第42話 神代柚希との対話
聖さんに柚希ねぇも宿泊していいかと問うたところ……
「あ、構いませんよ? 来る者は余程の悪者じゃない限り拒まみませんから」
と笑顔で言われた。
「で、あっさり宿泊許可が出たわけだが」
「良い人だね、聖白蓮さん」
「あ、ちなみに俺は一人部屋だからな? ウィル、水姫、柚希ねぇは広めの部屋にしてもらった」
「「「え?」」」
全員が何故? という表情を表した。
「流石に女3人の中に俺が寝るのはマズいだろう。だから別にしてもらった」
「え〜……響ちゃんと一緒に寝たいなぁ……」
「流石に我慢しような? 柚希ねぇ」
「主の部屋は何処ですか?」
「隣だな。襖を開ければ俺がいるから何か用があるなら襖を開けてくれ」
「わかりました」
俺は隣の部屋に入る。
そして座布団を敷いて床に座ると
「響ちゃ〜ん!!」
いきなり柚希ねぇが空間に穴を開けて飛び込んできた。
「向こうに戻ろうか」
「やぁ〜ん♪」
俺はその柚希ねぇを巴投げする。
そして空間に穴を開けて隣の部屋に入れた。
ドサッ
すぐに襖が開いて柚希ねぇが入ってくる。
「響ちゃんに投げられちゃったわねぇ」
「全く……わざと投げられてるだろ」
「あ、バレた?」
「柚希ねぇは俺より強いんだから。しかもやられた時の声がおかしかったからな」
「久々に響ちゃんに会えて嬉しいんだもん♪ コミュニケーションだよね?」
「コミュニケーションっていうのか……? はぁ……」
俺は溜息をついて寝転び、天井を見上げる。
その行程を見た柚希ねぇは言葉を発した。
「響ちゃんには何か悩みでもあるのかな?」
「……よくわかったな」
「響ちゃんの周りの空間が少し揺らいでるから」
「空間の揺らぎ?」
「昔から響ちゃんは悩むと周りの空間が少し揺らぐんだよ。私は空間に敏感だからわかっちゃうんだよね」
「多分、力が少し漏れだして空間が揺らぐのかもな」
「私でよければ悩み事を聞こうか?」
柚希ねぇは俺の横に座り笑顔で言った。
彼女はとある山の神様のような存在で、困っている人をすぐに助けたくなってしまういい人なのだ。
「………柚希ねぇはあの山で長い間、色々な事を見てきたよな? そこらへんの知識から知りたい事がある」
「うん。何かな?」
「日常は人によってそれぞれで…………平和に過ごす日常もあるし、戦いの絶えない日常もある。俺は昔の日常を嫌い、変えようと思った。そして努力して今の平穏な日常を得た。他の生き物でも日常を変えたいと思う事はあるのか?」
「その質問は難しいね。自分のした事は長い歴史の中で正しかったのか、同じ事を思った人がいるのか……それが気になるんだ? クスクス♪ 相変わらず一番聞きたい事は遠回しなのね?」
「二言程多いが、そういう事になる」
「まずは響ちゃんがした事は正しいか間違ってるかを答えるけど……その事に関しては答えは無いのよ。何が正しくて何が悪いのかは神様だってわからないわ。あ、ちなみに犯罪とかは確実に悪いからね?」
「わかっているから言わなくていい」
「それで響ちゃんと同じ事を考えた人がいるかどうかだけど……確実にいるわ。世界史だと革命を起こした人は大体そうね。日本史だと幕府起こした人とかが該当するの。自らの日常を変えようとした人もいれば、他人の日常が変わって幸せになればと願って行動を起こした人もいるわ」
柚希ねぇは様々な例えを出しながら説明を続けていく。
「平和を続けるのは簡単だけど平和から闘争、闘争から平和へと日常を変えるのは難しい。だから変えようと思っても実行するのは相当、力がないと無理ね。でもその変化を実現した人はいるわ。戦国時代から江戸時代がわかりやすいわね」
「ただ、これだけは言える。人が日常を大きく変えるにはそれ相応の力が必要。人の力を借りて、死に物狂いで努力したりしてやっと成せるのよ。歴史がその事を証明しているわ。一人の日常を変えるには多くの人が関わらないといけない」
「ふむ………で、結論は?」
「それは自分で出すものでしょ? 私は響ちゃんにヒントを出すだけよ」
「……そうか。その答を見つけるのも旅の目的にしておこうかな」
「うん。頑張ってね?」
柚希ねぇはそう言って立ち上がり、俺の上に座る。
…………アレ?
