第4話 新たな仲間
気がつくと日が昇っていた。
「……ん、朝か……」
俺は身体を起こして伸びをした。
そして傷を見るため視線を下に向けた。
しかしまた異変があった。
「昨日の傷大丈夫かな? ……あれ? 傷が……無い」
傷が綺麗サッパリ消えているのだ。
服は破けているものの、身体に傷跡は全く無い。
そして頭の中に一つの単語が浮かんだ。
「……自己再生? 再生速度、早過ぎないか?」
俺は疑問を持ったが、それを否定する言葉が見つからなかった。
「まぁ……便利だから良いか……とりあえず今日は歩いて付近を探索してみよう」
俺は気をとり直して周辺を歩き出した。
人里を少し離れ、初めて目が覚めた森の中へと入った。
ここに来た理由……それは
「なんか鞄とか無いのかな?」
ただ忘れ物が無いか探すためだ。
もし忘れ物があったら記憶を取り戻すきっかけになるかもしれない。
そう思って実行しているのだ。
「まぁ、探す範囲も小さいから楽だし……」
俺はそのまましばらく探していた。
今はちょうど日が真上に見える時間帯だ。
俺はあれからしばらくは、諦めなかった。
しかしその努力は実らず、記憶に引っ掛かる物は見つからなかった。
あるのは犬か何かが埋めた骨、茸、木の実ぐらいだ。
「はぁ……結局何も見つからないのか……ん? あれってもしかして……」
俺は諦めて地面に仰向けになった。
そして上を見ると鞄らしきものが枝に引っ掛かっていたのだ。
しかしその枝が高いところにある。
高さをわかりやすく言うなら俺の身長(173cm)の約3倍だ。
「こういう時はどうするか……」
俺は考え込んだ。
自らの3倍の高さにある物を取る方法を見つけるために。
そしてすぐに見つかった。
「……念動力か」
そう、念動力。
念じれば簡単に使える技で、効果はルーミアで実証済み。
ならば使おうじゃないか!
俺は鞄に向かって手を翳して念じた。
("あの高いところにある鞄を取りたい")
そう念じると手が緑色に輝き、鞄のふちも輝いた。
そして鞄が枝から外れて俺の元へ来た。
「……思い出せない記憶に関する事があると良いな……」
俺はそう呟き、鞄を開けた。
すると中から何かが飛び出してきた!!
しかしその何かは攻撃するわけではなく、俺に擦り寄ってきた。
「くすぐったいな……ん? 鼬? って確か…水……姫?」
俺は靄のかかった記憶の一部が晴れるのを感じた。
この鼬は水姫。
俺のペットだ。
以前に怪我していた水姫を保護して、看病したところ……凄く懐かれた。
そんな記憶が蘇った。
しかし水姫はそんな俺を余所に、どこかへと走っていった。
そんな時、俺は一つの案を思いついたのだが……
「ん? もしかして水姫に聞けば何かわかるんじゃないか? ……まぁ無理か」
あまりにも非現実のため、すぐに諦めた。
そしてほかに何か良い案は無いかと悩んでいた時、
「普通に話せるでございますですよ? 主」
後ろから女性の声が聞こえた。
「え? 誰?」
俺が振り向くと黒髪でポニーテール、変わった和服を着た人がいた。
ついでにかなりのナイスバディと言える。
そしてその女性は驚きの一言を言った。
「私ですよ。私。水姫でございますです」
「み……水姫ぃ!?」
俺はあまりの変わりように大声を出してしまった。
「お前……何があった?」
「何があったって……ただ人間の姿になっただけでござんす」
水姫の敬語……何かおかしいな……。
しかしこの喋り方を聞いていると何故かリラックス出来る。
っと……その前に確認しないとな。
「もしかして水姫って……妖怪だったのか?」
「一応ですけどね。ちなみにこの姿になったのは貴方に初めて会う前以来です」
「妖怪か……特に気にしないけどさ。記憶が戻るまで、サポートを頼む」
「かしこまっちゃいました。主」
そういうわけで水姫が仲間になった。
「うん……特に無いなぁ……」
水姫が仲間になった後、俺は鞄を漁った。
