいる。
「……あの博麗の巫女と魔理沙のコンビがたった一人の外来人に倒された。その外来人は幻想郷行脚中……ふぅん」
彼女は新聞から目を離し、空を見上げ、
「………その外来人、私を楽しませてくれるかしら?」
小さく呟いた後、彼女は日課である花の世話を始めた。
《side out》