「なぁ、なんで柚希ねぇは俺の上に乗ってるんだ?」
「え? 悩みを聞いてあげたから報酬を貰おうかなぁって思ったから」
「真面目になったと思ったらすぐこれか……」
「不真面目と真面目を上手く使い分けると見知った相手を油断させる事が出来るの。これは戦いでも使われるから覚えなさい?」
「まぁ俺は使わないがな」
「戦う相手が使ってくるかもしれないから気をつけてねって事よ」
「はいはい。わかりましたわかりました」
「返事は一回で十分だよ?」
柚希ねぇは笑顔で俺の頬を引っ張ってきた。
結構痛い。
「は、はい。わかりました」
「うむ。よろしい♪ ではお悩み相談の報酬の方を頂くとしましょうか」
「………は?」
「今回の報酬は…………響ちゃんの"ていs」
「言わせねぇよ!!」
「"を貰いまーす♪ さぁ、覚悟してね? 私は激しいから♪」
「瞬転!!」
俺は逃げるために瞬転を使おうとした。
しかし発動しない、
「……何故?」
「今の響ちゃんは瞬転を使う力も無いのよ。さっき落ちてたでしょ?」
「……そうだった」
「と、いうわけで逃げ場は無いよ?」
俺は柚希ねぇのやましい報酬を狙った襲撃を回避しようと必死に頭を回転させるが全然回避策が出てこない。
乗ってる柚希ねぇを退かして、体勢を直すのは出来るがそこからが問題だ。
格闘戦を仕掛ければひっくり返され、組み伏せられて俺の人生は終了のお知らせ。
距離を取って逃げようにも空間転移、及び飛行は不可能だから脱出不可能。
かなり切羽つまってる感覚だ……いや、リアルにつまってるわ。
「今、必死に回避策を練ってるでしょ? この状態を脱出する方法は一つしかないわね。私に愛を誓えばいいのよ」
「流石に誓えないな」
「なんでよ?」
「愛を誓ったら誓ったでその後、"響ちゃんは承諾したから早速もらうね?"とか言って変わらない気がする」
「…………ヒュ〜♪」
柚希ねぇは口笛を吹いてごまかそうとしている。
その時、襖が開いた。
そこにいたのは
「あら? 何をしているんですか?」
聖さんだった。
「あ、聖さん。これは寝技の特訓でね? 力も使えない響ちゃんが相手にマウントポジションを取られたらどうするのか試してるんだよ」
柚希ねぇは言葉を巧みに使い、これがやましい報酬狙いの襲撃だと悟られないようにした。
柚希ねぇは話術も長けていて俺には真似出来ない。
「あら、そうですか。もう少しでお風呂ですので沸いたら呼びに来ますね?」
「は〜い」
聖さんはそう言って出ていってしまった。
「ふふっ♪ さて、どうしてあげようかしら?」
「最後の一手は難しいな…………この一手にかけるか」
「ん?」
「水姫!! ウィル!! 少し来てくれ!!」
そう言うと襖が軽快な音をたてて開く。
そこには水姫とウィルがたっていた。
「主、どうかされましたか………って山姫様。何をされてやがりますか。主の上からおどき下さいませ」
「響介様。呼びまし…………あー!! 神代様!! 抜け駆けは許しませんよ!!」
二人は俺の予想通りの動きで柚希ねぇをマウントポジションからどけてくれようとしてくれる。
「えー。いいじゃない。ただ響ちゃんの初めてを貰おうとしただけじゃない」
「駄目!! 響介の初めては私が貰うの!!」
「というか主の意見も無しに奪うのは流石に駄目な気がしますよ。山姫様」
この後、俺はしばらく女三人の壮絶な争いを柚希ねぇの下で聞く事になった。