第41話 山姫様颯爽登場
「輝夜……? もしかして昔話に出てたカグヤ姫だったりしてな」
俺は握手を交わして、冗談のつもりでそう言った。
すると
「あら、よくわかったわね」
当たり前のような反応が返ってきた。
嘘をついているような目をしていないので真実だろう。
「本人かよ」
「ご本人よ」
「でもカグヤ姫は月に帰ったんじゃないんですか?」
ウィルはよくありそうな疑問をぶつけた。
「一緒に迎えに来た永琳と結託して逃げたわ。月はとてつもなく退屈だし」
「色々と凄い生活してそうだけどな。月って」
「主、それは今度聞きやがって下さい。そろそろ戻らないといけません」
「ん、あぁ。そういやそうだったな」
俺は水姫の一言で本来の目的を思い出す。
「じゃあ俺はそろそろ帰るから、その娘を頼む」
「わかったわ。響介はまた此処に運ばれないように」
「善処する」
俺はウィルと水姫の手を掴み、瞬転を発動。
迷いの竹林出口を目指して飛んだ。
転移してすぐに視界に入ったものがあった。
「雲……?」
目の前に巨大な雲があったのだ。
俺は確か迷いの竹林出口を目指したはずだが……。
「き、響介……? なんでこんなところに飛んだの……?」
ウィルはスカートを押さえながら言い、
「流石にこれだけ高いと肌寒いですな」
水姫は少し体を震わせた。
「あー。二人ともすまん。迷いの竹林の空間が若干歪んでたみたいで空間の座標軸がズレたみたいだ」
「簡単にまとめやがり下さい。5文字で」
「ミスったわ」
「流石は響介だね。ってか響介助けてー!! 落ちるからぁー!!」
ウィルは口調が変わりながら落ちていく。
俺も水姫も落ちてるが。
「俺も落ちるから気にするな。このまま落下して下を確認したいし」
「主、せめて落下速度を落としてやったらどうですか?」
「まぁそうだな」
俺は水姫に言われた事を実行した。
ウィルの落下速度は緩やかになる。
俺と水姫も速度を合わせた。
「で、主。下の方はどうですか?」
「あれは命蓮寺か。命蓮寺の真上にいるみたいだな。落ちても大丈夫そうだ」
「このまま転移しては? ってか転移して下さい」
「お前……時々、俺の意見を無視するよな」
「危険よりも安全を選んだだけです」
「まぁ飛ぶからな。瞬転」
俺は瞬転を発動した……はずだが出来なかった。
「どうかされました? 主」
「……悪い。今、瞬転使えないわ」
「な、何故ですか?」
「戦いで力消耗して瞬転に必要な分、さっき使っちまったから……もうすぐ念も使えなくなるかも……」
「どんだけ消耗しやがりましたんですか……」
「9分の8ぐらいは消耗した。で残り10分の1だな……」
「落ちたらただじゃすみませんよ!?」
「とりあえず水姫はウィルを抱えてやってくれ」
「わかりました」
水姫はウィルを肩に担いだ。
何故お姫様抱っこをしないんだろうか……。
「残ってる力でなんとか二人だけ飛ばせるから、先に命蓮寺に飛ばすぞ」
「響介様は?」
「落ちてもなんとかなるさ。じゃ」
俺は水姫とウィルを命蓮寺に飛ばした。
そしてすぐに浮遊する事が出来なくなり、落ち始める。
見た感じ、地面までは5000メートルかな?
流石に無事じゃ済まないだろうなぁ……。
「相変わらず自分を犠牲にするんだね、響介は」
「まぁそうだな………あの二人には生きてほしいし……」
「でも、響介はこんなところで死にたくないでしょ?」
「まだやり残した事、多いからなぁ……ってか誰だよ」
俺は自然な流れで会話していたが、普通はこんな高さに人はいないはず。
なんとか力を使い、滞空して周囲を見渡すと一つの雲から声が聞こえた。
「本当は新月に会う予定だったけど………響ちゃんの危機にいてもたってもいられなくなっちゃって飛んできちゃった」
雲を突き破って出てきたのは上半身は霊夢の巫女服の袖を無くして半袖にした感じの服とロングスカートを身につけ、濃い水色の長髪で金色の瞳を持った女性だ。
俺は姿を確認すると力が尽きて、また落ち始めた。
その女性は落ちる俺の手を掴み、落下を阻止してくれる。
その姿と声を聞いた瞬間、頭に言葉が浮かんだ。
「師匠……?」
「そうよ。……でもそろそろ仮の記憶を消して、戻してあげるわ」
師匠は俺の額に人差し指を当てて、軽く押された。
すると師匠……いや、神代柚希との記憶が蘇る。
「柚希ねぇ……って呼ぶんだよな」
「そうよ? 約束だものね、響ちゃん」
「で、柚希ねぇ。こっからどうするんだ?」
「このままお姫様抱っこして降りたら恥ずかしいでしょ?」
「まぁな。瞬転が出来たら楽なんだが……」
「じゃあ一緒に落ちましょうか♪」
「え?」
「私、あんまり飛ぶの上手くないから落ちていく方が楽でしょ?」
柚希ねぇは俺の手を握り、落ち始めた。
「な、何を……」
「『ワームホール』!!」
柚希ねぇが言葉を発すると同時に前方に黒い穴が開かれる。
その先には命蓮寺が見えた。
「空間同士の最短距離を繋ぐ穴か」
「そういう事。流石、響ちゃんね」
笑顔で言われても困る。
そしてすぐにワームホールに入った。
そして目の前に広がるのは命蓮寺の門。
その前に立つ水姫とウィル。
「響介様!!」
「主!!」
二人はこちらに向かって駆け寄ろうとしたが足を止めた。
「響介様……? その隣の方は?」
「何故、手を繋いでやがりますか」
「ん? まぁ俺の落下を止めてくれたんだよ。で、この人は……」
「響ちゃんの妻をやってる………神代柚希です」
はい嘘きたー。
しかも赤面させる演技付き。
「柚希ねぇは嘘をつかない。二人は俺にキツイ視線をぶつけない」
「響ちゃんは相変わらずノリ悪いなぁ……」
「まぁ本当の事を言うと、この人は神代柚希。戦い方を教えてくれた俺の師匠だな」
「うん。あと水姫ちゃん、久しぶりだねぇー」
「久しぶり……? どこかでお会いしましたか?」
「あ、あの時は声を変えてたね。少し待って…………」
柚希ねぇは少し喉に触れた。
そして声を発する。
「私の森に住む可愛い鼬の子、水姫よ………また会えた事を私は嬉しく思いますよ?」
声が明らかに違った。
さっきは活発的な女子高生みたいな感じだったが、今は慈悲深い大人のシスターっぽい感じの声だ。
その声を聞いた水姫は物凄い速さでひざまずいた。
「山姫様!! お久しぶりです!!」
「あ、思い出してくれた? やっぱり水姫は良い子だなぁ」
「……お褒めにあずかり光栄です」
「水姫……どういう事だ?」
「主の隣にいるお方は私に人の姿を与えて下さり、主に使える命を下さった私の住む山の護り神、山姫様なのです」
「柚希ねぇってそんな偉かったんだな」
「そうよ? 私はこれでも偉いんだから」
柚希ねぇは腰に両手を当て、胸を張って言った。
「さて……命蓮寺に入るか」
「ねぇ響ちゃん。私も入って大丈夫かな?」
「大丈夫だろ」
「響介様……話についていけない私はどうしたら……」
「後でゆっくり教えてやるから」
俺は水姫、ウィル、そして柚希ねぇを連れて命蓮寺に入った。