第43話 柚希ねぇの秘密
俺はなんとか人生の危機を乗り越えた。
夕飯をご馳走になり、お風呂に入って、部屋に戻ってきたところ。
なのに若干疲れている。
何故なら風呂の時に結構、問題があった。
柚希ねぇが脱衣所、及び風呂場に飛び込んで来たのだ。
水姫とウィルに番人を頼んでえいてお陰で防げたのでよかったが、力の使えない状態で柚希ねぇの相手は絶対に無理。
最悪の場合は人生は破綻していた。
二回目の危機を乗り越えた俺は緑茶を飲んで、安堵の息をつく。
俺の隣に座るのは柚希ねぇ。
水姫とウィルは隣の部屋で布団を敷いているのでいない。
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが」
「もうっ。響ちゃんはつれないんだから」
隣に座る柚希ねぇは右の頬を膨らませて言った。
「やるにしてもちゃんとした前提、準備を双方でするべきだ。夜這いとか許さないからな? 寝てる最中にやるのなんて論外。まぁ、俺には"呪われた因子"があるからやる気にはならないだろうがな」
「"呪われた因子"? ………もしかして"古"の名を持つ種族の遺伝子?」
「あぁ。この因子、下手したら生まれてくる者は人非らざる姿になる。そんな事は絶対にあってはならない」
「そうなの?」
「あぁ。色々あるんだ」
「まぁ、私には関係ないけどね」
柚希ねぇはあっさりとそう言った。
「何故?」
「伊達に山姫をやってないわよ。神様の力で人間の姿にする事なんてたやすいわ。水姫ちゃんが証拠よ」
「人格とか言語はどうするつもりだ?」
「そこらへんはみっっっちりと教えるわよ。人格が曲がったら無理矢理矯正するし」
「それ……俺が絶対に止めるからな?」
「まぁ冗談よ。響ちゃんとイチャラブしながらゆっくりネットリ育てるから安心してね?」
柚希ねぇは両手を頬に当ててクネクネしながら言う。
頭の中はきっと凄く楽しい楽園なんだな。
「山姫様。寝る準備が出来ました」
「うん。ありがとー」
「それじゃ、ちゃんと向こうで寝ろよ?」
「えぇー……一緒に寝ようよー……」
「柚希ねぇはもう大人だろ? だから向こうで寝てくれ」
「むー…………はーい」
柚希ねぇは渋々部屋に向かっていった。
「神代様の方がお姉さんのはずなのに、響介様の方が上に見えますわ……」
「………わかっててもいっちゃあかんです。ウィル殿」
二人の会話は聞かなかった事にしよう。
「じゃあ早く寝なよ」
「「「は〜い」」」
三人は襖を閉めて部屋をでていった。
「………ふぅ。少し月を見てから寝るかな」
俺は外へ出て空を見上げる。
山から降りてくる涼しい風が俺の全身を包んだ。
「少しは柚希ねぇも我慢とか遠慮してほしいよな……」
ボソッと呟き、ゆっくりと深呼吸をする。
「………さて、仕事を始めるか」
俺は歩き出した。目的地は………。
大量の四角い石が綺麗に並んでいる。
ここは命蓮寺の墓場。
俺がここに来た理由は簡単。
「さっき来た時に感じた事を調べないといけないよな……」
命蓮寺に来た時に墓地の方から違和感を感じた事が気になってここに来たのだ。
とりあえず墓地の真ん中に立ち、周囲を見渡す。
一見すると何もないように見える。
「だが………見方を変えると……」
俺は体中を巡っている霊力、妖力、魔力、神力、念力を全て目に集中させてみる。
すると世界の見え方が変わってきた。
地面から歪んでいるオーラが漏れでているのだ。
「強大な力が封じられているのか……?」
俺は下を向いて呟く。
目に様々な力を篭めてみても、全ては見通せない。
「でも封印が解けかかって力が漏れてる………調べるのは封印が解けてからでいいか」
俺は墓場を抜けて、部屋へと戻る道を歩く。
「ん? 君は誰?」
いきなり後ろから声が聞こえた。
その声の主を確かめるべく、後ろを向く。
するとそこには赤と青の変わった形をした翼を3枚ずつ持つ少女がいた。
「……ここで世話になっている風戸響介だ」
「あぁ、君が聖がここに泊めているっていう外来人なんだ。……私は封獣ぬえ。ここに暮らしてる妖怪さ。……でも響介はご飯の時にはいなかったよね? なんで?」
ぬえと名乗る少女は首を傾げる。
そういや少女の頼み事を聞いて外に行ってたからここの人とは顔を合わせていない。
「少し野暮用でな。外に行ってたから夕飯の時間をずらしてあったんだよ」
「ふ〜ん。で、墓場で何をしてたの?」
「夜の空気を吸いに……とか言って信じるか?」
「ないね。明らかに空気を吸いに来た雰囲気じゃないし、墓場の空気を吸うのは物好きにも程があるよ」
「まぁ、少し空間の異常を感知してな。それを調べに来たのさ」
「ならいいや。早めに部屋へ戻りなよ」
ぬえはそう言って、どこかへ飛んでいってしまった。
何がしたかったんだろ……。
「さて、部屋に戻……!?」
いきなり命蓮寺の外から力を感じた。
しかもすぐ近くの森から。
「この距離になるまで気がつかなかっただと……? とりあえず行ってみるか」
俺は部屋には戻らず、全ての力を隠して命蓮寺の外へ飛び出した。
するとそこには、斬り倒された無数の木と……
「はぁ……はぁ……」
息を切らせながらふらつく足でなんとか立っている柚希ねぇだった。
柚希ねぇは様々な所に傷を負い、服は所々破けている。
(柚希ねぇ!? こんな時間に何を!?)
「ははは………辛いなぁ……。またコテンパンにやられちゃったよ……」
柚希ねぇは絞り出した声で言った。
その向かい側にいるのは金髪混じりの青髪をした男。
両手両足の前面には不思議な鎧を身につけていた。
顔は木の枝が影になって全く見えない。
「流石は……響ちゃんの"コピー"……だね」
(俺の……コピー!?)
柚希ねぇは絞り出した声で確かにそう言った。
(どういう事だ……? 俺はあんな風貌をしてたか?)
「とりあえず今日のところは帰ろうかな……? 寝てないと響ちゃんに怒られそうだし…………」
柚希ねぇはそう言って、傷を負った部分を撫でる。
なんと柚希ねぇが撫でたところの傷は全て跡形もなく消えてしまった。
なんという治癒力というか特殊能力。
次に柚希ねぇは軽く指を鳴らした。
すると俺のコピーと呼ばれた男は消え去ってしまう。
もう何がなんだかわからなくなってきた。
「……で、そこの木の裏にいるのは誰?」
いきなり柚希ねぇが声を発する。
どうやら俺の事らしい。
「俺だよ。柚希ねぇ」
「きょ、響ちゃん!? なんでこんなところにいるの!?」
「それはこっちの台詞だ。しかも何をしていた?」
「え……えっと……その…………」
「俺のコピーとか聞こえたんだが説明してもらえるか?」
「……うぅ……あの……」
俺が言葉を放つ度に柚希ねぇは少しずつ態度が弱々しくなっていく。
こんな状況は初めてだ。
「別に怒る訳じゃない。ただ説明してほしいだけだ」
「………本当に怒らないよね? 嘘じゃないよね?」
「あぁ。怒りはしない」
「……わかったよ……。全部……話すよ」
弱々しくなった柚希ねぇは決心したらしく、話し始めた。