しかし特に良い物は見つからなかった。
残る手がかりは……
「どうかしやがりましたか?主」
水姫だな。
「なぁ、水姫。何か俺に関する情報とか無いか?」
「そうですね……私がわかるのは……許婚がいる事ぐらいです」
「許婚? ……確か名前は…………思い出せない……痛っ」
俺は記憶の靄の中を必死になって探した。
姿は見えたが名前が出てこない。
しかも何故か頭痛がした。
どうやら許婚は思い出したくない記憶に関わっているらしいな……。
「なるほどな……。他には何かあるか?」
「……申し訳なかです。私はもう知らんの事ですたい」
「わかった。まぁ記憶の手がかりが見つかったから良いさ」
俺は優しく水姫にむかってそう言った。
「お役に立てたならよかったです」
水姫は笑顔で言った。
俺はこの笑顔を見て、
(これ、絶対美女と呼べる笑顔だな……)
と思った。
だってかなり輝いているんだから。
……おっと、話がずれた。
まぁ手がかりが見つかったわけだし、今日はぐっすりと寝れそうだ。
「さてと、家に帰…………あっ」
しかし俺は結構、重大な事に気がついた。
「どうしやがりましたか?」
「俺……家持ってないんだった」
そう。家を持ってない事だ。
思い出せば、初日は永遠亭、二日目は野宿だった。
(どうにかして雨風凌げる場所を探すか作らないと……)
俺は雨風を凌ぐ方法を考え始めた。
すると頭の中の靄の一部が晴れた。
そして方法が導き出された。
「……どうするんですか?」
「よし、水姫。ここら辺の良質な木を切って綺麗な丸太を作ってくれ。数は……三十本ぐらいで頼む」
「……はい。かしこまっちゃいました。『双牙』」
俺は流石に無理かな?と思ったが、水姫は『双牙』と呼ぶ二本の小刀を取りだし、構えた。
「主、離れてて下さい。危ないので」
「あ、あぁ」
俺はそのまま下がり、待機した。
「行きます……『迅雷・時雨の型』」
「っ!?」
一瞬、視界が光に包まれ何も見えなくなった。
そして光が消え、水姫の方を見ると刀をしまっている。
「水姫? 何故刀を……」
俺は疑問をぶつけようとした。
しかし言い終わる前に水姫が
「主、木が倒れて来やがりますよ?しっかりと受けとって下さいね」
と言ったので俺は周りを見た。
すると、ギシギシと音を立てて木々が倒れてきた。
しかも全部、俺に向かって。
「くっ!! 人使い荒いなぁ!!」
俺は手を倒れてくる木々に向かって両手を翳す。
そして念じた。
(俺に向かって倒れてくる木々を止めたい)
すると木々はすべて止まった。
俺はそのまま木々を移動させた。
「やっぱりお見事でしちゃいますな。主は」
「ったく……危ないっての。まぁ……良いさ。これで簡単な家が作れる」
俺は簡易的だが、実用的な(はずの)家を作り始めた。
まぁ、いわゆるログハウスみたいなやつだ。
以前に何故かわからないが作った記憶があった。
本当なら時間をかけて木を乾かさないと駄目なのだが、企業機密の方法を使って作っている。
「水姫。ここをくり抜いてくれ」
「了解でしちゃいます。主」
水姫が器用なおかげで進行速度は速いし……今日はなんとかなりそうだ。
俺はそのまま組み立て始めた。
そして気がつくと夜の帳が下りていた。
「ふぅ……とりあえず完成。中々の出来栄えだ」
水姫は扉を開けて中を確認した。
「部屋までありやがるんですね……まさかの裏口までも……」
「まぁ簡易的だが、問題は無いだろ?」
「あとは夕飯ですね。主は朝と昼を抜いていると思われちゃいますので、さっさと作ります。っていうか、もう出来てます」
水姫は川の方へ走って行った。
「ん? あぁ、そうか。悪いな……。それより……なんでもう出来てるんだ?」
俺はその後を疑問を持ちながら歩いてついていった。
ちなみに、川は家の目と鼻の先。
ってか家の裏口を開けたら、目の前だ。
人里も近いし、利便性重視だね。